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今月飲むのを我慢して買った本

叶わぬ想いが犯罪に。井上夢人さんの『ラバー・ソウル』を読んだ後の、胸が潰れる様な感情はいったい何だろう。

ブックスフォルテ(大阪)小村 健さん

 飲んだら必ず酔っ払ってしまうのだが、読んでも必ず酔えるとは限らない。しかし、どうせ読むのならその世界でグデングデンに酔いしれたい。

 そんな度数の高かった3つのお話を紹介したい。因みに、飲むのも買うのも我慢しないので、月末はいつもスッテンテンである。

ラバー・ソウル井上夢人さん。その姿を見た誰もが絶句し、不快感を持ってしまうほどの醜い主人公。長年、人との関わりを避けてきた彼が一人の女性に恋をする。叶わぬ想いは加速し、守りたい感情は、監視するという異常な行為へと。ねっとりとした恐怖感を伴うミステリーだが、愛の物語でもある。

 ストーキングは卑劣な行為であり、愛を理由に盗聴盗撮が許されはしない。だが、明かされた結末を知った時の胸が潰れる様な苦しみとやるせない感情はいったい何なんだろう? 愛とは? ビートルズの名作をそのまんま用いたタイトルと各章。歌詞カード片手にこのアルバムを聴いてみるのも良いと思う。

『ワンピース』に『村上海賊の娘』。海賊ブームの昨今(と思う)、こんな海賊のお話はいかがだろうか。

海賊女王皆川博子さん。実在したアイルランドの女海賊グローニャの壮絶な人生を描いた大作。その従者アランの語りで綴られる物語は、重厚で濃密。イングランド女王エリザベスとの対比を用いているが、主役は海賊グローニャ。

 全編を通して貫かれる海賊の誇りと生き様、氏族を守るための葛藤と苦悩。決して大国に屈しない彼女の言動に胸が躍り、心が震える。

キングを探せ法月綸太郎さん。殺してほしい人を殺してもらい、相手の殺してほしい人を殺す。交換殺人。互いに素性を明かしていない4人の犯人達の結団式を皮切りに、4つの殺人は幕を開け、警視と小説家(探偵)父子がその事件に挑む。

 与えられた4つの名前とイニシャル。トランプの絵柄と数字。絡まる疑問と仕掛けられた罠に、何度も戻り読みをしてしまい、あまりの巧妙さに舌を巻くだろう。傍らにメモを置き、相関図を書きながら挑んだのだが、途中で役に立たず、破り捨てたのは言うまでもない。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

読み終えた後にタイトルが突き刺さります。いつもの大崎梢さんの作品とは一味も二味も違う、『空色の小鳥』。

サクラ書店ラスカ平塚店(神奈川)柳下博幸さん

 上位はどこも似たようなランキングですが、この位置だと意外とそれぞれの書店の色が出てくるものです。

 当店の「もっともっと売れてもいい本!」セレクトをご紹介します。

 まずは米澤穂信さんの『王とサーカス』です。ネパールで実際にあった王族殺害事件。当時ネパールにいた主人公・太刀洗万智が取材を進める中で遭遇する軍人射殺事件。ネパールの熱く乾いた空気が、淡々と進むストーリーを徐々に呑み込んで行きます。登場人物の一人が「この国をサーカスにするつもりはない」と言った瞬間、頭の中にTHE YELLOW MONKEYの曲が流れました。このクールな女性の芯の熱さが垣間見られる『さよなら妖精』、こちらもオススメです。

 続いて大崎梢さん『空色の小鳥』。いつもの大崎さんの作品とはちょっと違う味わい! 血の繋がらない兄の忘れ形見の娘を育てる事を選んだ主人公・敏也。いろいろと裏がありそうな嫌なヤツが、段々と少女と共に成長してゆきます。彼が求めていたモノに気づいた時にタイトルが心に突き刺さりました!

 最後にヒキタクニオさんの『触法少女』です。子供を愛玩動物としてしか見ていない「育児放棄」の母親に捨てられた少女の復讐譚。彼女が目指したのは「完全犯罪」で、そのディティールの細かさ、周到さに圧倒されます。身体は大きくなっても抗えない幼少時の虐待の記憶。そして渇望した母親からの愛情。自分を取り戻す為に少女は母親を殺すことを選びます。法に触れるのは良くない事ですが、読了後「良かった」そう思える作品でした。

 この三作品以外にもお薦めを一冊。「初回配本で下巻の売り切れは間違いない作品」という数少ない僕の経験則に従い、昨年展開した『ハリー・クバート事件』(ジョエル・ディケール著)。たぶん、様子見で、都内で上巻を買われたお客様が待ちきれずに、下巻を地元で購入と推察。

 上巻の途中からギアが切り替わりアクセル踏みっぱなし! 上手いのが上巻後半のハンドルの切り方。まずは上巻だけでも当店で手に取ってみては? ……下巻ばかり売れるので。

私はこの本を1日1冊1すすめ

有川浩さんの『図書館革命』には、懸命に立ち向かう姿が描かれ、前を向いて働くエネルギーをもらっています。

フタバ図書GIGA上安店(広島)新竹明子さん

 まずオススメしたいのは今野敏さんの『任侠書房』。

  タイトルとルックスに惹かれ、購入したこの本。実はタイトルと装丁を変え、再販されたものだということを、後に知りました。

 潰れかけの出版社を立ち直らせるために、ヤクザの代貸が苦労を重ね、再建していく物語。

 組長のわがままに翻弄されながら、あの手この手でトラブルを解決していく代貸がかっこいい! ある意味自己啓発本であり、すばらしく面白いエンターテイメント作品です。

“今野敏”という作家さんは、どちらかといえばハードボイルドなイメージ。まさかこんなユニークな作品を書かれていたとは知りませんでした。何事も読んでみなくてはいけないですね。読まず嫌いは損をします。

  次にオススメするのが、古内一絵さんの『痛みの道標』です。

  とても難しい戦争の記憶を題材に、実際に慰霊祭に行かれるなどし、体験者の方のお話を聞かれ、とても悩まれながら書いたとお聞きしました。これだけ聞けば重たい反戦本なのかしら、と思われるでしょうが、亡くなった祖父のおばけに導かれ、日本軍の埋蔵金を探しにボルネオへ旅をする、ファンタジーとミステリーを兼ね備えた作品なのです。

 その展開の面白さにぐいぐいと引き込まれていき、気が付くとボルネオのジャングルを駆け抜ける。そんな錯覚に陥ります。戦後70年。日本が戦争をした事実さえ知らない若者が増えています。だからこそ、しっかりと想いのこもった作品を多くの方に読んで頂きたいのです。

 最後に私がこの業界で働く、勇気と信念を与えてくれた作品、有川浩さんの「図書館戦争」シリーズです。

 本を自由に読めない世界で、本を読む自由を守る図書隊員の闘いを描いた作品です。

「この作品すごく面白いんですよ」と高校生さんが1600円もする単行本(現在は文庫化)を2冊も購入されたその姿に、これは面白いぞ! と直感し、4冊一気に大人買い! そこには、懸命に立ち向かうことの大切さが描かれていました。その姿に今も前を向いて働くエネルギーをもらっています。でも一番のエネルギー源はお客様の「ありがとう」の一言です。

 

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