◉話題作、読んで観る?◉ 第9回「愛しのアイリーン」

◉話題作、読んで観る?◉ 第9回「愛しのアイリーン」

脚本・監督:吉田恵輔/出演:安田顕 ナッツ・シトイ 河井青葉 ディオンヌ・モンサント 福士誠治 品川徹 田中要次 伊勢谷友介 木野花/配給:スターサンズ
R15+
9月14日(金)より全国ロードショー
©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ
▼公式サイトはこちら!
http://irene-movie.jp/

 世間の流行に迎合することなく、不器用ながらもガムシャラに生きる主人公たちを描く漫画家・新井英樹の作品は、多くのクリエイターたちに影響を与え続けている。長編デビュー作『宮本から君へ』が池松壮亮主演ドラマとして今年4月〜6月にテレビ東京系でオンエアされたのに続いて、「ビッグコミックスピリッツ」で1995年〜96年に連載された新井の代表作といえる『愛しのアイリーン』が初めて映画化された。

 過疎化の進む農村暮らしの独身男・宍戸岩男とフィリピンから来た18歳の花嫁アイリーンが主人公だ。「20年来の新井作品のファン。映画化が夢だった」という𠮷田恵輔監督は、フィリピンでオーディションを行ない、原作コミックからそのまま抜け出してきたかのようなヒロイン、ナッツ・シトイを見つけ出した。

 貧しい一家を支えるため、支度金300万円と引き換えに岩男(安田顕)のもとに嫁ぐことになるアイリーン。農村の後継者不足、契約結婚といったシビアな社会的テーマを孕んでいるが、フィリピンの若手女優ナッツの底抜けな明るさと体を張った演技によって、閉鎖的な集落を舞台にした物語は面白いように転がっていく。

 新井作品の面白さは、予定調和の世界には収まらない主人公たちの暴走にある。結婚はしたものの、ずっとセックスレス状態だった岩男とアイリーンは、生死に関わる大暴走の末にようやく結ばれる。言葉の通じない2人を結びつけたのは、共に一線を踏み越えた高揚感に加え、憤怒、恐怖、慈しみといった感情が渾然一体化したものだ。新井が見つけ出した"愛"の正体はとても生々しい。結婚生活がきれいごとだけでは済まないことが、リアルに描かれている。このクライマックスを𠮷田監督はほぼ忠実に映像化してみせた。

 コミック原作ながら、岩男を溺愛する母親役の木野花、男たちを渡り歩く河井青葉など、女性キャラクターたちは地に足が着いており、今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』や『楢山節考』を思わせる土着的な世界がスクリーン上に広がる。アクの強い新井作品の魅力を、𠮷田監督が希釈化することなく存分に引き出してみせた理想の実写化映画だ。

(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2018年10月号掲載〉

原作はコレ☟
愛しのアイリーン〈上・下〉
愛しのアイリーン〈上・下〉
新井英樹/著
(太田出版)