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小普連とは?
 「きらら」コラムでは、全国の書店員さんが4つのお題でおすすめ小説を紹介。新刊・既刊問わず縛りは小説本であることだけ! 毎回全国の書店員さんにコラムを依頼しています。近々あなたのお店にもコラム依頼のお電話をかけるかもしれません?!
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ぴったりな小説を書店員さんがセレクト!

《1》 今月飲むのを我慢して買った本

文教堂書店二子玉川店(東京)秋庭千保さん
◎帯に惹かれて買った平山瑞穂さんの『あの日の僕らにさよなら』は、今の季節にお薦め。

「昔の恋人に電話したくなる本1」の帯に惹かれて思わず買ってしまったのが、最初に紹介する平山瑞穂さんの『あの日の僕らにさよなら』です。高校時代、互いに引かれ合った二人。あることがきっかけで離ればなれになってしまった衛と祥子。その後も、衛の趣味のハンガリー音楽に魅せられ続けた祥子のように、昔好きだった人に知らずしらず影響された経験は誰しもあるのではないでしょうか。

 11年後、再会した二人が出した結論とは……。今の自分は「あの日」があったからこそと思い、前向きに歩き出す二人に爽やかな春の訪れを感じさせます。今の季節にお薦めです。

 次に紹介する作品は、角田光代さんと穂村弘さんの往復書簡形式の恋愛エッセイ『異性』です。外見か内面か? もてるための努力がはずかしいなど興味深いテーマばかりです。中でも私が印象に残っているのが「おごられ女、割り勘女」というテーマです。

 角田さんは「女性は何歳だろうと初めてのデートで奢られ、その後もずっと奢られ続けていれば、その人にとってそれが普通」と語り、次の章で「奢りでも割り勘でも女性の反応が同じだった答えがやっとわかった!」と穂村さん。この本には男女の気持ちや本音が詰まっていて、男性も女性も楽しめる一冊です。

 最後に紹介する作品は「赤毛のアン」シリーズの最終巻『アンの想い出の日々』(モンゴメリ著)です。

 この最終巻にはアンの得意な詩が多く書かれていて、一家団欒での会話なども盛り込まれています。久々にアンシリーズを読んで、昔『赤毛のアン』を読んで読書は面白い! と感じた頃を思い出させてくれました。


《2》 当店の売れ行き30位前後にいる小説

丸善丸の内本店(東京)横山みどりさん
◎碧野圭さんのお仕事小説『書店ガール』を読んだら、自分の仕事を頑張りたくなります。


 当店では100位を超えても新刊ばかりが入ってしまうため、順位にこだわらずにコンスタントに売れている小説ということで選ばせて頂きました。

 原宏一さんの『ヤッさん』は銀座、築地界隈に居る誇り高きホームレスのヤッさんと新米ホームレスが繰り広げる笑えて泣ける人情小説です。信念を貫くこと、信じること、生きる覚悟、人と人の繋がりの重要さなど生きていく上で大切なことがヤッさんの言葉の中にちりばめられていて、誰もが必ず心に響く一言を見つけられるはず。それでいて愉快なのだからたまらない。オジサンが読んでも女子高生が読んでも絶対に面白い、みんなに愛される作品だと思います。

 碧野圭さんの『書店ガール』はタイトル通り書店で働く女性の話でお仕事小説としてもきちんと楽しめますが、女の怖さや男のダメっぷりがうまく描かれていて、それにより書店に興味のない方でも、男性でも楽しめるのではないでしょうか。敵だと思っていたら味方だったり、またその逆だったりと本気で仕事をしていると色々な事がある。山も谷もあるけれど、これを読んだら自分の仕事を頑張りたくなります。

 坂木司さん『和菓子のアン』、これもお仕事小説です。ぽっちゃりさんの杏子がデパ地下の和菓子屋さんでアルバイトを始め、そこで起こる日常ミステリー。和菓子についてはもちろんのこと、デパ地下のあれこれを知る事が出来て楽しい。

 あっさり採用を決めた和菓子屋の店長が「だって履歴書には何ら問題はないし〜〜〜、それに何より爪が短くて清潔だもの」と話し、杏子は自分のウインナーみたいで爪なんか伸ばす気にもなれなかった指を評価してもらえて嬉しくなるシーンがあるのですが、こういうちょっとした幸せが沢山詰まっています。

 最後に、『星を継ぐもの』はJ.P.ホーガンのデビュー作でありSF小説の代表作でもあります。月面で発見された5万年前の死体を調査、分析していく壮大な謎解き。古い作品ではありますが、コンスタントに売れているという点ではもう何年もこれの上をいくものはないというほどです。


《3》 私はこの本を1日1冊1すすめ

紀伊國屋書店金沢大和店(石川)佐々木泉さん
◎小田雅久仁さんの『本にだって雄と雌があります』は、家族と書物への愛にあふれた物語。

 当店で展開中のSF年間ベストフェア、幻想文学フェアから3作品をご紹介。齢八十を過ぎてなお挑発的な作品を描き続けている皆川博子さんの『双頭のバビロン』。十九世紀末のオーストリア・ウィーン。結合双生児として生まれたゲオルクとユリアンの荘厳華麗な運命譚。腐爛直前のウィーン、トーキー誕生前夜のハリウッド、悪徳の上海。舞台をさまざまに移しながら近づいては離れる双子。その傍らに常に寄り添う謎の少年・ツヴェルゲン。三人の運命は鴉片と臓物の悪臭にまみれた街でついに交わる。複雑に編み込まれた伏線、精緻な構成、漂う頽廃の空気に、知らずため息がもれ、読後はしばし放心。

 続いては、不世出の小説家、山尾悠子さんの『ラピスラズリ』。しんしんと雪の降る寒い夜にあたたかい部屋で読みたい。「画題をお知りになりたくはありませんか」。画廊で見つけた3枚の銅版画から始まる冬眠者をめぐる物語。これから始まる物語を暗示するような店主の不可解な態度、「私」の忘れていたもうひとつの記憶。異国の一族に訪れた災厄。目覚めの悲しみにくれる者、また祝福される者。冷たく硬く美しい幻想の世界に触れる喜びをご堪能ください。

 最後に、洒落のわかる方には小田雅久仁さんの『本にだって雄と雌があります』をオススメ。雄本と雌本がナニして幻書が生まれ、白い象とともに空を飛び伝説の図書館へ。あらすじはなんとも荒唐無稽。しかし家族と書物への愛にあふれた物語。本書の魅力はなんといっても著者のジョークのセンスだろう。登場人物の繰り出す高田純次ばりの胡散臭いダジャレにぐひひと笑いがこみ上げ、いつかこのネタを使ってやろうと嬉々としてページの端を折り曲げるのである。


《4》 この小説家の作品は絶対に売りたい

新栄堂書店サンシャインアルパ店(東京)新井理恵さん
◎大事なことを再認識させられ、お腹の奥が温かい気持ちになる坂木司さんが書かれる本。

 いつも物語を通して、大事なことは何かを再認識させられ、読むとお腹の奥がほっこりと温かい気持ちになる。そんな、坂木司さんが書かれる本の魅力は、日常の謎、魅力的なキャラ、食べ物が美味しそう、と勝手に思っている。

 まずはこちら。『シンデレラ・ティース』は歯医者さんが舞台。歯医者か……。歯医者は嫌いだ……。だって、小説といえども、歯医者という単語を見ただけで、あの嫌な音が蘇るのに! と、躊躇したが、思い切って手にとって大正解。物語は、大嫌いな歯医者で受付のアルバイトをすることになった大学生の咲子が、患者さんが抱えているちょっとした秘密を、歯科技工士の四谷さんや個性的な医師やスタッフたちと解決をしていくというもの。「歯医者=虫歯の治療」ということしか頭になかった私にとって、歯の治療だけではなく、心のケアまでしてしまうなんて。こんな素敵な歯医者があったら行きたい! と心の底から思った。

 続いて、『ワーキング・ホリデー』。元ヤンでホストの沖田大和が、「初めまして、お父さん」と突然現れた、神保進と夏休みの間だけ生活を共にする。ホストのお話かと思いきや、なんと宅配業へ転身。短気で喧嘩っ早い。でも、正義感があり真っ直ぐな大和と、小学5年生なのに、家事全般が得意で、礼儀正しくしっかり者の進。大人と子供の立場が真逆な二人。でも、とてもバランスがいい。ホスト仲間、宅配業者の仲間など、個性的かつ魅力的な人たちとのやり取りも、リズムがよく、読んでいて気持ちがよいほど。父親の自覚が出てくる大和と子供らしさをきちんと持っていた進。親子としての距離がどんどん近づく二人。とても愛おしい。笑って泣いて、純粋に面白かった! と思えた一冊。続編の「ウィンター・ホリデー」も是非!

 最後に、『和菓子のアン』。スイーツが大好き! 食べるのも見るのも好き。なので、よく、用もなくデパ地下のスイーツ売場をふらふらする。しかし、和菓子売場はいつも素通り。嫌いではないけど、やはり、どことなく地味な気がして……。しかし、和菓子を甘く見てはいけなかった。「和」と付くだけあって、当然、暦や季節と深く関係がある。名前一つにしても、ちゃんと意味があり、なんとも奥深い。和菓子は日本の誇りだなと。と言うと、堅苦しいが、物語は、和菓子屋をテーマにした日常ほのぼのミステリ。個性的すぎる店長や乙女系男子の同僚など、面白要素は随所に。謎解きを楽しみつつ、和菓子にも詳しくなるなんて、一石二鳥じゃあないか!? 読了後は和菓子が食べたくなりますよ!