◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第95回

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第95回
第六章──目撃 13
もたらされた有力な情報。ただ弁護士には警察のような捜査力が……。

「トキオ。カタカナで。LINEとインスタブックの名前。それしか知らないって萌愛が」

 みくるも言ったとおり、中学生との性交渉は地方自治体が定める淫行条例に抵触し刑罰も科されうる。本名ではないだろうが重要な手がかりだ。

 だが疑問も残る。

 重要な証拠となる浅見萌愛のスマホは、彼女を殺した真犯人が現場から持ち去ったとみるべきだ。しかし警察はすぐ携帯キャリア会社に当たって、萌愛の通話通信履歴は調べたはずだ。もし彼女がトキオと通話していれば、彼の番号も記録に残っているに違いない。捜査機関は彼の存在を知っていて被疑者から外したのか。

 LINEのやり取りも同様に運営会社に照会すれば連絡を取った相手の情報がわかるはず。ただ、志鶴は別の事件の調査で知ったのだが、LINEのデータの保存期間は最長で三年間。初動捜査で警察は携帯キャリアには間違いなく当たったはずだが、LINEを調べなかった可能性もある。

「萌愛さんはその男とセックスしたって言ったよね。どこでしたとか、そういう話はしてない?」

「車の中」

「車……トキオという人の車かな」

「うん。大っきな車って言ってた。後ろに道具とかも積んであるけど、空いてる場所でやったって」

「道具……サーフィンの?」

「てか何か仕事の道具っぽいって萌愛言ってた。けど詳しくはわかんない」

「車の種類とか、色とかは?」

 みくるは眉根を寄せた。「……聞いてない」

「ナンバーとかは……さすがにわからないか」

「あ」みくるが目を見開いた。「言ってた……読めない漢字だって」

「──ナンバーの漢字が難しかった、ってこと?」

「うん」

 役に立つだろうか? 

「そのトキオって人、どこに住んでるかとかは萌愛さんに話してなかったのかな」

「千葉。千葉から来たって」

 有力な情報だ。

「他には何か……?」

「……そんくらい。あのさ……捕まえられるかな? 川村さん、言ったじゃん、真犯人見つけるって。トキオってやつ、見つけられる?」

 三人いた女子の中で、一番存在感が薄く、自己主張も弱そうだったみくるの目に、強い光が浮かんでいた。

「できる限り調べる。約束はできないけど」慎重に答えた。

「なんだ……」みくるがうなだれる。

里見 蘭(さとみ・らん)

1969年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2004年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。08年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。主な著書は、『さよなら、ベイビー』『ミリオンセラーガール』『ギャラリスト』『大神兄弟探偵社』『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』『天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和』など。

◎編集者コラム◎ 『鴨川食堂もてなし』柏井 壽
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