ためし読み
プロローグ 「脈拍一二〇、血圧七八─五〇、体温三七度二分、呼吸数二四、意識混濁。どんな状況を想像しますか?」 皆、口をつぐんでいた。問いかけの内容を理解していないのだろうか。あるいは興味がないのか。もどかしさを感じながら、次の質問を投げる。「では、この血圧について言えることは?」 一人の手が上がった。「ショックです」いつも答えてくれる優秀な子だった。
六回目のマッチポイント。サーバーは宮本。今夜二つのサービスエイス。 金メダルポイントです。さあどうか。日本のチャンスだ。流れた! おっと、オーバーネットがありました。 &
第一話 寄り道
九月の弘前は、いまだ夏の名残りを濃厚に残していた。
時候はすでに秋の入り口だというのに、照りつける日差しはまるっきり真夏のそれで、駅のホームに光と影の濃厚な陰影を刻み