▽▷△超短編!大どんでん返し▼▶︎▲ 曽根圭介「尋問」

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第29話
曽根圭介
「尋問」

 市内在住の落合美由紀さん(23)が行方不明になっている事件で、落合さんの婚約者とも連絡が取れなくなっていることがわかった。警察は何らかの事情を知っているとみて、三十代男性から話を聞いている。男性は過去に二度、落合さんに対するストーカー行為で警察から警告を受けていた。捜査関係者によると、男性は関与を否定しているという。

 もはや彼は、私がどんな質問を投げかけても、親の仇を見るような目で睨み返してくるだけだった。意地でも答えるものかとばかりに、奥歯を食いしばり口を真一文字に引き結んでいる。

「そんな目で見ないでくれよ」私は努めて穏やかに言った。「しつこいと思ってるんだろうけど、それは私も同じだ。でも君が答えてくれるまで、何度でも同じことを尋ねるしかないんだよ」

 彼は、不貞腐れたようにそっぽを向いた。まるで駄々っ子だ。

「黙っていたら、いつまで経っても終わらないよ。君、知ってるんだろ。彼女がどこにいるか」

 無言。かれこれ三十分、彼は一声も発していなかった。ただ額には脂汗が浮き、唇はからからに乾いている。精神的に追い詰められていることは間違いない。

「言っちゃいなよ。そうすれば楽になるから」

 彼はまぶたを閉じた。そして自己暗示でもかけるかのように、口の中で何やらブツブツとつぶやき始めた。まだ降参するつもりはないらしい。

 正直、ここまで抵抗するとは私にも想定外だった。彼のようなプライドが高いエリートは、高圧的に責めれば反発してかたくなになる。そう考えてソフトに接してきたのだが、作戦ミスだったかもしれない。

 彼の職業は経営コンサルタントだった。三十歳にして自分の名を冠した事務所を構え、大学で教鞭もとっている。経歴も申し分なく、東京大学を卒業後、アメリカの大学でMBAを取得、その後、外資系の金融や投資会社で腕を磨いて二年前に独立した。身長一七八センチ、すらりとした体形で、顔立ちもまあイケメンの範疇に入るだろう。愛車はフェラーリ、自宅はタワーマンション。地位、金、ルックス、三拍子そろった彼なら女なんかより取り見取りだろうに、どうして彼女にそこまでこだわる?

 腕時計に目をやると、午後十時を回っていた。彼は相変わらず目を閉じてマントラを唱えている。持久戦に持ち込めば、私があきらめるとでも思っているのだろうか。だとしたら、私に対する認識を改める必要がある。

 彼のズボンの尻ポケットから、スマートフォンがわずかに頭を出していた。素早くそれを抜き取り、彼の左の親指をあててロックを解除する。目を開けた彼が投げてくる抗議の視線を感じながら、私はスマホの画面に親指を滑らせた。画像フォルダーには、彼女の写真が大量に保存されている。連絡先にも〝落合美由紀〟の名前があった。彼女はつい先日、長年住み慣れたアパートを引き払い、携帯会社も変えていた。新しい携帯番号や転居先は、ごく近しい人間にも伝えていない。警察にそうするよう助言されたからだ。彼のスマホに登録されていたのは、古い携帯番号と住所だった。しかし彼のことだから、ぜったいに知っているはずだ。

「いい写真だね。いつ撮ったの?」

「…………」

「じゃあせめて、これだけでも教えてくれないか。彼女は、元気だよね」

 答えなし。

 あくまでも白を切るつもりらしい。その男気は買うが、私の我慢にも限界がある。

 私は、自宅から持参した金属バットをつかんだ。すると彼は恐怖に顔をゆがませ、口を開いた。

「やめろっ!」

「何だ。ちゃんと声が出せるじゃないか」

 私がバットを構えると、彼は必死に逃げようとした。だが体を椅子に縛り付けられているので身動きは取れない。私はバットで彼のむこうずねを打った。悲鳴。さらにもう一発お見舞いすると、彼はようやく協力的になり、彼女の居所を白状した。

 われわれが今いるのは彼の自宅マンションで、彼女は、ここから歩いて数分のところにあるアパートで暮らしているという。

 私は、彼女を呼び出すよう命じ、彼は素直に従った。

「話したいことがあるんだけど、今から来られる?」

「ええ。すぐに行くわ」

 電話を切ると、急に改悛の情が湧き起こったらしく、彼は「美由紀ごめんっ」と絶叫して泣きじゃくった。いつまで経っても泣きやまないので、私は彼の脳天にバットを振り下ろし、おとなしくさせた。

 さあ、あとは彼女を待つばかりだ。

曽根圭介(そね・けいすけ)

1976年静岡県生まれ。2007年「鼻」で日本ホラー小説大賞短編賞、『沈底魚』で江戸川乱歩賞を受賞。09年「熱帯夜」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。他の著書に『本ボシ』『藁にもすがる獣たち』『黒い波紋』『腸詰小僧』など。

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