◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第7回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第7回
第一章──自白 02
いつもと変わらぬ家族との朝食。テレビではある未解決事件が特集されている。

 被害者はどちらも中学二年生だった。この春三年生になる杏と同学年だ。犯罪行為を憎む気持ちを抑えるのは難しい。

 ワイドショーでは、亡くなった二人が、もし生きていれば今頃、中学二年生として最後の学期を迎えていたはずだった、と、視聴者の情に訴えかける映像とナレーションを流していた。

 そのあと、スタジオに画面が切り替わると、犯罪心理学者の肩書きを持つ中年男性のコメンテーターによる、犯人像のプロファイリングが行われた。

『あくまで、現時点での報道によって得られる情報に基づいて、という前提になってしまうことを、あらかじめお断りしておきます。まず、リンク分析というものによって、共通する犯罪手口などから、二件の事件が同一犯による犯行であると推定できます。この点を前提にすると、犯罪発生地点の分布に、犯罪パターン理論というものが適用できると思います。簡単に言いますと、これは、ほとんどの犯罪者は、犯行場所を行き当たりばったりに選んでいるわけではなく、自分にとってある程度慣れ親しんでいる地域を選択している、という理論です』

『それは、いわゆる、土地鑑(とちかん)、というものでしょうか?』パーソナリティの女性が訊ねた。

『はい』犯罪心理学者がうなずく。『人はそれぞれ、個人的な経験から、自分だけの地図を作っていきます。ふだんその人が日常的に訪れる場所と、その場所を訪れるルートによって構成される活動空間、それに、一度も訪れたことはなくても、テレビなどでよく目にして知っている場所も含まれます。この地図の範囲を、意識空間、と呼びますが、犯罪というのは、犯罪者の意識空間に、犯罪者が適当とみなした犯行対象の存在が重なり合う場所で起こることが多いのです。今おっしゃられた土地鑑、というものを、プロファイリングの視点から説明すると、そのようになります』

 犯罪心理学者は、彼の言葉が簡潔にまとめられたフリップボードを示した。

『つまり、この二件の死体遺棄事件が同一犯によって行われた犯行と考えると、犯人は二件の現場の近くに住んでいる、ということですか?』

 パーソナリティがわかりやすくまとめようとする。

『それが単純に近いとも言い切れないんですね』と犯罪心理学者。『プロファイリングの世界には「円仮説」というモデルがあります。犯行領域内、つまり、複数の犯行地点のうち、一番距離が遠い二点が内側に含まれる円の中に、犯人の住居がある、という仮説です。別の言い方をすると、「拠点犯行型」と言います』

 犯罪心理学者は、新しいフリップボードを前に出した。「円仮説」「拠点犯行型」「通勤犯行型」というキーワードが目を引いた。

『この場合ですと、犯人は二つの現場近くに住んでいる、と考えられます。一方、「拠点犯行型」と並ぶ概念として、「通勤犯行型」というものがあります。犯行領域は犯人の居住地から離れた場所にあり、犯人はまるで通勤するようにそこへたびたび訪れている、というパターン。実際の事件を参考にすると、確率としては前者が高い。しかし、後者の可能性も否定することは、現段階ではできません』

『なるほど。離れた場所に住んでいたとしても、犯行現場付近は、犯人にとって、たとえば通勤先のように土地鑑がありえる、ということですね』

『おっしゃるとおりです』

『では、プロファイリングから浮かび上がる犯人像は?』

『はい。犯人像は以下のように推定できます』

(つづく)
 
里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。

◎編集者コラム◎ 『わが心のジェニファー』浅田次郎
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