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英国つれづれ第5回バナー
どこまで行っても、窓から見えるのはたいてい住宅街。しかし、これまで見てきた街とは、少し様子が変わってきました。ブライトンの街中でよく見る住宅は、いわゆるフラットです。京都の町屋のように、間口が狭く、奥に向かって細長く、裏手に小さな庭がついている……たいてい3階建てくらいの長方体の住宅が密接して並ぶ、なかなか圧迫感のある
相場英雄『覇王の轍』
素朴な疑問が出発点 〈こんなビジネスモデルで、どうやって経営を続けていくんだ?〉拙著『覇王の轍』は、こんな素朴な疑問が出発点となった。先に触れたビジネスモデルとは、〈ガラガラに空いた列車〉を指す。素人目にみても、将来的に破綻するのが目に見えていると映ったのだ。私事で恐縮だが、日頃の取材活動では自ら自動車やバイクを駆り、
辻堂ホームズ子育て事件簿
「侮るなかれ、マタニティブルー」2023年1月×日 先日、30歳になった。2人の子のママになって約1年、逆にまだ20代なのが不思議だ~、くらいに軽く考えていたけれど、いざ年齢欄に「30」と書くようになると、ちょっとずっしりくるものがある。そんなわけで周りもいよいよ出産ラッシュだ。この年末には、クリスマスから大晦日までの
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第228回
 休憩後、ふたたび開廷した。反対質問に立ったのは青葉だった。増山に向かって微笑みかけた。増山は赤面した。「あなたは女子中学生に性的興味があり、ジュニアアイドルのDVDを大量に保持しており、女子中学生が監禁・レイプされる漫画を愛読していた。そうしたものを観たり読んだりしながら自慰行為に耽(ふけ)った。そうですね?」増山の
ハクマン第100回
最近漫画編集者の Twitter アカウントが炎上したらしい。だが、私は当該ツイートを見ていない。何回かそれと思しきツイートは流れて来たが、スマホを窓から大遠投するなどして意識的に見ていない。何故なら私は基本的に編集者の口から出たというだけで何を言っていても怒るからだ。例え内容が「猫は神」という宇宙の真理だったとしても
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第227回
「では次に、逮捕の直後に行われた取調べについてお訊ねします。増山さんはここで、柳井係長に、自分が綿貫さんの遺体を遺棄した犯人であるかのように認めてしまっています。なぜでしょうか?」「それは──その前の取調べで、自分がやったって言っちゃったから。今さら取り消せない感じになって」「本当はやっていないのに、任意の取調べで、綿
英国つれづれ第4回バナー
いやもう、ここはどこ? 住宅街を抜け、牧草地を抜け、また住宅街を抜け……。変わり映えのしない景色を延々と眺めるうち、小1時間が経過したでしょうか。私の不安は、ひとりでは抱えきれないほど大きくなってきました。車内アナウンスは流れるものの、走行音が意外なまでに大きく、ろくに聞き取れないのです。もしかしたら、行くべきおうちの
大どんでん返し第26回
第26話 伊与原新「古地震学教授」 ほこりをかぶった長持の中から、今にも破れそうな和紙の束を慎重に取り出していく。古文書の取り扱いには、いつまでたっても慣れない。「大学の先生ってことは、おたく教授ですか?」家主の男が言った。「いえいえ」私は手袋をはめた手を止めて、苦笑いする。「准教授ですよ。うちの教授に言わせれば、昇格
作家を作った言葉〔第13回〕安壇美緒
 安壇さんは頑張った。本屋に売ってる本みたい。作家になってからも、なる前にも、なんとなく心に残るコメントを頂戴したことが何回かある。好みの問題なのだろうが、どれもかなりシンプルで、それゆえに肯定的なニュアンスが強い。学生時代、大教室の授業で初めて短編小説を提出した時に返していただいたコメントも、そういう感じの言葉だった
黒田小暑『ぼくはなにいろ』
「私」が生まれる前のこと 私が15歳のときに、私は生まれた。それまでの私は、体はすでにこの世にありながら、心はいまだ形すら出来ていなかった。当時から本だけはよく読んでいたものの、どこか陰気で、友達の輪に飛び込んでいけず、体もまだ貧弱だった。いまでも覚えているのは、小学3年の、クラスのレクレーションの時間にキックベースを
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第226回
 刑務官に付き添われて出廷した増山は、志鶴と目を合わせようとしなかった。が、傍聴席にいる文子の姿に気づくと、しばらく彼女を見ていた。裁判官と裁判員が入ってきた。能城が開廷を告げ、増山を呼んだ。増山が立ち上がり、証言台へ向かった。能城が人定質問をし、増山が答えた。声がかすれていた。能城が増山を着席させた。法廷はしんとして
前川仁之『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』
アース・シェアリングに向けて スペイン南部アンダルシア州の州都セビーリャから十五キロあまり下ったところにコリア・デル・リオという町がある。スペイン語で日本を意味する「ハポン」姓を持つ者が大勢いることで有名な町だ。ハポン姓の起源はかれこれ四百年も前に伊達政宗がスペインに派遣した慶長遣欧使節団にある。その細かい任務は略すと
# BOOK LOVER*第13回* ふかわりょう
 40代に入ってからでしょうか。夏目漱石や川端康成、いわゆる文豪と呼ばれる人たちの小説を能動的に読んでみよう、と思うようになったのは。『こころ』をちゃんと読んでみて驚きました。主人公が慕う「先生」は一体どんな悩みを抱えているんだろうというひとつの大きなクエスチョンがあって、その謎で読み手を牽引していく。序盤からもう「何
ハクマン第99回
これを書いているのは1月5日であり、この日から「仕事はじめ」という会社も多いと思う。私のところにもすでに、原稿の催促が3件、そして請求書を出せというメールが1件届いている。つまり作家にとって仕事はじめの日に仕事をはじめるのは、全裸になってから風呂に湯を張り始めるレベルの手遅れということだ。しかし誰でも年に一度ぐらいは全
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第225回
16 五月三十一日。増山の第七回公判期日。今日は増山への被告人質問と、被害者参加制度による被害者の意見陳述が行われる。残りは検察側による論告・求刑と弁護側による最終弁論等を残すのみ。公判もいよいよ大詰めだ。被告人質問では、文字どおり被告人に対して弁護側・検察側が、証人尋問と同様に交互に質問を行う。否認事件の被告人質問で
英国つれづれ第3回バナー
あまりにも呆然としている私が可哀想になったのかもしれません。あるいは、自分の店の中で仁王立ちになったまま動かない東洋人の女の子を、いささか不気味に思ったのかもしれません。お花屋さんの店主は、「あんた、何色の花が好きなの?」と助け船を出してくれました。「ええと……黄色、オレンジ色、かな」幼い頃からキンモクセイの花が大好き
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第224回
 続いて、本日最後となる、検事調べの三本目の映像が再生された。三月二十二日。綿貫の殺害時の状況についての増山の供述が中心となる。増山は無表情、というより感情が死んでいるように見えた。目の下に隈(くま)ができている。無精ひげも目立った。『おはよう、増山。調子はどうだ?』岩切が声をかけた。『昨日は足立南署で、絵里香さんを待
辻堂ホームズ子育て事件簿
「世界が優しくなった」2022年12月×日 『ぬ』──と一言、スマートフォンにメッセージが届いた。個人で利用しているインスタグラムからの通知だった。卒業後も仲良くしている大学時代のサークルの先輩からのDMだ。『ぬ』ってなんだよ、と首をひねりながら、一文字だけのメッセージを眺める。えーと誤送信でしょうか? とフリック入力