今月のイチオシ本 【エンタメ小説】

『跡を消す 特殊清掃専門会社デッドモーニング』
前川ほまれ
ポプラ社 本体1,600円+税

 祖母の葬式で帰郷していた主人公・浅井航は、東京に戻ってきたその足で、祖母を偲んで一杯だけ飲もう、と自宅の最寄駅にある小体な小料理屋に立ち寄る。カウンター席に座り、ビールを飲んでいた航は、常連と思しき男から声をかけられる。「ねえ、それ喪服?」と。

 自分もいつも喪服を着て生活している、と言ったその男・笹川と一緒に飲んで酔っ払った航は、笹川の喪服の袖を吐瀉物で汚してしまう。後日、クリーニングをした喪服を返そうと、もらった名刺を頼りに、笹川の会社である「特殊清掃専門会社デッドモーニング」へと出向いた航は、もし暇なら、少し手伝ってくれないか、と笹川から頼まれる。バイト代は今日中に手渡す、最低でも六千円、働きぶりによっては一万円、と。ただし、うちは特殊清掃専門なので、普通の清掃とは少し違う、と。

 笹川の会社「デッドモーニング」は、「主に孤立死や自殺、時には殺人事件があった場所を清掃する」会社だったのだ。臨時収入が魅力的だったことに加え、孤立死と聞いて、祖母の顔が浮かんだこともあり、航は「大丈夫です。やります」と答え、笹川の助手として"現場"に出向いたのだが……。

 孤立死した老人、遺書を残して命を絶った二十代の会社員、二人で暮らしていたのに、死後二週間、兄に気づいてもらえなかった弟、一年前に事故で死んだ、恋人の遺品に囲まれて暮らす女性、幼い娘と無理心中した母親。死の"跡"が色濃く残る部屋を清掃したり、遺品を整理するその仕事を続けていくうちに、航は気ままなフリーターという自らのことも含め、"生きること"と向き合っていくようになる。

 仕事がらとはいえ、仕事の現場以外は、常に喪服を身につけている笹川、笹川の会社で事務を担当している望月、見てくれはギャルだが、一本筋が通っている、廃棄物収集運搬業者の楓、と、航以外の登場人物たちそれぞれのドラマも読ませる。彼らに向ける優しいまなざしといい、これがデビュー作とは思えないほど。早くも次作が待ち遠しい。

(文/吉田伸子)
〈「STORY BOX」2018年9月号掲載〉