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超短編!大どんでん返しSpecial

第21話
横関 大
「オンライン家族飲み会」


博(父)「……いやあ、なかなか盛り上がったな。せっかくこうして集まったんだから、何か面白いことをやらないか? うーん、そうだな。こういうのはどうだ? それぞれ家族にも話していない秘密の一つや二つ、あるんじゃないか。それをこの場で発表するんだよ」

昌子(母)「面白そうね」

七瀬(妹)「いいじゃん。楽しそう」

博「だろ。誰か立候補する者はいないか」

七瀬「……じゃあ私から。この話は誰にも言ってなかったけど、実は高校んとき、いじめられてたんだよね。クラスのリーダー的存在の子に目をつけられちゃってね。本当キツくてさ。本気で学校辞めたかった。朝、普通に家を出るじゃん。行ってきますとか言って。で、学校には行かないで図書館で一日中時間を潰してたことも何度かあった。二年生のときなんて出席日数ギリギリだったと思うよ。まあ今となっては笑って話せるけどね」

博「そうか。それは辛かったな。でも父さんも母さんも知ってたぞ、それ」

七瀬「えっ?」

博「学校から連絡があったんだよ。おたくの娘さんが無断で休んでるってな。だから引っ越しとかも真剣に考えた。でもお前なら乗り越えてくれるんじゃないか。そう信じてたんだ」

昌子「懐かしいわ。そんなこともあったわね。あの時期は七瀬の好物ばかりを夕食に出してたのよ。あなたが少しでも元気になることを祈って」

七瀬「そうだったの? お兄ちゃん、知ってた?」

僕「……知らなかった」

七瀬「あれ? お兄ちゃん、あまり顔色良くないね。もしかして体調悪いの?」

僕「全然元気だよ」

七瀬「だったらいいけど……」

博「ハハハ。裕一は仕事し過ぎなんだよ。たまには日光を浴びたり適度に体を動かすのも大事だぞ」

僕「……うん」

博「じゃあ次は俺でいいよな。実はな、父さんは二十年くらい前に一度会社を馘になったことがあるんだ。裕一が中学生、七瀬が小学生の頃だったかな。あのときは焦ったよ。毎月の家賃を払うのも大変だった。いっそのこと死んでしまおうか。そう思ったのも一度や二度のことじゃない。実際に寝室の梁にロープを巻きつけてみたりもした」

僕・昌子・七瀬「……」

博「でも何とか踏みとどまった。せめて子供たちが大学を卒業するまではどうにかしなきゃと思ってな。俺はハローワークに通いつめて、半年後に何とか今の会社に就職できたんだ。どうだ? さすがにこの秘密には驚いたんじゃないか」

昌子「知ってたわよ、私は」

博「嘘だろ。母さん、そんな素振りは一切……」

昌子「本当よ。役所から住民税の支払通知が届いたの。ずっと給与天引きされていたはずなのに、おかしいなと思った。それでお父さんを尾行して、公園で菓子パンを食べてる姿を見て、私は確信したの。この人、会社を馘になったんだなって」

博「……」

昌子「家計も大変だったんだから。火の車どころじゃなかった。仕方ないから私は働きに出ることにした。もう時効だから言っちゃうけど、人妻専門のスナックで働いてたの。結構いいお金になったわね。夜に家を抜け出す口実を考えるのに苦労したけど」

博「……すまん、そんなことも知らずに、俺は……」

昌子「いいのよ、今となっては。それに私の再婚相手、そのときの常連さんだから。人生何があるかわからないわ。私たち家族は今は別々に暮らしているけど、たまにこうして集まって語り合う。そういう家族の形もあるんじゃないかしら」

博「そうだよな……じゃあ気をとり直して最後に裕一、お前の番だ」

僕「僕は特にないかな」

博「おいおい。何か一つくらいあるだろ」

僕「ないんだ、本当に」

七瀬「お兄ちゃんは昔から嘘のつけない性格だったもんね。そういえばお兄ちゃん、少し痩せたでしょ。ちゃんとご飯を食べてるの?」

昌子「そうよ、裕一。しっかりご飯を食べてるの? 夜は眠れているんでしょうね。まさか悪い人たちと……」

博「七瀬も母さんもやめなさい。裕一は仕事の都合でアメリカに行ってるだけなんだからな」

昌子・七瀬「……」

博「おい、裕一。達者で暮らせよ。出てきたら、おっといかん、帰ってきたら四人で飯でも食べよう。じゃあ今日のオンライン家族飲み会はこれでお開きとしようじゃないか」

 

男「囚人番号四百四十八番。終了だ」

僕「はい」

男「いいご家族じゃないか。家族のためにもしっかりと罪を償いなさい。次回のオンライン面会は三ヵ月後だ。予約したいなら予約票に記入するように」

 


横関 大(よこぜき・だい)
1975年静岡県生まれ。武蔵大学人文学部卒。2010年『再会』で第56回江戸川乱歩賞を受賞。著書に、映像化もされた「K2 池袋署刑事課 神崎・黒木」「ルパンの娘」シリーズのほか、『ゴースト・ポリス・ストーリー』『ミス・パーフェクトが行く!』など。最新刊に『忍者に結婚は難しい』。

〈「STORY BOX」2022年8月号掲載〉

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