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二人組の存在をテーマにしてきた

きらら……『ハッチとマーロウ』は長野県の別荘で、シングルマザーの母親と暮らす姉妹の物語です。ご構想のきっかけを教えてください。

青山……ずっと以前から、双子の話を書きたい気持ちがありました。そもそも私が本を好きになったのは、小学生のころイギリスの児童文学『おちゃめなふたご』シリーズを読んでからです。あの作品を読んで、私も将来、本を書く人になりたいと願っていました。

平井……『おちゃめなふたご』ですか! 今作を読ませていただいて、私も真っ先にイメージした作品です。

青山……あのシリーズは自分にとって、すごく大切な物語になっています。文芸誌でデビューしてから10年以上、いろんな小説を書いてきました。振り返ってみると、私はひとりとひとりが分身のように向き合う、二人組の存在をずっとテーマにしているなと実感します。やっぱりそれは『おちゃめなふたご』を入り口に、本の世界に入ってきたからじゃないかと思うんです。自分の文学的ルーツを作ってくれたその双子にそろそろ恩返ししたいような気持ちになって、『ハッチとマーロウ』の執筆に臨みました。

平井……本当に素敵な双子のお話でした。私も子どもの頃から『おちゃめなふたご』が好きで、あの世界観に憧れていました。クレア学院みたいな寄宿学校に通いたいな、いつも一緒にいてくれる双子の姉妹が欲しいなと思いながら、可愛くない弟と遊ぶしかなかったんですけど(笑)。『ハッチとマーロウ』で、当時の懐かしさを思い出しました。実は、物語の初めの方では主人公は外国の女の子たちだと解釈していました。名前が外国人っぽいですし、家の中や食べ物などの描写が、雰囲気のいい外国のように読めました。それが読み進めるうちに日本人の話だとわかり、少しずつ家庭内の複雑な事情も明らかになって……ぐいぐい引きこまれていきました。書店でお客さんに、どうやって紹介すればいいのか、いい意味で悩まされる小説です。

磯部……私も、すごく好きな物語でした。平井さんと同じく、最初は外国のお話だと思っていました。なので、読み出したときは少しだけ距離感があったんですけど、双子の家庭の謎が解けていくにつれて、ハッチとマーロウが、どんどん身近に感じられていきました。嫌な印象の登場人物がひとりもいなくて、少しずつ出てくる情報が、とても大事なものとして読めました。全部の要素が、本当に丁寧に書かれた本だなと思います。

青山……ありがとうございます。外国みたいな雰囲気の話にしようとは、自分ではまったく意識していませんでしたが、やはり『おちゃめなふたご』の影響かもしれません。今回はイラストを、田村セツコさんにお願いできました。『おちゃめなふたご』で田村さんが描かれていたイラストは、真夜中のパーティや、寄宿学校の様子など、子ども時代の私が憧れていたすべてのものの象徴です。長年書きたかった双子の話で、イラストを描いていただけたのは本当に嬉しい。夢が叶った気持ちです。
ちなみに双子たちが暮らす長野の穂高の家のモデルは、親戚の別荘です。山のふもとの静かな松林のなかにあって、すごく素敵なお家なんです。林を分け入っていく小道の様子など、小説のなかに活かしています。

磯部……映画『ロッキー』も、たびたび出てきますね。

青山……そう! シリーズラストの『ロッキー・ザ・ファイナル』のエンドロールは、見るたびに泣いてしまいます。フィクションというものが現実に生きている人々に、こんなに強い影響を与えるんだと、物語の作り手として感動します。

平井……『ハッチとマーロウ』で「人生より重いパンチはない」という名ゼリフを覚えました。

青山……めちゃくちゃいいセリフですよね。私の好きなものを、いろいろ詰めこんだ特別な一冊になりました。

妹がコミュニケーションの練習台に

青山……私には1歳年下の妹がいます。私が姉というより、むこうがお姉ちゃんのように頼れる存在でした。妹とは双子ではありませんが、年子なので感覚が近く、小さい頃はいつも一緒にいました。「この子だけは私の味方だ」と確信できる存在が、ひとりでもいる幼少期を過ごせたのは、幸せなことだったなと思います。妹がずっと近くにいて、いろんな思い出を共有できた。その経験で私は、世界への信頼みたいなものを得られました。今、大人になって書く仕事をしている原動力にもなっています。

平井……素敵なご姉妹ですね。私には4つ下の弟がいますが、お姉ちゃんが欲しかったので、羨ましいです。

青山……私は実は、お兄ちゃんが欲しいと思っていました(笑)。

磯部……私には弟と妹がいて、妹とは9歳離れています。離れているんですけど、妹の方がしっかり者です。あっちの方がお姉ちゃんみたいに、いつも怒られます。

青山……年の離れたきょうだいも楽しそうですね。

磯部……家族は安心できる絶対の場所というか、どんなときも、やっぱり自分の基礎になっている感じはあります。ハッチとマーロウも、お互いにそうですよね。

青山……たしかに彼女たちは、いろんなことを教え合って成長しています。子どもの頃の私は、妹とのコミュニケーションで培ったものを土台に、身の回りの人たちとの関係性を築いていった気がします。変な言い方ですけど、妹が練習をさせてくれたというか。ケンカしたときの謝り方や、ひとつのケーキのいい分け方など、人間関係をうまく築いていく基本的なことを、妹と過ごすうちに身につけていったように思います。なのに妹と性格が全然違ってしまうのは、面白いです。

平井……ハッチとマーロウの考えていることも、11歳の頃の青山さんとは違うものなのですか?

青山……似ているところはありますが、違うと思います。どこまでも想像の遠くへ行けた、11歳の頃の自分を今大人になった自分が完璧に再現しようと思うのは傲慢であるような気がして、なのでハッチとマーロウに自分を投影するのではなく、千晴ちゃんと鞠絵ちゃんという双子がいて、何を考えるかな? どう行動するかな? ということを、一から書いていったつもりです。

平井……なるほど。フィクションなんですけど、本当に存在している双子を追いかけた、生きている情景の話だという印象がありました。

青山……そう言っていただけると嬉しいです。子どもにはこうあってほしいとか、こういう言葉は使わないでほしいとか、二人に大人が持つイノセンスへの憧れを全部背負わせてはいけないなと思っていたので、安易に大人のエゴの反映にならないよう、バランスに気をつけていました。

子ども時代の自分が引っぱってくれた

きらら……後半はハッチとマーロウのお父さんの謎が明かされていきます。しかし父親が誰であるかという事実は、この小説ではあまり重要ではないように感じました。

青山……父親の存在はハッチとマーロウの周囲にある、たくさんの不思議なもののなかのひとつです。父親個人への興味ももちろんありますが、自分のルーツを知ったり、自分がどういう世界に生きているのか、そういう「生」にまつわるミステリーへの野放図な好奇心に二人は動かされているのだと思います。

平井……ラスト近くの「すぐそばにいなくても、遠くにいても、いっしょに生きることはできるんだ」「いまはこうやって、手を握っていようね」というセリフには涙が出ました。

磯部……私は、お父さんが家族にならなかった理由がわかったとき、胸が苦しくなりました。でもハッチとマーロウが、家族は今のままでも出来上がっているという気持ちでいてくれて、救われました。このお話の続きが読みたいです。

青山……10年後の姉妹の様子は、私も気になります。ここ数年、今さらながら子どもってすごいと感じています。20代のころはそれほど関心がなかったのに、ずいぶん変わったなと思うのですが。友だちの赤ちゃんに会うと、そこにいてくれるだけでありがたい存在だと強く感じますし、新聞に載ってる子どもの詩を読むと、目を細めちゃいます。子どもの喋ることすべてを肯定したくなるような気持ちになるのは、今の自分が子ども時代の自分に感謝しているからなのかもしれません。『おちゃめなふたご』が好きで、憧れの田村さんと仕事ができたのも、少女だった私がここまで引っぱってくれたから。子どもの自分が、いまの私の基になっているんだと、あらためて感じています。
昔、母親が言っていました。「子どもというのは、ちゃんと言葉にする力がないだけで、心の中ではいろんなことを考えているんだ」と。その通りだと思います。言葉になりそうなものはたくさんあるけれど、うまくアウトプットできないから、涙になったり、乱暴な態度になっちゃったりする。端的な言葉として外には現れないけれど、豊穣な感情と時間を生きている子どもたちの日常を書けたらと思っていました。

磯部……時々店頭で、文芸書コーナーにいらっしゃるご年配のお客様に「中学生の孫に本を贈りたいけど、何がいいですか?」と聞かれます。実は、かなり悩みます。児童文学じゃない、思春期の子ども向けの文芸書って、選ぶのがむずかしいんです。

平井……わかります! 人が死んだり傷ついたりしない、激しい恋愛描写のない、安心して中高生にお薦めできる文芸書って、意外と少ないんです。でも、やっと一冊見つけました。

磯部……私も次からは『ハッチとマーロウ』を薦めます。

青山……すごく嬉しいご感想です。ありがとうございます。

 

(構成/浅野智哉)
 

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