読みもの

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◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第2回
第2話 4日目の炊飯器 朝ベッドの中で、昨晩ほろ酔い気分でうっかり追加のトーストを焼いてしまったことを少しだけ反省していたら、唐突に母のことを思い出した。子供の頃、トーストを食べるために冷蔵庫からいちごジャムを取り出してきてパンに塗ろうとしたら、姿見の前で出かけ支度をしていた母にいきなり窘められた、そんな思い出だ。
大どんでん返し第9話
 侍女が恭しく部屋の清掃の許可を求めた。姿見の前に立つ男は一瞥もくれずに促す。掃除などどうでもよかった。頭の中は今なお続く戦争の始末と、自身の進退でいっぱいであった。
辻堂ホームズ子育て事件簿
2021年11月×日 今日は、第2子の出産予定日だ。その第2子は、予定日2日前に生まれた。つまり今、私は生後2日目の息子とともに入院している。(「生まれました!」と喜びいっぱいに報告するのもなんだか気恥ずかしく、紛らわしい書き方をしてしまい、すみません。)
河﨑秋子『絞め殺しの樹』
子鹿の死に方と死なない白猫 よくある話で恐縮だが、動物が死ぬ話に弱い。嫌いではなく、涙腺の耐久値が低く、気を抜くとすぐに泣いてしまう。その最初は、忘れもしない、子どもの頃に見たアニメ『子鹿物語』だ。
武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
修学旅行リピーター 先日、母校で講演会を行うことになったため、宇治の実家に帰った。コロナの影響もあり、京都に行ったのは随分と久しぶりだった。今回の帰省の私の目的は二つ! 一つは勿論、講演会。そしてもう一つは緊急事態宣言中に出来なかった京都取材を行うことだった。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第168回
「ここに映し出された内容について、裁判員の皆さんにもわかりやすく説明してもらうことはできますか?」「できると思います──」染谷はそれが増山のブラウザの履歴であることを説明した。「ここに『女子中学生 レイプ』という文字があります。これは何でしょうか?」「それは検索文字列です。パソコンを使っていた人がキーボードで打ち込んだ
ハクマン第72回
現在夜中の1時である。今日も2ちゃんねるの修羅場まとめを朗読しているだけの動画を永遠に流していたらこんな時間になってしまった。ちなみに本日は私の誕生日なのだが特に侘しさはない。
◇長編小説◇白石一文「道」連載第13回
3 功一郎が渋谷道玄坂のピザレストラン「ベリッシマ」に行ったのは、碧とコレド室町で会って九日後の一月十八日金曜日のことだった。その日は午前七時前に出社し、誰もいない職場で、昨夜借りてきた「恋は雨上がりのように」のDVDをデスクのPCで視聴した。二時間足らずの映画だったので、部員が出てくる頃には観終わっていた。主人公の
吉野弘人『ゴルファーズ・キャロル』
講釈師見てきたような嘘をつく 除夜の鐘と同じ数を叩く典型的な煩悩ゴルファーだった私でも、ボビー・ジョーンズのニッカーボッカー姿の写真には見覚えがあるし、ベン・ホーガンの『モダン・ゴルフ』も実は持っていた。アーノルド・パーマーやゴールデン・ベアもファッションブランドとして有名だ。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第167回
 志鶴は立ち上がった。「反対尋問の必要はありません」「五人の証人が取調べられてきたが、弁護人は一人も反対尋問していない。反対尋問しないなら、最初から書証の取調べを認めていれば、貴重な時間を割いてくださっている裁判員の皆さんに余計な負担をかけることもなかったのではないか?」獲得できるものがなければ反対尋問はするべきではな
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載スタート
第1話 3日目のオーブントースター ドアのチャイムが鳴って、宅配便が届いた。配達員さんから受け取ったその真新しい箱を、部屋の隅に積み上がったままの引っ越し用段ボールの一番上に神棚のようにのせると、私はパソコンの前に戻って仕事の続きに取り掛かった。
大どんでん返しスペシャル第8話
第8話藤崎 翔「夢の小説」  都内の一等地に建つ豪邸。その客間で、家の主である若手作家と、担当の編集者が打ち合わせをしている。その作家は、公募の新人文学賞を二十代半ばで獲って華
あの作家の好きな漫画 浅倉秋成さん
小さい頃から様々な媒体の物語を楽しんできましたが、純粋に嗜んだ量だけを比較するのであれば、多い順に「アニメ」「漫画」「映画」「小説」となっていると思います。幼い頃から圧倒的なアニメ&漫画っ子でした。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第166回
5 志鶴は弁護人席へ戻った。「いい陳述だった」そう聞こえて顔を向けると田口と目が合った。田口がまた前を向く。本当にそう言ったのか確証が持てなくなる。裁判員が検察官の冒頭陳述で抱いた強烈な有罪心証を弁護人の冒頭陳述だけで覆すのは不可能だろう。それでも打つべき布石はすべて打った。
小野寺史宜『ミニシアターの六人』
雨の銀座でミニシアター 大きなことは何も起こらないが。僕の小説を説明するときによくつかわれる言葉です。かなりの高頻度でつかわれます。ほとんど枕詞。たらちねの、みたいなものです。確かに、僕の小説で大きなことは何も起こりません。ただし、小さなことなら無数に起こっています。
吉川 凪『世界でいちばん弱い妖怪』
キム・ドンシク、悪魔と取り引きした作家 世界でいちばん弱い、白いピラミッドみたいな妖怪が突然、空き地に出現したように、ベストセラー作家キム・ドンシクは韓国の出版界に突如として現われた。
ツチヤタカユキ『前夜』
前夜前夜 『YouTube は元々、出会い系サイトだった』という話が好きだ。動画を利用した、出会い系サイトとして、作ったサービスが、いつの間にか、今のような使われ方になって、現在の形にまで発展したらしい。
◇長編小説◇白石一文「道」連載第12回
2 帰宅したのは午後九時半過ぎだった。渚には早見たちと一杯やってくるとラインしておいたので、別段不審がられることもなかった。酔い覚ましの濃い緑茶を淹れて貰う。ダイニングテーブルで熱いお茶をすすりながら、キッチンで煮物をこしらえている渚に声を掛けた。「美雨は?」玄関に靴はなかったし、彼女の部屋の前を通っても人の気配は感