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目利き書店員のブックガイド 今週の担当 未来屋書店石巻店 恵比志奈緒さん
 傘を持たずに来た愚かさを呪いながら、上着のフードを被り、国道を渡る。間引きされたように空き地の多い住宅地の間を抜け、かつて通った本屋の跡地に新たに鉄骨が組まれているのを横目に、波打った歩道を急ぐ。口元はマスクの覆いがあるものの目元に吹き付ける雨は細く冷たかった。降ると分かっていた雨だというのに。しばし歩いても雨脚は弱
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◉話題作、読んで観る?◉ 第60回「ロストケア」
 日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕の犯罪小説を、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』や『そして、バトンが渡された』が高く評価された前田哲監督が10年がかりで映画化。松山ケンイチと長澤まさみが共演した、スリリングな法廷サスペンスに仕上げている。検察庁に勤める大友秀美(長澤まさみ)は、老人と介護センターの
目利き書店員のブックガイド 今週の担当 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん
 365日全身冷え性である。手を洗えば手先が紫色。気温が下がる朝晩は顔面蒼白。特に冬の夜は、寝る前の準備が大変だ。ヒートテックを数枚重ね着からのカイロと靴下。湯たんぽをセットし、毛布は2枚重ね。毛糸の帽子とマスクを着用しいざ就寝となる。冷えとは戦いである。そんな私にある驚きの作品が目にとまった。史上初!? の冷え性小説
採れたて本!【デビュー】
 ミステリー系の新人賞からSFが出たり、SFの新人賞からミステリーが出たりすることは珍しくない(最新のアガサ・クリスティー賞の西式豊『そして、よみがえる世界。』は前者の例、前回ハヤカワSFコンテスト優秀賞の安野貴博『サーキット・スイッチャー』は後者の例)。SFとミステリーは両立するから当然の話だが、第10回ハヤカワSF
田島芽瑠の読メル幸せ
3月になりました 春の訪れを肌で感じるこの季節。今年は特に花粉症に苦しめられています。今まで花粉症ではなかった方も今年は発症される方が多いみたいですね。花粉症の私にとってつらい季節ですが、花粉症の皆さんは共に乗り越えていきましょう!そして花粉症じゃない方はどうか今年もこちら側に来ませんようにと願っています。ふと、本の
◎編集者コラム◎ 『異人の守り手』手代木正太郎
『異人の守り手』の編集者コラムをご覧いただき、ありがとうございます。本作品の編集を担当しましたA田と申します。本作の舞台は幕末、慶応元年の横浜。開港から六年、横浜には日々多くの外国人が行き交うも、いまだ日本人と外国人の衝突はなくならず、外国人の中には、身の安全に不安をおぼえる人も多くいたとか。そんな中、人知れず闇から闇
◎編集者コラム◎ 『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』高橋ユキ
 今から10年前、山口県の集落で起きた連続殺人放火事件の真相に迫る『つけびの村』は、2019年に刊行され、事件ノンフィクションとしては異例のベストセラーになりました。同作はもともと、『週刊ポスト』で記者として活動していたライターの高橋ユキさんが小学館ノンフィクション大賞に応募した原稿がもとになっています。しかし、結果は
◎編集者コラム◎ 『警部ヴィスティング 疑念』ヨルン・リーエル・ホルスト 訳/中谷友紀子
 人は老いる。40代で実感する人は少なかろうが、50代の半ばも過ぎれば多くが実感しはじめるだろう。60代なら、なおさらだ。人は老いて、いずれ人生の表舞台から下りなければならなくなる。いくら足掻いても無駄なのだ。しがみついても醜さが増すだけだ。ヴィスティングも引退を意識する年齢になっている。人の名が思い出せなくなっている
目利き書店員のブックガイド 今週の担当 ときわ書房志津ステーションビル店 日野剛広さん
 私は独身で子どももいない。よく独身者に対して所帯や子どもを持たないと「人として一人前ではない」「親の気持ちは分からない」と言う人がいる。私もよく言われたもんですよ。私自身親の気持ちが理解出来ているとは言い難いし、褒められた人間でないことは自覚しているが、結婚しない事情、子どもがいない事情は人それぞれだ。逆に既婚者や家
◎編集者コラム◎ 『満天のゴール』藤岡陽子
「この本を読んで、死ぬのが怖くなくなったわ。ありがとう」本が大好きだった私の母は、その言葉を遺し、数ヶ月後になくなりました。それは私にとってとても大切な思い出で、故にこの小説は私にとって、とても大切な作品です。これは私が体験した小さなエピソードですが、この作品が多くの人の心に響き「救われた」「死生観が変わった」など多く
◎編集者コラム◎ 『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』長月天音
 4+1回、本当に泣きました。『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』単行本で謳われていた「4+1回泣けます」のコピー。「ほーん……?」とひねくれた目線を投げかけながら一読し、ものの見事に涙ぐんでしまいました。1.交通事故で高校生の息子を亡くした母親の心を解く、僧侶・里見の言葉に。2.自死を選んだおばあさんの、赤裸々な
採れたて本!【海外ミステリ】
 どっしりと構えて、関係者一人一人の話を聞き、謎の霧の中に分け入っていく。その重苦しくも確かな男の歩みが、いつも私の心を夢中にさせてきた。その男の名は、ジミー・ペレス。イギリス最北端の地、シェトランド地方の警部である。東京創元社から刊行のアン・クリーヴス『炎の爪痕』は、ペレスを主人公とした〈シェトランド四重奏〉シリーズ
◎編集者コラム◎ 『鴨川食堂ひっこし』柏井壽
『鴨川食堂ひっこし』の編集者コラムをご覧いただき、ありがとうございます。本作品の編集を担当しましたA田と申します。『鴨川食堂』は依頼人の「もう一度食べたい」を叶えるべく、料理人の流と探偵のこいしが「思い出の味」探しに奮闘する物語です。「次の巻はいつでるの?」という読者様からのお問い合わせも多い人気シリーズですが、10作
目利き書店員のブックガイド 今週の担当 丸善丸の内本店 高頭佐和子さん
 亡くなってから40年近く経つ今も、新たな読者を獲得し続けている大作家の復刊である。有吉佐和子作品のすべてを読み尽くしたとまでは言えないものの、タイトルくらいは全部知っているはず……と思っていたのだが、この本については完全にノーマークだった。長年のファンとしてそのことがちょっと悔しく、早速発売日に入手した。紀行エッセイ
「推してけ! 推してけ!」第32回 ◆『神無島のウラ』(あさのあつこ・著)
評者=藤田香織(書評家) 胸に深く突き刺さる〝凄味〟 あぁ、凄い。読みながら、何度かそう呟いた。いや、呟く、というより唸るように声が出てしまった。作者である、あさのあつこの凄さや巧さなんて、もう十分、知っているつもりでいた。当時はYAと分類されていた出世作『バッテリー』に代表される、ヒリヒリとした、けれど明日を信じさせ
むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第7回
 私はとにかくメンタルが弱い。毎日一ミリでもいいから強くなりたいと願っている。そのため気づいたら、自分を変えるビジネス書や心理書の棚前によく佇んでいる。今回のお題をいただき、「自分が変われるお告げかもしれない!」と思った。もうこれはガツンと自己啓発の王道、スティーブン・R・コヴィー氏の『7つの習慣』、カーネギーの『道は
◎編集者コラム◎ 『エゴイスト』高山 真
 2009年に単行本が刊行された故・高山真さんの自伝的小説「エゴイスト」が今年2月に映画公開されました。映画化されるという情報が発表されたことをきっかけに原作もスポットライトを浴び、瞬く間にベストセラーになっています。14歳で母を亡くし、田舎町で本来の自分の姿を押し殺して生きてきた同性愛者である主人公の浩輔。しらがみの
目利き書店員のブックガイド 今週の担当 広島 蔦屋書店 江藤宏樹さん
 この本は、102歳の哲代おばあちゃんの一人暮らしの日常を描いたものです。中国新聞の記者がおばあちゃんのもとに通い、その日々の出来事を一人語りで日記風にまとめて連載していたのですが、広島では大人気です。というのも、おばあちゃんの言葉が本当に前向きで若い私達にも、ものすごく刺さるのです。中でも一番私の心に刺さった言葉があ