今月のイチオシ本【警察小説】

『東京輪舞』
月村了衛
小学館 本体1,800円+税

 機密保持のため長らく秘密のヴェールに包まれていた公安警察。その実態はしかし、近年徐々に明かされるようになり、逢坂剛の百舌シリーズ以来、小説でも公安ものに挑む作家が増えてきた。本書は警察小説の最前線を往く旗手が満を持して放った「昭和・平成裏面史を『貫通』する公安警察小説」である。

 一九七四年初夏、警視庁大塚署の砂田修作は警備中の田中角栄邸で侵入者を逮捕するものの足首を骨折、入院する羽目に。物語は彼を見舞いに時の総理角栄が直々に病室を訪れる場面から始まる。

 翌年砂田は巡査部長に昇進、警視庁公安部外事第一課五係に配属される。連続企業爆破事件の捜査ののち、八月からはロッキード事件の捜査に関わるが、それは敬愛する田中角栄を追い詰めることになる。砂田たちはアメリカCIAの依頼でヘンリー・ワイズという元ロッキード社社員の捜索を始める。どうやら彼は大きなネタを抱えているようだったが、やがてS(スパイ)のひとりからワイズの潜伏先が判明、江東区の倉庫で彼の娘という少女を確保するのだが……。

 入庁早々、大事件に関わり合うことになる砂田。物語は外事課の対ソ連・ロシア捜査のエキスパートとして知られるようになる彼の軌跡を軸に、東芝COCOM違反、ソ連の崩壊、オウム真理教事件等々、昭和・平成の世を騒がせた事件や出来事の真相が暴き出されていく。

 冒頭の田中角栄を始め実在人物の多くが実名で登場するが、本書の特徴もまずはドキュメンタリータッチにあり。偽名を使いSを操って秘密裏に情報を収集する公安警察の捜査術も克明に描かれる。しかし警察は上意下達の世界、下っ端の砂田たちがいくら真相に迫っても、上層部に無視されたり隠蔽されることは少なくない。そうした組織の歪みは大事件の捜査をも左右し、正攻法の捜査にこだわる砂田は次第に孤立していくのだった。

 有名事件の追及だけではない。著者はそれと並行して砂田の恋愛劇も描き出す。本書は警察小説であると同時に迫真の諜報小説でもあるが、スパイの悲恋の顛末も容赦なく暴き出されるのである。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2018年12月号掲載〉