▽▷△超短編!大どんでん返しSpecial▼▶︎▲ 浅倉秋成「イズカからユウトへ」

第5話
浅倉秋成
「イズカからユウトへ」
【イズカじゃなくてシズカへ(笑)】
メール読んだよ。てかなんでメール? 普通にスマホのメッセージアプリ使えばよくね……って思ったけど、そういえばシズカはスマホよりパソコンのほうが文字打ちやすいって言ってたな。
てかシズカ、メールだと学校とキャラ違いすぎひん? なんで一人称「アタイ」なんだよ。クソ笑ったよ。
何にしてもシズカが無事でよかったよ。文化祭の準備中で俺も悪い意味でちょっと舞い上がっちゃって、あんなことになっちゃって……。まさか怪我をさせちゃうとは思ってなかったし、急なことで俺も動転しちゃってうまく対処できなくて、本当に悪かったと思ってる。冗談抜きで、めっちゃ心配してたんだよ。文化祭の日も休んじゃってたから顔も合わせられなくて。だからメールもらえて安心した。マジでサンキュ。
それと、告白もありがと。
ついでみたいな言い方になっちゃったけど、率直に嬉しいよ。シズカがこんなに楽しいメール送ってくれるタイプの女の子だったってことも知らなかったし、俺のことそんなふうに思ってくれていたとも知らなかったから、意外だなって気持ちもおっきいけど、やっぱ普通に嬉しい。高校一年のときも同じクラスだったのに、全然知らなかったよ、シズカのこと。メールのきっかけが俺の起こした事故のせいっていうのが申し訳ないんだけど、でも今はこういう巡り合わせに感謝もしてる……ってのは不謹慎だな。でも嬉しいってのはガチだから、そこは信じて。
でもやっぱゴメン。たぶん知ってると思うけど、俺今、2組のリエと付き合ってて、それでやっぱリエのことは裏切れないなって思ってる。シズカの気持ち踏みにじっちゃう形になってマジで申し訳ないけど、告白の返事はNOになっちゃう。
でも本当、メールも、告白も嬉しかったし、シズカとこれまで以上に仲良くなれたらって思ってるのはガチだから、また早く学校に来てよな。俺は全然、気まずいなんて思ってないから、遠慮なくガンガン今まで通りに接して!
んじゃ、また学校で!
【ユウトじゃなくてシュウトより(笑)】
【ユウトくんへ】
メールのお返事ありがとう。
突然のメールで驚いちゃったよね、ゴメンね!
きっとラインで簡単に「メール読んだよ」程度の連絡があるだけだろうって思ってたから、ちゃんとメールで返事が来て結構びっくりだったよ。意外に律儀なんだねユウトくん。アタイ、驚いてるよ。ありがとね。
ユウトくんからのメール、読み上げ機能で全文聞いたけど、まずはやっぱり残念の気持ちが強いな。ユウトくんへのアタイのこの気持ち、やっぱり本物だもん。つきあいたい。本当につきあいたかったんだよ。辛いなぁ……本当に辛いよ。この想い、きちんとユウトくんに伝えられなかったみたいで、本当に辛い。
気持ち伝えるのって、本当に大変だよね。
ところで、小言が言いたいっていうんじゃないんだけど、この間の事故について、ちょっとだけイヤなこと言ってもいいかな? イベントの準備ってやっぱり気が昂ぶるもので、思いも寄らないトラブルが起きちゃうは頷ける。アタイたちまだまだ子供で、いろんなことに配慮ができなくなるときがあるのも、理解できる。
でもね、いくら何でも釘のついてるベニヤ板の扱いには、もうちょっと注意深くあるべきだったとアタイは思うよ。あんな棘まみれのベニヤ板が落ちてきたら、無事じゃいられないって、普通思うじゃん。事故が起きたのに保健委員に報告だけで、痛がるアタイのこと放っておくって、あれはどうかなって思うよ。結構な量の血も出てたんだから、もうちょっとね、気遣ってくれないと。アタイ女の子だよ?
ってことでユウトくん、メールに「また学校で」って書いてくれたけど、ゴメン。学校にはたぶんもう二度と行かない。ていうか、行けないんだよ。
アタイだってね、本当は「アタイ」なんて打ちたくないの。自分の名前が「イズカ」じゃないのだって、君が「ユウト」じゃないのだって、もちろん理解できてるんだよ。
今度はきちんと読み取ってね、アタイの本当の気持ち。
ユウトくん。心から、つきあいたいよ。
どういても、ユウトくんには、アタイとおんなじ目に遭ってほいいの。
だから、憎い憎いお前の目ん玉と、左手のくうり指、
鋭利な鋭利なナイフで、思いっきり、つきあいたい。
【アタナベイズカ】
浅倉秋成(あさくら・あきなり)
一九八九年生まれ。二〇一二年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。著書に『フラッガーの方程式』『失恋覚悟のラウンドアバウト』などがある。最新作は『六人の嘘つきな大学生』。
〈「STORY BOX」2021年8月号掲載〉