採れたて本!【国内ミステリ#47】

採れたて本!【国内ミステリ#47】

 昨年、結城真一郎原作の映画『#真相をお話しします』が公開されて話題を呼んだ。原作はそれぞれ関連のない独立した作品から成る短篇集なのに、どうやって1本の映画にまとめ上げるのか……という点は公開前から不思議だったが、いざ観てみると、原作のうち「#拡散希望」を物語の外枠として、他の短篇を入れ子に組み込んだ構成には「よく考えたものだ」と感心させられた。

 その結城の新作長篇『少年ABCの完璧な選択』を読みながら、私は映画『#真相をお話しします』を思い返していた。というのも、本書もあの映画同様、個人情報の暴露によって要求を通そうとする劇場型犯罪を扱っているからだ。雑誌連載が始まったのは映画公開より前なので、そのあたりは偶然の一致だが。

 プロローグは、2025年、蓮沼乃愛という女性が誘拐され、それを知った関係者たちがある事件を思い出すという内容だ。第一部では、2010年に起きたその事件の経緯が描かれる。中学二年生の桐原翔吾、黒石鉄平、猿渡大樹は、幼馴染みの鮫島乃愛(後の蓮沼乃愛)が母親とその愛人に虐待されていることを知り、彼らに復讐する計画を立てたが、思わぬ大事件に発展してしまう。だが、ある方策により完全犯罪が成立する。

 そして第二部──2025年。乃愛を誘拐した犯人は、15年前の事件の容疑者だった少年ABCの3人のうち真犯人は今夜10時までに名乗り出よ、さもなくば人質を殺す──という要求をSNSを通して拡散させた。しかも、タイムリミットまでの3時間ごとにABCの個人情報を晒す、とも。

 3人は集まって対策を練るが、彼らの個人情報は少しずつ晒され、残酷な世間の好奇心によって実名や職場、家族関係までが絞り込まれてゆく。今や家庭を持つ者もおり、失うものが大きすぎる。選ぶベきは今の家族か、かつての友情か。

 15年前に3人の少年を取り調べた警察官・善塔が、再び彼らと相まみえることになるが、頑なに口を割ろうとしない3人の態度に不審さを覚える。読者は第一部で事件の経緯をすべて見届けたような気になる筈だが、この第二部で、実は読者にも伏せられていた情報があることに気づかされる。ここで、フーダニットや元少年たちの沈黙の理由をめぐるホワイダニットといった、ミステリ的な興味が前面に打ち出されることになるのだ。胸を抉られるような読み心地の青春小説であり、SNS社会の恐怖を描く社会派サスペンスであり、意外性たっぷりの本格ミステリでもあるという、読みどころがふんだんに用意された傑作である。

少年ABCの完璧な選択

『少年ABCの完璧な選択』
結城真一郎
新潮社

評者=千街晶之 

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