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書いている方が読者の意見で気づかされる

きらら……『君はレフティ』は、以前から構想されていた物語ですか?

額賀……いえ、新作のお話をいただいた昨年の春ぐらいから考えました。実はミステリー風の小説は、ずっと書いてみたかったんです。作家志望だった中学生ぐらいのとき、夢中で読んでいたのは、ジュブナイルミステリーの大御所の、はやみねかおるさんでした。

石田……なるほど。

滝沢……いいですね。

額賀……当時、自分で書いて友だちに見せていた作品も、ミステリーっぽい話が多かったです。『君はレフティ』で、とりあえずミステリーの要素を採り入れた単行本を出せたなと。中学のときの読書体験を活かせて、良かったです。

滝沢……本作がミステリーの一作目とは信じられないぐらい、面白かったです。真っ直ぐな青春ミステリーという感じ。友情や恋や謎、ドキドキするところがいっぱいで、読む手が止まりませんでした。最後この子たちは、どうなっちゃうんだろう、と気になって気になって。その最後が、本当に良かったです!

石田……良かったですよねー。

滝沢……できたら、この続きの話を書いていただきたいぐらい。

額賀……あのラストの続きかぁ。どうなっちゃうんだろう(笑)。

石田……私も、面白く読ませていただきました。額賀さんの小説は、デビュー作の『ヒトリコ』『屋上のウインドノーツ』からすべて読んでいます。中でも『ヒトリコ』の衝撃がすごくて。書店員の間でも「すごい新人が出てきたよ」と、話題になっていました。

額賀……本当ですか? 嬉しい。

石田……『君はレフティ』は、これまでの額賀さんの小説のキャラクター造形が、さらに奥深くなった印象がありました。まず主人公の古谷野くん。彼が失った記憶を取り戻していく展開が軸なのだと思っていましたが、それだけではなく、生駒君や春日ちゃんなど周りの子たちの内に秘めてるものが複雑に描かれていって……あの驚きのラストに。記憶をなくしたことで、失ったものは多いかもしれないけど、失ったからこそ、得られたものも大きいのかなと。

額賀……うん、うん。

石田……物語の構造も、魅力的でした。1回目に読んだときはわからなかったけど、最後まで読むと、あの文章はあの登場人物の心の言葉だったんだと気づいたり。もう一度その視点で読み返したら、また面白さが膨らみました。古谷野くんが中心の話ですが、生駒くんと春日ちゃんを合わせた3人で、かわりばんこに主人公を担っているようなつくりになっていると思いました。読むたびに視点を変えて楽しめる、切なくも爽やかな作品です。

額賀……本当にありがたいご感想です。なるほど、そういう構造なのかと私自身、気づかされました(笑)。書いている側は構造とか、実はあんまり意識してません。  書いている最中は、面白くしよう! という一心で、ワーッと書き進めています。それで完成したら、もう手が離れている。自分の小説のここがどうだったとか、詳しい部分は、わからないですね。おふたりのようにきちんと読みこんでくださる方に、教えてもらうことの方が多いです。

滝沢……そういうものなんですね。

額賀……はい。余談ですが昨年、私の小説がいくつか学校の入試問題に採用されました。そのなかに本文の一部を引いて「このキャラクターがとった仕草の理由を選べ」という設問があったんですね。私、著者なのに答えがわかりませんでした(苦笑)。すいません理由も何もないんです、という。

石田滝沢……へえ〜。面白い。

きらら……入試問題のほかに、『タスキメシ』は青少年読書感想文全国コンクールの高校生向け課題図書に選ばれたそうですね。

額賀……はい。あのラインナップに入るのは、けっこう難しいらしいので、光栄です。『タスキメシ』も『君はレフティ』も、まさに学生まっただ中の読者や、学生時代を懐かしく思い出す方に届けたい作品。シンプルに楽しく読んでもらえたら嬉しいです。

文化祭コンプレックスが残っている

きらら……本作は校内イベント「雄飛祭」など、高校生活のワクワクする空気感が、細かく描かれています。やはりご自身の体験が投影されているのですか?

額賀……んー。実は文化祭とか、すすんで参加する側では、ありませんでした。文化祭を盛り上げている人たちとは少し離れて、眺めているだけの生徒。ひねくれていたわけでもないですけど。真面目にやってる子たちの集団には加わらないで、距離を取っているタイプでしたね。中学・高校と、同級生たちがクラス発表で何かやっているなか、私はクーラーの効いた教室で、本を読んでサボっているという。部活は吹奏楽部に所属していましたが、先生には「お前は本腰入れてないな!」と怒られていました。

石田……そんな子、いたなあ。

額賀……あと、うちの中学はそれほど大規模な文化祭をやっていませんでした。高校時代は3年のとき強制的に模試に行かされたので、文化祭には参加できず。10代の、みんなでつくりあげた文化祭の楽しい思い出みたいなものが、他の人より少ないんです。
 大学を卒業した頃ぐらいに、ちゃんと文化祭をしたかったな、という気持ちになってきました。雄飛祭で仲間と青春している、古谷野くんたちが羨ましい。私のなかに消えずに残っている文化祭コンプレックスが、『君はレフティ』を書かせたのかなと思います。

ハッピーエンドよりもトゥルーエンド

きらら……記憶喪失に陥っていた古谷野は、「7・6」という奇妙な数字の出現をきっかけに、過去にあったことを次第に思い出していきます。それにつれて生駒と春日との、意外な関係も明かされます。3人の関係性は、最初から想定されていたのですか?

額賀……そうですね。真相の部分も含めて、プロット段階から変わっていません。

石田……3人の関係は素敵すぎて。それにしても、前園さんって、この作品のなかでは現役高校生の代表みたいな存在ですね。リアルな10代の子の象徴というか。すごく身近に感じられます。好きな人に告白して、その返事を健気に待っていたという。でも結果、彼女の気持ちは成就しなくて……3人がいい子すぎるから、よけい不憫だなと感じました。特に、古谷野くん。彼みたいないい子、現実では出会ったことないです。

額賀……私もないですね。

滝沢……先生を含めて、クラスメートも全体的に、いい人たちですよね。

額賀……本当はクラスのなかに、悪い子がいてもいいのかなと。表向きはいい子だけど、裏では古谷野たちに対して腹黒いことを考えていたりとか。書いているときは、どうしようかけっこう悩みました。でも、そういうのを描写すると枚数が増えそうだし、クラスの嫌な部分を出すのは、目的ではありませんでした。あくまで描きたかったのは、古谷野と生駒と春日のドラマです。彼らを取り巻く環境は、あえてというわけでもないですが、いい人たちばかりにしました。そうすることで視点がぶれず、3人の特別な関係を、深く描けたと思います。

石田……古谷野くんたちは真剣にお互いを見つめ、自分自身とも向き合っていますよね。心情の描写力が、本当にすごい。額賀さんの力は本作で、更に研ぎ澄まされたと感じました。

額賀……最初から褒められてばかりで、機嫌がいいです(笑)。

石田……謎が解けた後の、古谷野くんのセリフは、どれも胸に響きます。「俺の誇りなんだと思うことにする」など、わしっ! とつかまれました。

滝沢……ラスト近くの「爺二人と婆一人で、楽しく老後を過ごそうよ」というセリフも、素敵ですよね。そういうことが言える関係性って、憧れます。実際に古谷野くんたちは、歳を取っても一緒にいますよね。

額賀……でしょうね。仮に誰かと結婚したり、家庭を持っても、お互いに遠くへ離れたりしない。それぞれ家族に怪しまれたりしても(笑)3人の距離は、近いままの気がします。

きらら……後半の構成は、見事でした。辛い真相が明かされながらも、誰もが満たされる結末で締められます。ポジティブな終わり方にしようという気持ちはあったんですか?

額賀……うーん。実はハッピーエンドには、こだわっていませんでした。誰かと誰かがカップルになって収まれば、物語の形としてはきれいだろうけど、ちょっと違う気がしました。ウソっぽい感じがするというか……とにかくハッピーエンドより、トゥルーエンドになるよう、心がけました。
 人生そんなトントン拍子に、幸せな結末にはならんでしょうという気持ちが、根本にはあります。かといってバッドエンドが好き、というわけではなく。『君はレフティ』も読者がびっくりするような、バッドエンドにもできましたが、それはそれでウソくさい。安易なハッピーエンドにも、バッドエンドにも逃げない、そうなるのが真実だと腑に落ちる、トゥルーエンドの物語を目指しました。

石田……額賀さんの過去の小説は、全部そうだと思います。都合のいい話に収まっていない。だからリアルですし、『君はレフティ』も、心の深い部分に落ちていきます。

滝沢……ありきたりなハッピーエンドではなくても、こんなに感動できるんだと思いました。

額賀……そう言っていただけると、安心します。単純にカップル成立で終わりの話にしなくてよかった(笑)。

きらら……では書店員の方々にメッセージをお願いします。

額賀……まずは『君はレフティ』をどうぞよろしくお願いします。今年は他にも、たくさん新作が出る予定です。
 私は10歳から小説を書きだしました。年々、作中の登場人物の年齢も私と一緒に上がっていて、最近ようやく社会人の小説を書けるようになってきました。これからは若い人はもちろん、大人の読者の方にも楽しんでもらえる小説を書いていくので、期待していてください。

 

(構成/浅野智哉)
 

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