小川 哲

第10話 小川 哲「矜持」 「記事を書いたのはお前だな」タクシーを降りたところで、背後から男にそう声をかけられた。深夜まで続いた入稿作業を終えて、会社から帰宅したところだった。僕は後ろを振り返った。コートを着た体の大きい男が立っていた。
小川 哲さん
 文庫版が刊行されたばかりの『ゲームの王国』は、カンボジアが舞台だった。上巻はフランスから完全独立後の一九五六年より始まる、同国の血なまぐさい現代史をベースにしたリアリズム小説だが、下巻では一気に二〇
思い出の味 ◈ 小川 哲
 妹とよく、母が作っていたトーストの話をする。僕の家では毎日の朝食はトーストと決まっていて、八枚切りの食パンに、塗られるものが毎朝変わるシステムだった。バター、ママレード、イチゴジャム、ピーナッツバタ