◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第32回

被疑者の頭のなかにある情報を、できるだけ早く正確に聞き出すために──。
増山は非常に重要な話をしている。志鶴はきちんとメモに残した。
「だから……行ってない、って答えちゃったんだよね。噓ついた俺も悪かったのかもしれないけど──ビビるじゃん。二人目に殺された子が、星栄中のソフトボール部って知ったときは俺だってびっくりしたよ。でもそんなの偶然じゃん。まさか警察で、試合観(み)に行ったかなんて訊かれるとは思わないし。パニクってつい、行ってないって──」
助けを求めるようにこちらを見たので、志鶴は黙ってうなずいた。
「そしたら、刑事が、パソコンでビデオ映像を見せてきた。ソフトボールの試合の録画で……俺、撮られてた」
増山のこめかみの辺りに、汗の粒が浮かんでいるのが見えた。
「警察も汚えよな。証拠あるんだったら、隠さず最初から言ってくれって。さすがにあれ見せられたら、否定できないじゃん。認めるしかないって。だから、すみません、本当は行きました、って答えたら、今度は、『なぜ噓ついたの』、ってしつこく訊かれはじめた。『何か後ろめたいことがあるんじゃないの?』って。いやそうじゃなくて、つい……って答えても納得してくれないし、そのうち『他にも隠してることがあるんでしょ?』とか言ってくるし。だんだんこっちも、否定し続けるの、疲れてくるじゃん。どんだけ違うって言っても信じてくれないんだから、本当のこと言っても無駄だっていう気持ちになって。そのうち刑事が、『知ってたんだよね、絵里香さんのこと?』って言ったとき、うなずいちまった。すぐに打ち消そうとしたけど、もう聞いてくれなくて……だんだんこっちもめんどくさくなって、『死体、捨てたのあなただよね?』って質問にも、はい、って言っちゃった──」
大きく息を吐いた。
「どうしよう……俺、やってないのに」目が潤んでいる。顔を上げた。「俺──どうしたらいい?」
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