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「推してけ! 推してけ!」第24回 ◆『やっかいな食卓』(御木本あかり・著)
評者=北上次郎(文芸評論家) 六十九歳で初めて書いた小説とは信じられないほど、うまい。まず、文章が滑らかなのだ。これだけで驚く。というのは、新人賞の下読みをやっている者の実感として言うと、素人の書いた文章は、どこかぎくしゃくしていることが多い。いま話しているのは誰なのか、それがわからないことすらある。かといって、それを
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辻堂ホームズ子育て事件簿
2022年9月×日 「ママぁー、といれぇー!!!」ある朝。保育園の入り口に、泣き声が響き渡る。保育士さんに抱かれた2歳娘が、腕の中で身をよじり、私に向かって必死に手を伸ばしている──。先月、引っ越しをした。これまで住んでいたマンションから、旧祖父母宅へ。一人暮らしをしていた祖母が去年の秋に亡くなり、1年近く空き家になっ
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド 今回の目利きさん うなぎBOOKS 本間悠さん
高校生の頃から、摂食障害を患っていた。食べ物を美味しいと思う正常な味覚は持ち合わせていると信じたいが、一定量を超えた「それ」は私にとって吐くために詰め込んでいる物質で、美味しいとか美味しくないとか心を込めて作られているとかいないとか、そんなことは二の次だった。食べることは嫌いではない。嫌いではないが、食べている自分は間違いなく
御木本あかり『やっかいな食卓』
家族って面倒……から全てが始まった コロナ禍に襲われて早二年半。マスク着用、飲食・外出を控え、人とは距離を置く、等々あれやこれや。私達は日常を制限され、なにげない普通の日々がいかに貴重だったかを思い知らされたのでした。当たり前過ぎて考えもしませんでしたが、人と語らい、楽しく食事をするって、人として生きる大事な要素だった
武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
地震、雷、火事、歯医者 人生には怖いものがたくさんある。地震、雷、火事、親父……なんて言葉もあるが、私だったら親父よりも歯医者の方が百倍怖い。なぜ突然そんなことを言い出したかというと、現在、歯医者の待合室でこのエッセイを書いているからだ。虫歯の治療ではなく、定期健診の為にやってきている。真っ白な内装は素敵だが、そのくら
むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第2回
 積読から解放される日は来るのだろうか。読むペースをはるかに超えて買ってしまうので、未読の本が溜まり続ける一方だ。いつか読む、と思って買ってもそのまま2~3年経過して気が付けば文庫化されていたりする。あぁ時間がほしい……。そんな時、ふと天からの声が聞こえた。「読み終わるまで、読書休暇をとっていいよ」。いまだ。いましかな
酒井順子『女人京都』
私が京都に住まない理由 京都が好きでしばしば通っていると、「マンションでも借りて、向こうに住めばいいのに」と言われることがあります。確かにそのプランは、魅力的。京都好きが昂じて移住した人々の話を聞くと、羨ましさが募るものです。が、しかし。私はおそらくこの先も、京都に住むことはないのでしょう。京都に住むということは、京都
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第210回
「すでに述べたように、吸い殻と精子のDNAは別人に由来するので、ほとんどの型が一致していませんが、一番高いピークと一番低いピークを比べてみると、あることがわかります」園山は具体的に注目すべきピークを指定した。「どちらも精子のピークの方が高い。私がすべてのピークの高さを集計して平均を割り出した表も出してください」志鶴は言
最所篤子『小さなことばたちの辞書』
万人に与えられた復活の道具 はじまりはとても静かだった。幼いエズメの目に映った魔神のランプのような写字室/スクリプトリウムは、もう今はない祖父の書斎や長野の恩師の図書室を私に思い起こさせた。記憶と重なるその空間で、生き物のようなことばが救われたり捨てられたりしていた。ことばたちは儚く、すぐに失われてしまうのに、同時に世
採れたて本!【国内ミステリ】
 思い返せば昭和の頃には誘拐事件が頻繁に起きていた記憶があるけれども、昨今は監禁目的の場合はともかく、身代金目当ての誘拐は滅多に起きないのではないか。ちょっと前の刑事ドラマでは、逆探知の時間を稼ぐため犯人からの電話への応答を可能な限り引き延ばす描写がよく見られたが、通信解析技術が発達したため今はその必要がなくなっている
ハクマン第92回
防災省もドン引きの大型台風14号がやってきた。我が故郷は他の都道府県から忘れられているのはもちろん、住んでいる者さえ時々自分がどこに存在しているのか見失うレベルの地味県である。しかし、今年は4,630万円誤振込を皮切りに、甲子園で準優勝、その快挙の裏で私の集落は野生の猿に住民が60人以上襲われ、危うく村が滅びかけたりと
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド 今回の目利きさん 吉見書店 竜南店 柳下博幸さん
 タイトルの「クロコダイル・ティアーズ=ワニの涙」とは、嘘泣きや偽りの涙。悲しんでいるように見せて実は……という慣用句。古代ローマ時代にはすでに「ワニが獲物を食べながら涙を流す」ことが知られており、かのシェイクスピアも作中で「計略としての涙」「偽りの懺悔としての涙」を「ワニの涙」と表現している。実際は体内の塩分排出行為
荒木あかね『此の世の果ての殺人』
謎の魅力 今年五月、ミステリーの老舗新人賞として知られる江戸川乱歩賞に荒木あかね『此の世の果ての殺人』が選出された。二三歳七ヶ月での受賞は、一九五四年創設の同賞において史上最年少だ。本作は、探偵&助手が連続殺人事件の謎を解く本格ミステリーである。ただし物語の舞台は、人類滅亡が決定付けられた世界だ。 『地上最後の刑事』か
◉話題作、読んで観る?◉ 第54回「よだかの片想い」
 顔に痣のある女性を主人公にした、島本理生の恋愛小説の映画化。女優の松井玲奈が長年熱望していた企画で、主人公が傷つきながらも成長していく姿が繊細かつドラマチックに描かれている。大学院生のアイコ(松井玲奈)は生まれつき、顔に青い痣があった。周囲に気を使われるのが嫌で、大学院で研究に没頭する日々を送っている。出版社に勤める
深明寺商店街の事件簿4兄弟編
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがた
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第21回
第21話 19日目のソース焼きそば 冷蔵庫を開けるとクラフトビールがずいぶんいろいろ溜まっていた。それは冷蔵庫の棚一段を丸々占拠していた。3ヶ月前に始めたクラフトビールのサブスクで、家には毎週6本のクラフトビールが届く。ビールはもともとはっきりとした味のものが好きだったということもあり、自分自身も構築に携わったサブスク
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第209回
「先ほどの遠藤証人への尋問で、塩素系漂白剤の成分である次亜塩素酸ナトリウムはDNAを破壊する、という証言がありました。次亜塩素酸は、法医学など検査や実験を行う現場ではどのような位置づけのものでしょうか」「次亜塩素酸ナトリウムは生化学の世界ではとてもなじみ深い試薬の一つで、検査室には何本もの容器が常備されています」「なぜ
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド 今回の目利きさん 成田本店 みなと高台店 櫻井美怜さん
 音は光よりも遅い。頭ではわかっていても、花火が打ち上げられたドーンという音が背後から聞こえると、振り返らずにはいられない。そこにはもう、火花の気配すらないというのに。出版社で働く橘は、美麗なグラフィックの世界観の中でモンスター討伐をする“リンドグランド”というアプリゲームにはまっている。昼は社会人としてきちんと働き、