◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第25回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第25回
第二章──窒息 01
一夜明けても広がる容疑者逮捕の衝撃──テレビには弁護士のコメンテーターが……。

 キャスターの言葉に、天宮がうなずく。

『そうしたものがきちんと規制されていないことも大問題ですね。海外なら児童ポルノですよ。この国には、少女を性的に消費する表現物が、目を覆いたくなるほど氾濫しています。アニメや漫画もそうです。フランスの友人が家族で日本を訪れた際、秋葉原の街を歩いていたら、十歳の娘さんが恐ろしくなり、目をふさいで泣き出してしまったと嘆いていました。少女をポルノとして描いた絵がそこら中にあふれていて、周囲にいる男性がみんな、チャイルド・マレスター──児童性虐待者のように感じて戦慄したというんですね。その話を聞いても、残念ながら私は驚きませんでした。いわゆる、萌(も)え絵と呼ばれるような絵柄で表現される少女たちの描写は、多くの先進国ではわいせつ画とみなされる極めて性的なもので、対象とされる少女を明確に加害するものです。たとえば、児童ポルノを厳しく取り締まっているカナダでは、秋葉原で公然と売られている漫画のほとんどは違法な物として刑事罰の対象になるんじゃないでしょうか』

『なるほど。そうした背景が、今度のような事件を育む土壌になっている、と』

『それは間違いありません。日本の通勤通学電車での痴漢のことを話すと、欧米の友人はみなショックを受けるんですね。被害を受けた女性にとってレイプそのものと言っていい凶悪な性暴力が日常的に野放しにされているなんて、信じられないほど野蛮な国だと。日本は性犯罪に甘すぎる。セクハラのほとんどが権力者によるものであるように、性犯罪は、男性優位な社会における男性の権力が背景にあります。女性が被害者である場合に、「疑わしきは被告人の利益に」という原則どおりに法律を運用しても、女性にとっての正義が実現されることはない──そう問題提起するフェミニストの法学者もいるくらいです。この国のほとんどの男性の、正常とは言いがたい性的嗜好(しこう)が矯正されない限り、十四歳の少女が醜い欲望の毒牙にかかる、このようなおぞましい事件がなくなることはないでしょう。これ以上の犠牲を防ぐためにも、少女を性的に搾取する表現物を監視・規制する第三者機関を一刻も早く設立するべきだと私は考えます。さもないと、国際社会からも、いつまで経(た)っても人権後進国であるとみなされる恥ずべき現状に甘んじるしかないと断言いたします』

(つづく)
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里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。