◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第84回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第84回
第六章──目撃 02
犯人はここで中学生を強姦し、殺した。志鶴が遺棄現場を調べていると……。

 志鶴たちが立っているのは舗装された幅の広い道で、草が生えた斜面を下った先にまた舗装道路が並行して走っている。その先には土をならした広場のような空間が広がり、護岸で川に接していた。

 まだ寒さが解けきっていないからだろうか、学校は春休みのはずだが見える範囲に人は少なかった。自転車に乗っている人が数人と犬の散歩をしている人、数人のランナー、広場でキャッチボールをしている二人の少年、それくらいだ。

 左手に目を向けた。広場の向かって左の端は、生け垣のように立ち並ぶ灌木(かんぼく)が区切りになっており、その向こうには水門からの排水路が川へと走っていた。舗装道路は手前でこの排水路を越えてさらに先へと延びており、道沿いには複数の野球グラウンドが広がっていた。

 その景色もカメラに収めた。

「あそこだね」森元が、灌木の茂みを見て言った。

 遺体遺棄現場については、現場で引き当たりをさせられた増山に地図を見せながら話を聞き、遺体発見後や増山の引き当たりを捉えたニュース映像でも確認してあった。随時撮影をしながら近づくと、灌木が二列になっているのがはっきりわかった。舗装道路から右手、川の方へ向かって分岐した舗装路が直角に延びており、灌木はその道路を挟んで左右に平行に茂っているのだ。

 分岐した道は、十メートルほど先で終わっている。その周りを、細長いコの字型を描いて、二メートルくらいの高さの灌木が壁のように囲んでいた。一体何のために作られた道路なのだろう。見当がつかなかった。

 どん詰まりとなった分岐路の手前には、花束やぬいぐるみや清涼飲料のボトルなどが置かれていた。事件の凄惨さを物語る痕跡は見当たらないが、間違いない、ここが死体遺棄現場だ。

 志鶴と森元は、どちらともなく両手を合わせ、こうべを垂れた。

「じゃ、始めよっか」森元が言った。

「お願いします」

 分岐路の内外を念入りに撮影したあと、志鶴と森元は、メジャーを使って分岐路の幅と奥行き、灌木の高さを測った。参考になるよう、志鶴が灌木と並んで立ったところも画像に収める。さらに森元が、クリップボードに挟んだ紙にフリーハンドで寸法入りの見取り図を描いた。

「灌木の間にススキみたいな植物もびっしり生えてるから、この道の中って外からは死角ですよね」志鶴は言った。「まして日が落ちたあとなら」

「それも書いておくね」森元はそう言ってペンを動かした。のちに証拠化するための手控えだ。

「でも、風は通るのか」

 もう三月も終わりだが、寒の戻りで今日は気温が低かった。風も冷たい。綿貫絵里香の事件が起きたのは、二月。もっと寒かったはずだ。彼女は殺害される前に性被害を受けていた。警察が増山にそう自白を強いたので間違いないだろう。時間帯は彼女が学校を出た夕方から遺体で発見される翌朝までの間。気温は確実に低かったはずだ。真犯人は寒空の下で彼女を強姦(ごうかん)し、殺したということになる。

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里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。