採れたて本!【国内ミステリ#45】

警察小説ファンならご存じの通り、警察組織には数多くの役職があるが、「警察の中の警察」と呼ばれるのが監察官だ。警察庁・警視庁・各道府県警本部に設置され、警察不祥事の捜査や、内部罰則を犯した警察官の取り調べなどを担当する。立場上、他の警察官から畏怖・敬遠されることが多いようだ。
監察官を主人公とする警察小説には、伊兼源太郎の「警視庁監察ファイル」シリーズや、深町秋生の「監察係黒滝」シリーズなどがあるが、天祢涼の『県警の番人』はやや特異な試みだ。というのも、作中では確かに監察官は重要な役割を果たすが、主役というより「影の主人公」に近い役割だからだ。
著者は2010年、『キョウカンカク』(文庫化の際に『キョウカンカク 美しき夜に』と改題)で第43回メフィスト賞を受賞しデビュー。特殊設定ミステリから社会派ミステリまで幅広く執筆しており、警察小説の作例には、神奈川県警生活安全課の警察官・仲田蛍が活躍するシリーズがある。
『県警の番人』は全5話から成る連作短篇集だ。第一話「組織の論理」の主人公・佐々倉嶺夫は、今月いっぱいで定年退職するQ県警の警察官。手柄とは無縁、階級も巡査部長どまりの地味な警察官人生だった。だが彼のもとには、「真実を黙ったままやめるつもりか?」という匿名の手紙が何通も届いていた。佐々倉は10年前、ある事件に関して「県警の番人」の異名を取る監察官・鏡真人の聴取を受けたことを思い出す。
これに続くエピソード群も、何らかの理由で鏡と関わった警察官たちを主人公としているけれども、読み進めるうちに読者は奇妙な印象を受けるに違いない。エピソードごとに、ある時は温厚、ある時は威圧的……と、鏡のイメージが全く異なるからだ。しかも、Q県警では監察官の任期は基本3年、再任は不可となっているにもかかわらず、鏡だけは他の部署に異動しては監察へ戻るという異例の人事が繰り返されている。
果たして鏡は、かつては腐敗していたQ県警の立て直しに必要不可欠な正義の人なのか、それとも不祥事の隠蔽も辞さぬ冷徹な組織の論理の権化なのか。各エピソードの主人公となる警察官たちの目には、それぞれ異なる鏡の姿が映る。読者にとって鏡は名探偵でありながら、彼の存在自体が謎でもあるのだ。その謎が明かされる第五話「番人の番人」で、読者は計算され尽くした伏線回収に驚嘆させられるに違いない。警察小説としての重厚さと、本格ミステリとしての華麗なまでの外連味とを兼備した逸品だ。
評者=千街晶之






