◉話題作、読んで観る?◉ 第1回「羊の木」
「羊の木」
脚本:香川まさひと/監督:吉田大八/出演:錦戸亮 木村文乃 北村一輝 優香 市川実日子 水澤紳吾
田中泯 松田龍平/製作・配給:アスミック・エース
2月3日(土)全国ロードショー
▼公式サイト
http://hitsujinoki-movie.com/
©2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社
原作は『がきデカ』の山上たつひこ、作画が『ぼのぼの』のいがらしみきお、と漫画界のレジェンドがタッグを組んだことで話題を呼んだ原作コミック。ギャグ漫画で人気を極めた山上といがらしだが、同作は元受刑者が更生を果たせるかどうかを描いたシリアスな社会派ドラマとなっている。
映画版の主人公は、さびれた港町・魚深市の職員・月末(錦戸亮)。上司からの命令で、新規転入者の受け入れを担当する。ところが出迎えた6人の男女は、ただならぬ気配を漂わせていた。上司は黙っていたが、6人は重い罪で服役し、出所したばかりの身。刑務所の経費削減と過疎対策を兼ねた極秘プロジェクトであることを知り、月末は驚愕する。
ケンカ相手を過剰防衛で死なせた宮腰(松田龍平)、セックス中に夫を絞殺した太田(優香)、元ヤクザ・大野(田中泯)らの新生活をケアする月末だが、誰にも秘密を話すことができない。やがて地元の奇祭が始まり、町は不穏な空気に包まれていく。
映画版を手掛けたのは吉田大八監督。『桐島、部活やめるってよ』『美しい星』など原作ものの映画化に定評がある。吉田監督が撮る映画はどれも独特の世界観を有していることでも知られている。『桐島』ではスクールカーストの最下層にいる映画オタク(神木隆之介)とカースト上位にいるオシャレ男子(東出昌大)とでは、同じ高校に通いながらも見渡す世界は別ものだった。吉田監督が描く世界はいくつものレイヤー(層)が積み重なった形で構成されており、どのレイヤーから眺めるかによって世界はまったく異なって映る。
『羊の木』も同様の世界観となっている。同じ町で暮らし、更生に励む元受刑者、彼らの過去を知る月末、何も知らされていない住民たちは祭りを前にそれぞれ心のざわめきを感じているが、その意味合いはまるで違う。
原作コミックから設定のみ借りて、吉田監督と脚本家の香川まさひとは映画独自のストーリーを展開していく。元受刑者たちの罪は許されるのか、住民たちとの共生は可能なのか。登場人物それぞれのレイヤーに加え、神の視点という新しいレイヤーも用意されている。意外なオチが待つコミック版、神の審判が下される映画版、どちらも深い余韻が残る。
(文・長野辰次)
(「STORY BOX」2018年2月号掲載)