連載小説

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◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第13回
 椰子(やし)の葉ずれ、鳥の羽ばたき、猿の咆哮(ほうこう)といった遠い音は、もう耳慣れてしまって、聞こえていても無音と同じだった。聞くべき音、聞こえてこなければならない音、聞こえてくるのを待っている音
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第129回
 証拠資料が入った段ボールを会議室へ運び込むと、三浦俊也はまず検察官の証明予定事実記載書に目を通した。
電車のおじさん第25回バナー
 仕事のあと、玉恵はひさしぶりに茜と会って銀座でお茶をしました。そのカフェは、夜の銀座に近いからか、お店の同伴みたいな年の離れた男女のお客さんが多いのが目に付きます。グレイヘアの紳士が、舘ひろしのよう
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第128回
 ブルーレイディスクをトレイに載せデスクトップパソコンに挿入。息をこらして画面を見つめる。星栄中学校で行われたソフトボールの試合映像。三脚で固定されているらしきカメラは、ホームベースの背後からグラウンドを捉えている。映像は、後攻のチームが守備位置についたところから始まっていた。
◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第12回
   それは国富(くにとみ)に来た初めての戦死公報だった。戦死ではなく戦病死だったが、村の者は誰も、憲兵たちや村長さえ、そんな違いは気にもかけなかった。鈴木正太郎(すずきしょうたろう)さんはお国のため
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第127回
「あと気になるのは目撃証言だな」都築が言った。「検察は、増山さんの目撃証言を請求したが、あれだけの大きな事件で大量の捜査員を投入したんだから、事件直後には大量の目撃証言があったはずだ。決め手にならず、
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第126回
 ノートパソコンにワープロソフトを起(た)ち上げ、「1 被告人について」と打ち込んでいく。  検察の主張を崩すストーリーの大筋が、志鶴と都築との間で一致を見た今、志鶴が欲しいのは、真犯人であるはずのト
◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第11回
「私はすぐ行かなければなりません」アッレは言った。「伝言があります」「元気だったのか」 そう言いながらニコデモは、この女が警察に尾行されたのではないかと恐れた。ことによると、ここに匿(かくま)ってくれなどと言い出しはしないか。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第125回
 志鶴と田口は静かに対峙(たいじ)した。  トキオの存在を聞いたうえでのこじつけではない。約半年の間を置いて起こった、二件の殺人死体遺棄事件。警察はなかなか被疑者を絞れずにいた。そこへ、被害者の一人が
辛酸なめ子「電車のおじさん」第24回
 玉恵がスマホのニュースアプリを立ち上げると、近い将来、虎ノ門ヒルズ駅がオープンする予定というニュースが目に入りました。東京メトロ日比谷線に約56年ぶりの新駅誕生だそうです。奥野さんが今度イベントにフ
上流階級その3 14回
 お歳暮の手配を終え、事務方にリストを回すだけでもなかなかの分量。成人式を迎えられるお子さんのための、オーダーメイドのお着物が仕上がってくる季節でもある。着物はある程度の体型や体重の増減に合わせやすい
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第124回
 都築の声が、法廷で弁論するときのように熱を帯びてきた。志鶴の胸の鼓動が高まる。  田口は一瞬気圧(けお)されたようだったが、すぐに無表情の仮面をつけ直した。「ではなぜ犯行現場に、増山氏の吸い殻が?」
上流階級 第13回
 今日は雨なのでランニングにも行かず、家で英語のスカイプレッスンをしていたという桝家は、静緒がバッグの中から物件の資料を出すと、驚いた顔をした。 「ほんとに家買うんですか?」 「いい物件があればね」
◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第10回
   そしてベッドから起き上がって服を着終えた時から、ニコデモの生活は一変した。靴紐(くつひも)を結び終えてもいないうちからノックの音がして、三つ揃えの背広を着たやせぎすの男が入ってきたかと思うと、楽
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第123回
「③の目撃証言、これ、怪しいよなあ」都築が言った。「増山さんが逮捕されたあと、改めて現場付近で聞き込みをしたら、女子中学生をつけている増山さんを見た人物が現れたって──増山さんが逮捕されたの、最初の事
上流階級 第12回
「あんたが店で働いてるところ、よくこっそり見に行ったけど、お客さんにぺこぺこしてるのよう見たわ」 「いやあ、それはまあ、こういう仕事だったらさ」 「お母さんもスーパーでよくぺこぺこするけど、それはおか
        1  コンビニのドアが開いて、一人の少女が店内に入ってくる。夏物のカジュアルを着た、中学生くらいに見える華奢(きゃしゃ)な少女だ。彼女は急ぐ様子もなく、店内を見渡して、右手に向かって歩
上流階級その3
  「すごいところまで行きましたね」  事情を聞いて助太刀を頼んだ桝家は、やや呆(あき)れたような声で顔からシートパックを剥がした。 「この後に及んで引けないですね、それ」 「引けないし、たぶん自分で