第14回「上流階級 富久丸百貨店外商部 其の三」高殿 円
弁護士を見つけなければ。
静緒はまず、旧友に会う約束をした。
お歳暮の手配を終え、事務方にリストを回すだけでもなかなかの分量。成人式を迎えられるお子さんのための、オーダーメイドのお着物が仕上がってくる季節でもある。着物はある程度の体型や体重の増減に合わせやすいが、それでも発注してからの半年で極端に変わってしまったお客様には、急いで対応する。写真の日取り、着付けとヘアメイクの手配。成人式は一大イベントであるので、ほかの課からの応援も来る。そのアシスタントとのうち合わせ。などなどをしているうちに、あっというまに時間が経つ。
しかし、どんなに忙しくとも、今日は雨傘君斗に会わねばならない。NIMAさんの代理人選定は急務であり、彼の紹介に期待したいところだ。
苦楽園のさらに上、昔さる富豪が迎賓館として建てた洋館を改装したレストランで会うことになった。プライベートなのでタクシーで向かう。このあたりは仕事で何度も訪れているが、ディナーでこのレストランを訪れるのははじめてだった。夜景がきれいだと聞いているので少し心がはずんだ。
時間どおりに行くと、もう君斗はテーブルについていた。ラフなコーデュロイのジャケット姿なのはいつもどおり。桝家が見たら、もう少し企業のオーナーらしくみてくれにお金をかけたらいいのに、と言われること必至な気取らない格好である。それでも、彼にしてみたらジャケットを着ているだけでもだいぶかしこまっているのだ。普段は店のポロシャツにジーンズにスニーカー。たぶん、家のクローゼットも十年単位で同じものが揃っている。
「おー、静緒、元気してた?」
「元気元気。わりと。私は」
「どしたん。あ、コースもう頼んでおいたけど」
「ありがとう。好き嫌いは特にないよ。なんでも食べるし飲む。まだとんかつも食べられる」
「若いねえ」
そんな気の置けない会話とともに、ソムリエがワインをすすめに来て、静緒がなにも言わないうちに君斗がシャンパンを頼み、六甲サイドから街を見下ろす最高の夜景にうっとりしているうちにオードブルがやってきた。
「店のほう、どう?」
「うん。最中(もなか)がいい感じ」
「あの最中の皮の中にバタークリームと薄いチョコラスクがはさんであるやつ?」
「そうそう。静緒が言ったとおり、最中の皮がいい。あれ、一個ずつ買って食べても手が汚れないからスタンドとかでも売れるんだよ。夏はアイスにできるし」
「だよねえ。やっぱり女子高生とか女子中学生とかがリピートしてくれるものが流行るよ」
「北海道カマンベールチーズとか、瀬戸内ゆずバターとか、ご当地と組めそう」
「うわー、それもいいな」
「よくあんなの思いついたね。最中の皮とか」
「いや、だってランチパックが売れてるやん。ランチパックのたまごも鉄板だけど、具を変えたら永久に新商品出せるでしょ」
「なるほど、元ネタはランチパックか」
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神戸市生まれ。2000年に『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。『トッカン―特別国税徴収官』『上流階級』はドラマ化され話題に。ほか『政略結婚』など著書多数。