さとみ らん

里見蘭

一九六九年東京都生まれ。早稲田大学卒業。二〇〇四年、『獣のごとくひそやかに』で小説家デビュー。〇八年『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第38回
「漂白」目次       8   目の前の男は、志鶴の名が記された弁護人選任届の写しを一瞥(いちべつ)すると、テーブルに放った。 「で?」  黒縁眼鏡の奥の目に
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第37回
「漂白」目次       7 「川村先生」女性が言った。 「竹中(たけなか)さん」志鶴は足を止めた。  竹中登美加(とみか)は、関西に拠点を持つ中央放送というテレビ局の報
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第36回
「漂白」目次       6  接見を終え、差し入れを担当留置官に預けて足立南署を出ると、署の前の歩道にカメラを持った人が大勢いた。脚立も並んでいる。プロの報道カメラマンだ。道路を挟
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第35回
「漂白」目次 「あとで担当さんからも言われると思いますが、検察庁での検察官の取調べです。十六年前も、経験されたと思いますが」 「あれか……検事調べってやつ? それがどうしたの」 「ここの取調室とは環
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第34回
「漂白」目次  ファイルから、針なしのステープラーでA4のプリントを数枚綴(と)じた書面を取り出した。表紙には「身体を拘束されている方に」と書かれている。東京三弁護士会刑事弁護センターがひな型を作っ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第33回
「漂白」目次      5 「ありがとうございます。参考になります。私から、いくつか、確認のための質問をさせてもらっていいですか?」  起訴前の弁護であっても、弁護方針は、起訴
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第32回
「漂白」目次  増山は非常に重要な話をしている。志鶴はきちんとメモに残した。 「だから……行ってない、って答えちゃったんだよね。噓ついた俺も悪かったのかもしれないけど──ビビるじゃん。二人目に殺され
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第31回
「漂白」目次 「お話を聞かせてもらう前に、一つ、お願いしたいことがあります」  クリアファイルから一枚の紙を取り出し、増山に向けアクリル板につけた。  大きな文字だけがプリントされたA4紙だ。タイト
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第30回
「漂白」目次  増山は動揺している。つまり、志鶴の話を理解しているということだ。  自分は今、依頼人を脅かしている。良心の呵責(かしゃく)が胸を刺す。弁護人の誠実義務について田口に大上段から論ずる資
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第29回
「漂白」目次 「──昨日もお話ししましたが、お母様にはしばらく会えません」 「何で?」 「警察が認めないからです」 「何だよー」目を伏せ、口をゆがめた。「何て言ってた、昨日?」  増山文子から言付か
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第28回
「漂白」目次       3  志鶴は現在、民事と刑事、合わせて三十近い案件を抱えている。  訴訟案件ばかりでなく、また、他の弁護士と共同受任しているものもあったが、時間はいく
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第27回
「漂白」目次       2 「虚偽自白?」森元逸美(もりもといつみ)が言った。  大きな作業デスクに椅子を配した共有スペースでの、朝一番の打ち合わせ。メインとなるのは増山の案
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第26回
「漂白」目次 『たしかに、われわれも社会の一員として、今回のような事件を防ぐにはどうしたらいいか、ということも考える必要がありそうですね。天宮さん、ありがとうございます』  キャスターが頭を下げ、カ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第25回
「漂白」目次    第二章──窒息       1  男は片手をパンツのポケットに突っ込み、もう片方の手で煙草(タバコ)を喫(す)っている。その映像に、女性のものものしい
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第24回
「漂白」目次  番組が始まる。トップニュースはやはり増山淳彦の事件だった。これまでの報道をなぞったあとで、この番組では、独自取材をして得た一般人のコメントを映し始めた。  一人目は、
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第23回
「漂白」目次  志鶴は、自分のデスクにバッグを置くと、ノートパソコンと筆記具を持ってテレビのある会議室の一つへ向かった。森元逸美に頼んでおいたワイドショーとニュース番組の録画をチェックする。事件に関
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第22回
「漂白」目次  記事に書かれていることが事実なら、ビデオ映像が証拠として採用されるのを阻止するのは難しい。ほんのついさっき仮定した前提が一瞬で崩された。増山は、生前の綿貫絵里香を知らないと
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第21回
「漂白」目次      6  増山家を出るとき、文子の顔が外で待ち構えているマスコミの目に触れぬよう、ドアを開けるのを最小限にとどめた。素早くドアを閉め、文子が中から施錠するのを確か