◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第42回

検事調べのようすを嬉々として語る増山。志鶴の目の前は一気に暗くなる。
「検事調べで何があったか、教えてください」
「……言っちゃったんだよね、俺が黙秘するって? 検事さんにいきなりそう言われてビビったんだけど」
「自白を強要させないための注意です」
「検事さん、?るかと思ったけど、黙秘をしたいならそれでもいい、って。ただ、十六年前のことを思い出してほしい、あのときの検事が俺を不起訴にしたのは、俺が正直に話して罪を認めたからだ、って。黙秘権は認めるけど、検察官としては、俺の話をしっかり聞いてからじゃないと、起訴するかどうか決めるのは難しい──俺が本当に犯人じゃないのか、それとも真犯人が噓をついているのか、俺の弁解を聞いて判断したい、きちんと裏付けを取るためにも、俺の言い分も大事な判断材料だ、って」
増山の話をさえぎりたい気持ちをこらえる。
「当たり前だけど、無実の人間を起訴したい検察官なんていない。俺の話を聞いて、真犯人だと思ったら起訴するけど、無実だと思ったらしない。黙秘したままでも起訴しようと思えばできる。できるけど、自分としては、できるだけ真実を追求したいから、被疑者に正直に話してもらいたいんだ、って。それに、もし俺が無実なら、自分がやってないことをちゃんと説明して、警察に裏付け捜査をさせた方が得なんじゃないかって。検事さんも、実際に、逮捕したあとアリバイを主張した被疑者がいて、警察に調べさせたら本当で、釈放したことがあるってさ──」
目の前が暗くなってくる。
「あとこんなことも言ってた……起訴猶予処分するには、被疑者が自白しているかどうかが重要だ、被疑者が自白してないと、よほど特別な事情がないと起訴猶予にはできないって」
増山はそこで言葉を切った。
「……それからどうしたんですか?」志鶴は水を向けた。
「それで──そういうわけだから、俺としては増山さんの言い分を聞かせてほしい、って。だから、俺、自分はやってないです、って言った」
「黙秘は、しなかったんですね?」感情を表に出さないよう努める。
「だって、黙秘したら、不起訴になんかしてもらえないじゃん」増山は小鼻をふくらませた。
「……増山さんは、どんなことを検察官に話したんですか」