今月のイチオシ本【警察小説】

『ジャンヌ Jeanne, the Bystander』
河合莞爾
祥伝社

 警察小説で相棒ものというと、まず警視庁と所轄署の刑事コンビが思い浮かぶ。そこにさらにベテランと新米とか、男と女という要素が加味されコンビキャラが出来上がるわけだが、本書のそれは男=タフガイ刑事と女=殺人ロボット。まさに異色のコンビの登場だ。

 二〇六〇年代の初夏の東京・南青山で大手投資銀行のトレーダーで日系イギリス人の男が家事用人間型ロボットに殺される。現場の邸宅に駆け付けた警視庁刑事部・第一機動捜査隊・特殊係の相崎按人は八歳の娘シェリーの無事を確認すると、無抵抗のロボットを確保した。シェリーはロボットにジャンヌと名付け、なついていたという。

 ジャンヌは警視庁の科捜研に運ばれ、日本の自律行動ロボットの開発統括機関AIDOの調べを受けるが何の異常もなし。その後のジャンヌへの尋問ではしかし、主人を殺したことは認めるが理由は守秘義務によりいえないという。しかも人間に危害を加えてはならないという自律行動ロボット三原則に主人殺しは抵触しないと主張するのだった。

 警察は同型のロボットの製造中止とリース中の筐体の回収を要請するが、AIDO関係者は日本のロボット事業の壊滅につながると反対。結果、メーカーのJE社に移送して分析することに。移送には相崎も同行することになり、同日、JE社の車で会社のある仙台に向かう。だが一行が常磐自動車道の南相馬鹿島SAに差しかかったところで後続の車が追い抜きざまに相崎たちの車を銃撃、一行は窮地に陥る。そのときジャンヌが自分の拘束を解くよう声をかけてくるが……。

 そこから相崎とジャンヌのサバイバル活劇開幕。著者は急激な人口減少に伴うロボット事業の発展や居住地区と非居住地区の分類が進む近未来日本を活写しつつ、それを最大限に生かした謀略譚へと物語をスライド。またジャンヌの主人殺しを通じて、爆発的進化により人間がAIに追い越されるという技術的特異点の問題や、人間とは何かという根源的な問題も追究される。警察小説にSFミステリーの妙が加味された快作だ。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2019年4月号掲載〉
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