Aさん |
都内でも有数の若者が集まる街の、ビル一軒 が丸ごと売り場という書店で文芸書を担当。10年間、お客さんの声に耳を傾け続けてきた。 |
Bさん |
地方都市の大型書店で文芸書のフロアを取り仕切る。7年のキャリアで小説の売り方には一家言を有し、積極的仕掛けを展開している。
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Cさん |
都内でも有数の若者が集まる街の、ビル一軒 が丸ごと売り場という書店で文芸書を担当。10年間、お客さんの声に耳を傾け続けてきた。
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文房具を買うように小説の本を
Aさん.......自分が店頭でねちっこくプッシュしてきたものが売れたりするのはやっぱり嬉しいし、お客さんがそこで自分のフェイバリットなものを見つけてくれるのは、この仕事をやっていてよかったと思う。
Bさん.......以前は新刊じゃないと本は動かないという状況があったのだけれど、いまは違う。小説好きの小説読みの人が買うのではなくて、いつもは読まない普通の人が書店の店頭に来て、そこで選んでいく。それだけにお客さんの選別意識はとても強く働いている。
Cさん.......一度売り切ったものでも、もう一度店頭に並べてみると、まだ売れるんです。
きらら.......要するに、小説の良し悪しは書評や派手な広告より、書店の現場から発している。
Bさん.......いまうちでお客さんを引っ張ってくれているのは、片山恭一さんや市川拓司さんとか、書評には出てこない人のものが多い。
Aさん.......書店に出かけてから本を選ぶという人が多くなってきているのはそう思う。
Bさん.......お客さんが店頭で選ぶ場合、もちろんわれわれがつくる宣伝用POPなども参考になっていると思うのだけれど、本の装丁などもかなり重要なファクターになっている。
Aさん.......最近は文房具を買うように、小説を買うっていうこともあるような気がする。
Bさん.......小説の本がある種のグッズ化している面もあるし、とくに恋愛小説なんかはその傾向は強い。それはそれで全然いいことだとは思いますが。
Cさん.......少しCD業界と似てきたところがある。デートで本屋に来て、小説について話している。
Aさん.......私が高校生の頃は本を読んでいるだけでまじめっ子みたいな扱いをされた。地味な奴みたいに。村上春樹氏を読んでいるだけで、いじめにあいそうになりましたよ(笑い)。
きらら.......でもいまはもっとカジュアルな気分でお客さんは書店にやって来る。まるで映画でも観に来るかのように。
何冊売れたらベストセラーか
きらら.......そんな書店の店頭で、皆さんがPOPなどで「これは面白い」と推薦したりしている。
Aさん.......商売として書店員をやっている気持ちと、本が好きで書店員をやっている思いがある。その間をいつも微妙に揺れ動いている。
Bさん.......たとえば堀江敏幸さんの小説を自分の店でプッシュしてみたら、実際に売れた。でもそれがそのままベストセラーになるわけではない。でも、1週間に5冊とか10冊とか売れる本として、それを持続していきたい。
Cさん.......「これは泣けますよ」と言い切るときに逡巡もある。結局、本を読むという作業は個人的なものだから、いくらこちらが推しても、ちょっと違うかなという気持ちもある。
Aさん.......われわれは書店員で、本を売って食べているので、売れなきゃ意味がない。いくら思い込みたっぷりでやっても、売れなかった小説はそれこそたくさんある。
きらら.......たとえば、どんなものがありますか。
Aさん.......以前は角田光代さんの小説が売れないのはおかしいだろうと思っていた書店員さんはたくさんいた。みんなで集まるとよくその話題になった。でも、いまは結構売れている。もちろん、まだまだこんなものではすまないという感じはするのですが。
Cさん.......最近はどんどん文庫も出るようになったけど、昔は角田さんの単行本の配本はすごく少なかったから、余計に大声で店にもっと仕入れてくれと言っていた。でもそれで結果として返品するのは本当に心苦しかった。
Aさん.......そこを乗り越えて、いまは追加注文が取れるようになった。私にとっての売れてるか売れてないかという指標のひとつは、追加注文を取れるか否かということなんです。
きらら .......皆さんの本に対する感覚は一般の人たちより少し先んじているようです。
Bさん.......辻内智貴さんの小説『信さん』(小学館)は校正刷の段階でたいへん面白く読ませていただき、これは絶対売ってやろうと思った。うちの店では同じ辻内さんの小説『セイジ』(筑摩書房)がたくさん売れたということもあった。自分たちもイレ込んで出版社も頑張ったが、力及ばなかった。これからも努力は続けていきますが。
Cさん.......この前テレビ局から電話がかかってきて、「おたくの店では何冊売れるとベストセラーなんですか」と訊いてきた。店の規模にもよりますが、即座に答えられなかった。
Bさん.......ベストセラー認定委員会みたいなものがどこかにあればいいですけどね。作家によっても違いますし、この作家ならトータル5万部でベストセラーだとか。渡辺淳一さんや林真理子さんなら、絶対に20万部は超えないとベストセラーとはいえない。
「雨後のタケノコ」の後の絵本
きらら.......たとえば同じ作家の作品が同時期に何冊か出ていて、1冊がとてもよく売れていると、残りのものは売れている1冊に食われてしまうということはありませんか。
Aさん.......小説ではないのですが、五木寛之さんの『大河の一滴』(幻冬舎)がとても売れているときに、同時期に出たものがあまり動かなかった。一気に同じ著者の本が出ると、食い荒らされ感みたいなものが生まれてくる。いろいろな出版社が著者のところに押し寄せいろいろな出版社が著者のところに押し寄せて、次から次へと新しい本が出てくる。そうなると、売っている側もだんだんうんざりしてくる。
Cさん......どんどん出されると書店も場所がなくなってしまって、いつ返品してやろうかと。
Aさん.......毎日棚を見てる私たちが飽きる3ヵ月後にお客さんが飽きると思っていい。
きらら.......出版社にとっては耳の痛い話です。1冊売れた後の「雨後のタケノコ状態」。
Aさん.......たとえば、田口ランディさんの小説が売れたときも、絵本のようなものが続々出版されましたね。絵本が悪いということではないけれど、小説は無理なので、という出版社側の事情が読者にも見え見えで、ファンの気持ちがさめちゃうんじゃないかって心配でした。
Cさん.......読者がまだそれほどその作家のファンでないときに、そういう本が出ると問題が多い。その作家が書くものなら何でもいいというお客さんは確実に少なくなっている。
Aさん.......1回絵本を買ってがっかりしちゃうと、次にすごくいい小説を書いても、買ってくれない。とても売れた小説を出した後は、中途半端なものは出さないでほしい。
きらら.......村上春樹さんの『少年カフカ』(新潮社)みたいなものは、どうですか。
Aさん.......あれはファンズ・アイテムみたいなものですから、いいでしょう。
Bさん.......最近では伊坂幸太郎さんはそのあたりのタイミングが絶妙にうまかった。まだ認知度が低いときに直木賞にノミネートされ注目が集まったときに1冊本が出て、それから少し間があいてからまた2冊、本が出た。
Cさん.......しかもこだわって書いた作品だった。
結局、読者をがっかりさせないってことが重要ですね。私たちも基本は同じ、読者のレベルからいつも売る本のことを考えています。
書店の熱気をお客さんに伝える
きらら.......ひところ本は売れないとか、小説は読まれなくなったとよく言われていましたが、ここのところ書店発の動きからベストセラーが生まれるようになってきた。本来なら出版社も小説の楽しみのようなものを読者に積極的にアピールしていかなければいけなかったのに、そういうものがなおざりになっていて、代わって書店さんたちがその役割を。
Aさん.......この本は読者にきちんと届けなければいけないという本ってあるじゃないですか。本は売れないからしょうがないということじゃなくて、自分が良いと思う本に、お客様が気づいてくださるよう工夫する、これがとても価値のあることだと思う。
Cさん.......とてもミニマムな言い方ですけど、新刊が入荷してきたときって売り場で私たちはものすごく興奮する。たとえばこっちの本は私が買うから、そっちはあなたが買ってというように、書店員も一読者のレベルで熱くなっている。その熱気みたいなものをお客さんにも伝えられればと思う。それがいま全盛の手書きPOPなどにつながっている。
きらら.......われわれが今度「きらら」という雑誌を通して発信していこうとしていることもまさにそれで、小説の良さや楽しさをもっと外に向かってアピールしていく、「小説普及」という観点からも小説のことを考えていく。
Cさん.......小説の読者を増やすことが、書店も出版社も、そして小説家自身にとっても、いまはとても大切なことだと思う。
きらら.......このまま小説を読む人がいなくなったら、小説家も書店さんもそして出版社も小説自体に携わる人たちがみな共倒れになってしまう。そうならないためにもまず小説の読者を増やしていかなければいけない。
Aさん.......ここ1、2年いろいろな書店の人たちと話して、みんなでつるむということも重要かなと思ってきたんです。小説の読者の数がどんどん心細いものになってきたいまだからこそ、そういうことが必要だと思う。身近な人が面白いと言った小説を私も読みたいし、書店にいらっしゃるお客さまにもそういう人はいると思う。偉い人が褒めた小説よりも、友だちが心を震わせたという作品のほうが絶対に裏切らない。
ブックカバーをはずして読む
きらら.......この「from BOOK
SHOPS」というコーナーでは、小説の感動が生まれる現場の声を伝えていきたい。小説は人に読まれなければ小説ではない。小説は書かれただけではなく、読まれてこそ初めて小説になる。書店はその揺籃の場所であるわけです。その小説が生まれる現場に立ち会う皆さんにどしどし発言していただきたい。
Aさん.......小説普及連盟みたいなものがあったら面白い。1回飲みに行く代わりに、そのお金を使って小説の本を2冊買おうとか。
きらら.......小説普及連盟、略して小普連と呼びましょう。
Bさん.......1回飲みに行ったら3千円はかかる。小説の本はもしかしたら5回くらいは読めるかもしれない。読んだら人にあげてもいいし。
Cさん.......電車の中ではなるべくブックカバーをはずして読むというのは小普連の標語としてどうでしょうか。とにかく世の中に小説のタイトルを知らしめるという意味で。
Aさん.......大ベストセラーにはならないけれど、店のランキングで20位とか30位あたりのものにもこだわっていきたい。小さな書店の人でも参画していけるようなものがいい。
Cさん.......最近、ベストセラーの仕掛け人として書店員が担ぎ出されるってことが多いけど、あれは当たってから話すという感じでつまらない。私たちとしてはこれから盛り上がっていくときに発言する場があれば面白い。
きらら.......では、「from BOOK
SHOPS」では、これから毎号、小普連の方々にページを開放して、小説について熱く語ってもらうことにします。どうぞよろしくお願いします。
(構成/松田美穂)
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