▽▷△超短編!大どんでん返し▼▶︎▲ 伽古屋圭市「籠城 オブ・ザ・デッド」

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第23話
伽古屋圭市
「籠城 オブ・ザ・デッド」

「ふぅ……。これだけ出入口を塞げば、やつらもしばらく入ってこられないですよね」

「せやな。まあ、根本的な解決にはならんけどな」

「……とにかく、いまは生き延びることを考えましょう」

「わこぉてる。とりあえず座ろか。こんなけ机やら椅子やら運んだら疲れてもぉたわ」

「はぁ……。なんで、こんなことになったんでしょうね。なんでゾンビなんてものが突然発生したんでしょうね」

「そんなもん、わしらが考えてもわかるかいや」

「そうですけど、世界中で感染がこれほど爆発的にひろがるなんて、誰も予想できませんでしたよね」

「ほんま。最初にニュースで見たときは冗談かと思たで。それから一週間も経たんうちに、自分の身に降りかかってくるとはな」

「安藤さんのご家族も?」

「全員、感染や」

「ゾンビ化、ですか……。ご愁傷さまです」

「いまの状況ではしゃあないやろ。わしだけでもいまだに生き延びてること自体、奇跡みたいなもんや。それよりな、わしはずっと疑問に思てることがあんねん」

「なんでしょう」

「その『ゾンビ』って呼び方や。それはあくまで俗称やろ。正式名称、言えるか?」

「たしかTSSSSでしたっけ。って、これも略称ですね。地名と、なんとかかんとか症候群で」

「せや。せやけど略称でもティーエスエスエスエスなんて誰が呼ぶねん。Sかぶりすぎやろ。舌噛むわ。どうせならうまいこと調整して5Sにしろや。さらに略したTSSが主流やけど、大衆はもっと直感的なネーミングを求めとんねん」

「ですね。だから結局みんな『ゾンビ』って呼ぶようになりましたもんね。だって皮膚が緑みを帯びて、しかもところどころ爛れて、見た目はまんまゾンビですし」

「せやねん。そもそも間違いはそこやったと思うねや。政府が最初にもっと呼びやすい名前を付けるべきやった。ミドリちゃんとか」

「ちゃん付けはおかしくないですか」

「ミドリさん?」

「いや、敬称はいらないでしょ。で、なんでゾンビ呼びが問題なんですか」

「そこや。たしかに見た目はゾンビっぽいけど、それ以外は違うところも多いやろ」

「そうですね。死者がよみがえったりはしませんしね。あと、異常に生命力が増しますけど、不死ではないですし。あ、映画のゾンビも不死とはかぎらないのかな」

「ほかにもTSSとゾンビは違うとこだらけやろ。せやけど呼び方と見た目のせいで、虚構のゾンビと混同するようになってしもた。それはやっぱり、間違いやったと思う」

「なるほど。おっしゃりたいことがわかってきました」

「それにわしはな、昔からずっと疑問やったんや。ゾンビ映画とかを見てて」

「というと?」

「たとえば、死者からよみがえったゾンビがおるとするやん。そういうやつらをぶちのめすのは、ええと思うねや。もともと死んどるからな。人権もないやろし」

「まあ、そうですね」

「せやけど、ゾンビに噛まれたりしてゾンビ化するやつもおるやん。TSSはそんなことせえへんけど」

「接触感染ではあるようですけど、噛みはしませんね」

「話戻すけど。映画とかやと、そうやってゾンビ化した人間も躊躇なくぶちのめすやん。それはおかしないか、と。ゾンビになったかて、生きとるわけや。人間なわけや。言ってみりゃ、はしかに罹ったようなもんや。仮に、不治の病やったとしても、病気に罹ったからってぶち殺してええ道理はないやろ。おかしないか?」

「たしかに。人道的見地からは問題ですよね。襲ってくるから仕方なく、って部分はあるんでしょうけど」

「いや、そんなことないで。直接襲われてへんでも、平気で撃ち殺したり轢き殺したりしてるであいつら」

「映画やゲームだと、そういう派手さも必要ですし」

「でも、結局見た目で判断してるってことやろ。見た目が気持ち悪いゾンビやったら殺してもええって、観客も思ってるってことや」

「それは、真理かもしれません。──あ、扉の向こうが騒がしくなってきました」

「そうか。わしらももう、終わりかもしれんな」

「結局、僕らゾンビは人間に駆逐される運命なんですよね……」

伽古屋圭市(かこや・けいいち)

1972年大阪府生まれ。第8回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞した『パチプロ・コード』(文庫化にあたり『パチンコと暗号の追跡ゲーム』に改題)で二2010年にデビュー。近著に『ねんねこ書房謎解き帖 文豪の尋ね人』『冥土ごはん 洋食店 幽明軒』などがある。

原田マハ『風神雷神 Juppiter, Aeolus』(上・下)
思い出の味 ◈ 武田綾乃