◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第204回

DNA型鑑定を行った遠藤に弁護側が尋問する。志鶴にはある狙いがあった。
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公判前整理手続で綿貫絵里香の膣内から採取された精液のDNA型鑑定書の証拠採用を請求したが、検察側から不同意とされ、鑑定書を作成した遠藤が証人尋問されることになった。今度は志鶴が主尋問に立つ。
「すでに遠藤証人の氏名、所属、資格、経歴等については先ほどの尋問で明らかになっておりますので省略します。あなたが令和×年三月二日に行ったDNA型鑑定についてお訊ねします。どのように採取された試料か教えてください」
「綿貫絵里香さんのご遺体の司法解剖を担当された医師が、綿貫さんの体内から採取したものです」
「綿貫さんの体内の、具体的にはどの部分ですか」
「──膣内です」
傍聴席がざわついた。
「どのように採取されましたか?」
「綿棒で採取されました」
「その後はどのように保管されましたか?」
「滅菌バッグに封入され、いったん足立南署の証拠品係の冷蔵庫に保管されました。その後、検体輸送箱に入れられ、警視庁科捜研内のDNA型検査専用施設へ持ち込まれました」
「その後のDNA型鑑定の作業を教えてください。まず作業を行ったのは誰ですか」
「私です」
「DNA型鑑定に先立って行った作業があれば教えてください」
「綿棒の一部を切り取って精液の予備検査を行いました」
「ここで証人が作成した鑑定書を示します──」志鶴は精液の予備検査について記載された部分を法廷カメラの下に置いた。
「精液の予備検査はどのように行うのでしょう?」
「SMテストというものを行います。まず綿棒の一部を切り取ります。そこに二種類の試薬を混ぜて希釈したものを滴下、つまり垂らします」遠藤の証言は鑑定書の記載と一致している。「すると鮮やかな紫色に変わりました」
「その意味は何でしょう?」
「アゾ色素が生成されたということで、つまり精液の予備検査は陽性と判定できます」
「綿貫さんの膣内から採取された試料は精液と判定されたわけですね。その他にDNA鑑定に先立って行った作業があれば教えてください」
「確認検査を行いました」
「それはどんな検査ですか」
「顕微鏡を使っての目視と写真撮影です」
「証人が証言した部分の画像を示します」志鶴は、精液を顕微鏡で拡大した、複数の精子が確認できる写真画像を法廷に示した。画像の下には「Oppits法による発色 400倍」というキャプションがあった。
「結果はどうでしたか」
「目視でも精液の存在が確認できました」
「その後はどうなりましたか」
「DNA型鑑定の作業に入りました」
志鶴は、先ほどの主尋問で青葉がしたのと同様に、それが適正な環境下で適正な機器・器具・薬剤により実施されたことを証言させようとした。
「DNA型鑑定の一連の作業が行われた場所はどこですか?」
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