採れたて本!【国内ミステリ#44】

澤村伊智の『ぼぎわんが、来る』といえば、日本ホラー小説大賞受賞作の中でも屈指の傑作として定評がある。この作品でデビューした著者は、ホラーとミステリを中心に八面六臂の活躍を続けているが、最も広く読まれているのは、その『ぼぎわんが、来る』に始まる通称「比嘉姉妹シリーズ」だろう。
霊能者姉妹の比嘉琴子と真琴、そしてオカルト系フリーライターの野崎昆が中心人物だが、既刊からは琴子と真琴以外にもきょうだいがいることが窺えた。新刊である長篇『ざんどぅまの影』と短篇集『ととはり屋敷』では、そんな比嘉家の全体像がようやく判明する。
まず『ざんどぅまの影』。1981年、神奈川県のある地域で、住人が怪異に襲われて溺死するという異変が相次ぎ、主人公の佐久間篤らは自警団を結成する。しかし、変死事件の発生はとどまるところを知らず……。
この物語に登場する沖縄出身のユタ・比嘉勝子こそが比嘉姉妹の祖母である。今まで、姉妹が沖縄ルーツである設定はさほど重要な要素として扱われたことはなかったと思うが、本書では差別や排外主義といった現在に直結するテーマとの関わりで、このルーツが持つ意味が強調されている。また、主人公の篤は2020年時点で故人であり、本書は霊媒師の口寄せによる彼の語りから成っているのだが、そこにテーマと直結する仕掛けが用意されているのが実に巧妙だ。
一方、『ととはり屋敷』は時代も舞台も視点人物も異なる6つの短篇から成っている。「チノカゼ、あるいは怪談の双曲線」が綾辻行人の『殺人鬼』を意識していたり(タイトルの元ネタは西村京太郎の『殺しの双曲線』だろう)、怪談とデスゲームものの融合に挑戦した「メイク・ユア・チョイス」では映画『SAW』が引き合いに出されるなど、既成作品へのオマージュも散見される。
この短篇集で描かれているのは比嘉家の人々の悲惨な最期だ。年端もいかない弟妹たちが呆気なく命を落としてゆくさまは実に痛ましい。
琴子が霊能者として最強クラスなので、彼女が登場すると「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」になりかねないところ、「かたので駅の怪」は、そんな彼女にも何故か気づけないことがある……という理由の解明が切ない。また、巻末の表題作は、今は「ととはり屋敷」と呼ばれている比嘉家の廃屋が舞台で、タイトルの意味の回収がこれまた悲哀を感じさせる。登場する怪異も人間もおぞましいが、比嘉家のきょうだいたちの愛情が読者の胸をうつ一冊でもある。
評者=千街晶之







