◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第130回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第130回
第7章──焦点 09
捜査機関が作成した多くの書類。「検視調書」には被害者の遺体写真も……。

「漂白」目次


 類型証拠として検察官に開示請求した証拠のリストと開示された証拠とを突き合わせて漏れがないかを確認し、実際に開示された証拠、該当する証拠なしと回答されたものについてはそれに合わせてリストを修正する。類型証拠開示請求と並行して交付を請求していた検察官保管の証拠一覧表とも突き合わせる。この作業は志鶴が自ら買って出ていた。一人では大変な作業だが、三浦のおかげで覚悟していたよりずっと時間と労力が軽減された。

 検証した証拠は、相弁護人である都築賢造、田口司ともクラウド上で共有している証拠リストのデータに概略、評価などのコメント欄を各人分設けていた。証拠リストを更新し、三浦のコメント欄も追加して、書き込むよう頼んだ。

 志鶴は、二件目の事件について、被害者の発見後から捜査機関によって作成される書類等に時系列に沿って目を通しはじめた。

 まず最初は「110番通報受理状況報告書」。綿貫絵里香の両親から行方不明者として娘の捜索願が出された日の翌二月二十一日早朝、警視庁本部の通信指令センターが受理した通報の内容が電話聴取書の形式で記録されている。通報者は、足立区内の荒川河川敷で「女の子が死んでる」のを見つけたと語っていた。受理台を担当する警察官は通報者の氏名や現在地等を訊いた。同時に、通話を傍受していた指令台の担当官はGPSを使ったカーロケーションシステムで現場付近を巡回しているパトカーを特定し、現場へ向かい、通報者から事象を把握するよう警察無線で命じた。

 パトカーで現場に駆けつけた足立南署交通課の警察官が作成したのが「変死体等発見報告書」だ。死体発見の通報をした人物の名前や住所及び職業、発見の日時や場所、発見状況等が記されている。現場と死体については手描きの略図も付されていた。

 発見者は友人女性と連れ立ってウォーキングをしていた近隣在住の七十代の無職女性。死体は河川敷の道路から分岐した短い通路の奥の方、向かって右端の辺りに頭を川側に仰向けに倒れていた。制服姿から女子学生と思われた。腹部周辺の衣服に血痕のような染みが広がっていた。布の一部が脱色されたように変色し、遺体の皮膚の一部に火傷をしたような変色が見られた。警察官は犯罪死体と判断した。

 犯罪死体が発見されると警察官は警察署長に速やかに連絡するよう検視規則で定められている。警察署長もその上の警察本部長に連絡することとなっている。管轄する地方検察庁にも通知しなければならない。検察官の権限に属する検視を行うためだ。この段階で検察の事件担当事務官が「変死体発見受理報告書」を作成する。警察から変死体等発見報告書を受理した状況と、それに対する指揮の状況等が記される。

 通常の事件では所轄署の刑事などが検視を代行することもあるが、綿貫絵里香の事件では検察官が自ら臨場して警察医立会いの下、検視を行った。東京地検刑事部に所属する捜査検事・岩切正剛(いわきりせいごう)。取調べで増山から綿貫絵里香の殺害について虚偽自白を引きずり出したやり手の検察官だ。志鶴は岩切が作成した「検視調書」を手に取った。

 
里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第129回
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第131回