スピリチュアル探偵 第6回

スピリチュアル探偵 第6回
元ヨガの美魔女先生にドキリ!
この人、視えてるんじゃ!?

ようやく始まったセッションに思わずドキリ

 興味深かったのは、その用紙にこれまでに住んだ地域をざっと羅列する欄があったこと。僕のような転勤族の息子にとってはこれがけっこうな手間でしたが、終えてみればなかなか興味深い引っ越しの履歴が仕上がったものです。

 また、最近の悩みや懸念、今後どうなりたいかという希望を書く自由記入欄も。もはや占いというより人生相談に近い気がしますが、およそ霊能者らしからぬこのやり方は、僕にとってむしろ斬新でした。

 ただし、相手の真贋を見極めるのが目的ですから、必要以上に情報を与えることはしません。たとえば職業欄については「自営業」と書くにとどめ、配偶者の欄も「なし」とするだけでバツの有無などは事前に明かしませんでした。

 ヨガ先生は僕の言葉に反応し、すっくと立ち上がると別室からプリントされたA4サイズの用紙を数枚携えて戻ってきました。僕が事前にお送りしたアンケート用紙でしょう。そして、数秒の間それに目を落とすと、おもむろにセッションがスタート。

「ええと、現在は独身ということでよろしいのよね」
「ええ、そうですね」
「前の奥さんとのお別れは辛かった?」
「え」

 人は見かけによらぬもの。アンケートには書かなかった僕の離婚歴が、すでに見抜かれているではありませんか!

「はあ、そうですね。当時はそれなりに寂しい思いをしましたけど」
「まあ、仕方がないわよね。必要なお別れだったと思いましょ」

 懸命にポーカーフェイスを守る僕ですが、なんとも温かいお言葉に、早くも心を開いてしまいそうです。

「浮気ってやっぱり後腐れが残るのよね。どちらにとっても」
「……! そうなんですよ、もう何年も経つのに、いまだモヤモヤとした思いはありますね」

 驚いたことに、かつての妻の不貞までヨガ先生は把握しています。これがヨーガの奥義なのか……!?

「必ずしも相手を嫌いになったから浮気するわけでないから、なおさらなのよね」
「ほんと、その通りだと思います」

 なんだかスルスルと心の中身を引き出されているような奇妙な感覚。当初は紹介者の友人が、僕の離婚歴について事前に話したのかなとも思いましたが、この先生、もしかするともしかするのかも。

先生が手にしていたアンケート用紙は実は……

 これはぜひとも、仕事のことやら健康のことやら、他の分野についてもあれこれ聞いてみたい。思わず身を乗り出そうとすると、ヨガ先生はパラパラと僕のアンケート用紙を眺めながら続けて言いました。

「まあでも、お別れしたあとで後悔しても仕方がないものね」
「そうですね。幸い、後悔も未練もありませんし」
「ちなみに、反省はしてる?」
「ん? まあ、もうちょっと夫婦関係のメンテを頑張るべきでしたよね」

 このあたりから、ちょっと違和感が。

「私くらいの歳になると、男はどうしても遊びたい生き物だって達観しちゃうんだけどね。若い時はまだ理解できないのよ」
「はあ……」
「ただ、過去を振り返っていても仕方がないから、問題は次よ、次。また結婚したい気持ちはあるんでしょう?」
「そうですね、遠くないうちには」
「いいと思う。だから反省を生かして、次はちゃんとしてくださいね」

 そう言ってにっこりと微笑むヨガ先生。もうこれ、完全におかしい。

「あの、先生。離婚の原因は、妻のほうの浮気なんすけど……」

 たまりかねてそう告げると、ヨガ先生はマンガのように目をぱちくり。手元の用紙をまじまじと眺め、小さく「いけない」とつぶやいたのを僕は聞き逃しませんでした。

 そして、そそくさと用紙をまとめると、いったん奥の部屋に引き返し、慌てた様子で別の用紙を持って出てきました。

「ごめんなさい、さっきの忘れて!」

 てへぺろな感じで言われましたが、どうやらこの人、他の人のアンケート用紙と間違えて僕をカウンセリングしていたようです。

「ええと、そうよね。あなたの場合は、えー……あら、自営業って書いてあるけど、お仕事は何をしてらっしゃるの?」

 おいおい、そこからかよ! ヨーガの奥義はどこへやら、急にバタ臭い問答が始まりました。

 これはあとで聞いた話ですが、友人はヨガ先生に僕を紹介する際、「彼は離婚も経験しているし、いろいろ悩んでいるみたいだから見てあげてほしい」と伝えたそう。そこで早合点したヨガ先生は、別の離婚者案件と取り違えたようなのです。なんたるポンコツぶり。

 いったん期待がMAXに達していた僕は、その反動でどっちらけ。ヨガ先生もすっかりペースを崩したようで、早口にあれこれまくし立てるものの、「本を書いて暮らせるなんていいわね~」とか「季節の変わり目だから暖かくしてね」とか、スピリチュアルとは程遠いコメントばかりを繰り返します。

 その後はもう、約束の1時間が経過するまで、消化試合のようなセッションを続けるしかありませんでした。もっとも、1時間のうちの半分くらいは、ヨガ先生の雑談に費やされているのですが……。

 結局、心に残ったのはモヤモヤばかり。さすがに文句の1つも言いたくなりましたが、それでもマイルールの2番目を思い出し、ぐっと堪えてヨガ先生のマンションを後にした僕なのでした。言いっこなしなのは承知でぼやきますが、ああ1万円損した……。

(つづく)
前記事

 


「スピリチュアル探偵」連載アーカイヴ
▶︎第1回 ▶︎第2回 ▶︎第3回 ▶︎第4回 ▶︎第5回 ▶︎第6回 ▶︎第7回 ▶︎第8回 ▶︎第9回 ▶︎第10回 ▶︎第11回 ▶︎第12回 ▶︎第13回


 

友清 哲(ともきよ・さとし)

1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。