里見 蘭

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第146回
「二人の被害者の遺体から採取された漂白剤の成分を分析した鑑定書。これについて、主張との関連性について釈明を求めます」こちらの鑑定書は捜査機関による捜査の過程で科捜研の研究員が作成したものだ。「弁護側は増山さんが犯人でないことを立証しようとしています。漂白剤についての鑑定書はその蓋然性を高めるものです」
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第145回
「──ごめんね、出てきてもらっちゃって」店に入ってきた後藤みくるを、志鶴は立ち上がって迎えた。彼女の家に近い北千住辺りで会うか打診したが、「近すぎる」からと上野を指定したのはみくるだった。志鶴と会っているのを地元の友達に見られたくないのだろう。自分と会って話していることを、
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第144回
 5 「いやあ、ちょっとこれだけだとわかんないですね」ソフトボールの試合映像に映っていた白いネオエースをプリントした画像を見て、青いデニムの作業着姿の店長が首を振った。都内にある、ネオエース専門のカスタムショップ。ウェブで見つけた店の一つだ。電話でアポを取ったうえで志鶴は一人で話を聞きに訪れていた。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第143回
「そうだ」都築が言った。「公判前整理手続の段階で裁判官は心証を形成してはならない。裁判官が証拠を見ちゃいけないってことだ。そもそも受訴裁判所が公判前整理手続を担当する制度自体が間違ってる。あんたら裁判官はそれをわきまえるどころか、制度に便乗して公判前から平気で証拠に手を突っ込んでくる。本当は当事者追行主義なんて認める気
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第142回
「検察官が主張する間接事実について、どの点をどのように争う?」公判前整理手続は公判の日程など審理計画を決めるために行う。あくまで公判の準備をする場で、公判中心主義という原則に従えば、裁判官がこの段階で心証を形成するようなことがあってはならない。だがとくに裁判員裁判では、裁判員の負担を軽減するためとして公判の日程を少しで
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第141回
「暑い中、二人にはよく頑張ってもらった。今日は存分にやってくれ」都築はジョッキを掲げた。志鶴と三浦もジョッキを合わせる。「くぅ~~」きんきんに冷えた生ビールが喉から胃へ染みわたる。ミディアムレアの熟成肉をナイフで切って嚙(か)み締めると口の中で肉汁と幸福感が溢(あふ)れた。ニューヨークに本店を持つステーキハウス。平野の
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第140回
 3 『大きな収穫だな、川村君』電話の向こうで都築が言った。「沼田さんへの聴取はすぐ証拠化します」志鶴は事務所へ戻ってパソコンの前に座っていた。「それと、23条照会をかけようと思うんですが」『23条──?』「沼田さんの話を聞いてひらめきました。Xのネオエースはカスタマイズされている。ネオエースにはカスタムの愛好者が多く
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第139回
「記憶に残ってたのは、あの二人、どういう関係なんだろうな、って気になったからだ。親子くらいの年の差に見えたが、どうもそんな感じじゃない。女の子は初対面みたいな固さだった。何か訳ありの親子なのか、それとも──そのあと晩飯の席でかあちゃんに、あれ、ひょっとして援交ってやつだったりしてな、なんて酒の肴(さかな)にしてたんだ。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第138回
 増山、タクシー運転手、主婦。三人が見たのはいずれもトキオであり、彼のネオエースだったのだ──志鶴はそう確信していた。「捜査線上に、白いネオエースとそれを運転するチョンマゲの男が浮かんでいたなら──」田口が言う。「警察はさらに周辺道路の防犯カメラ映像などで追跡することができたはず。そうしなかったのは、その人物が犯人ではないと判断したからでは?」
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第137回
第八章──追跡 1 「やはり、真犯人が偽装工作を行い、増山(ますやま)さんに罪を着せたというストーリーで行くべきと考えます」都築賢造(つづきけんぞう)の事務所の会議室で、志鶴(しづる)は相弁護人である都築、田口司(たぐちつかさ)、そして協力を申し出てくれた元同僚である三浦俊也(みうらしゅんや)に向かって言った。