スピリチュアル探偵 第6回

スピリチュアル探偵 第6回
元ヨガの美魔女先生にドキリ!
この人、視えてるんじゃ!?


クチコミで広まったヨガ先生の占い

 友人に教えられた住所を頼りに探し当てたのは、そこそこ年季の入った低層マンションでした。1階の集合ポストには何の表札もかかっていなかったので、本当にここで合っているのかとオドオドしながらインターホンを鳴らします。

 すぐに扉がガチャリと開き、「お待ちしてました、どうぞ~」と朗らかに迎え入れてくれたのは、従来の霊能者のイメージを覆すような、スラリとした長身の美女。なるほど、元ヨガのインストラクターらしいプロポーションです。なんだかいつもとは違う意味でドキドキしますな。

 通されたのはリビングのテーブルでした。といっても生活感は皆無なので、ここは住居ではなく、あくまでカウンセリング用のサロンなのでしょう。ちなみに、女性1人でやっているためか、男性客は紹介がないかぎり受け付けないのだと友人が言っていました。これは女性霊能者によくあるパターンです。

「看板も表札も出してないから、わかりにくかったでしょう?」
「いえ、駅から近くて便利な場所ですね」

 おそらくは毎回繰り返しているのであろう、この"つかみ"のトークに付き合いながら、僕は少し雑談に興じることにしました。なぜなら、彼女がヨガからカウンセリング業に乗り換えた経緯に興味があったからです。

「もともとはヨガの先生をやってらしたそうですね」
「そうなんですよ。最初のうちはレッスンも並行して続けていたのだけど、手が回らなくなってしまって」
「それだけ多くのお客さんがついてるってことですよね。すごいなあ」

 いつもよりヨイショ気味なのは、決して美女が相手だからではありません。ええ、決して。

珍しい事前アンケートスタイル

 何でもこの先生、最初は趣味程度に占いじみたことをやっていたのが、ヨガ教室の女性会員を中心に「よく当たる」と評判になり、カウンセリング希望者が急増。ついには独立を決意したのだそう。「1人でも多くの人の悩みを解消したかったので」とはご本人の弁です。

 ちなみに鑑定料は1時間1万円。霊能者としていえば比較的安めの設定と言えます。それでもこうしてオフィスを構えられるのは、相当数の固定客がいる証しであり、俄然、その腕前に期待が高まります。

 ──ところが、いったん雑談に付き合ってしまったのは失策だったようで、なかなか本題に移れません。この先生、実は見た目よりもけっこうご年輩なのだそうで(僕より歳上らしい)、ひとたび話しだすとうちのオカンのようにとめどなく他愛のないトークが溢れ続けます。

 やれ「ヨガ教室を辞めてから体がなまって仕方がない」とか、「寒くなってきたから生姜紅茶を毎日飲んでいる」とか、果ては嵐のファンだからどうだとか……。しゃべってもしゃべっても雑談に終わりは見えず。

 しかし、こちらも遊びではありません。雑談開始から30分近く経った頃、僕はようやくトークの隙間を強引に見つけ出し、こう切り出しました。

「先にお送りしたアンケートって、もう見ていただけましたか?」

 実はこの先生、申込時にカルテのような用紙を配布するスタイルを取っていて、僕も事前に名前や生年月日、職業、血液型など、細かなパーソナル情報を記入した上、メールで送付していたのです。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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