著者インタビュー

物語らしい物語を 江戸の商人を題材とした『商う狼』は新田次郎文学賞ほか三冠に輝き、鎌倉幕府に関わる女性たちを描いた『女人入眼』は直木賞候補となった。歴史時代小説作家・永井紗耶子への注目が高まっている。最新作『木挽町のあだ討ち』は江戸期の芝居街で起きたあまりに「劇的」な仇討ち事件の真相を目撃者たちの証言から綴る。時代小説
こういう病気もあるんだよ、ともっと世間に知ってもらいたかった 第二十一回『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を受賞した小西マサテルさんの『名探偵のままでいて』が評判だ。教師の孫が持ち込む謎を、認知症の祖父が名推理で解き明かす安楽椅子探偵もの。レビー小体型認知症という聞きなれない病気を題材にしたのは、ご自身の実体験がも
現代短歌界をリードしてきた穂村弘さんが、「ふと思い出して嬉しくなったり、たまたま目に飛び込んできて『いいな』と思った」短歌百首を詰め込んだアンソロジー、『短歌のガチャポン』(小学館)が刊行されました。年齢もプロフィールも多様な百人の詠み手が三十一文字に込めた世界のきらめき。文字通り「ガチャポン」的なわくわく感が味わえ
なぜ登るのか 数学をモチーフにした青春群像劇『永遠についての証明』で第九回(二〇一八年度)野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビューした岩井圭也が、山岳小説にして骨太なミステリー『完全なる白銀』を完成させた。一一作目となる本作を、作家は「第二のデビュー作」と位置付けていた。 山岳描写と心情描写のバランスを逆転させる 岩
法律家スピリットと反抗期の批判精神から生まれた物語 『元彼の遺言状』で『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞して一昨年デビューした新川帆立さん。以来ヒットを飛ばし続けている彼女の新作が『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』。リーガルSF短篇集という、新たな試みだ。このなんとも長いタイトルにも、実
企業買収の裏側を描いたヒット作「ハゲタカ」シリーズをはじめ、『売国』『オペレーションZ』など現代社会と鋭く向き合う作品で知られる真山仁さん。最新作『タングル』(小学館)は、日本・シンガポール共同の光量子コンピューター開発プロジェクトに携わる人々の姿を追った、熱くスリリングな物語です。安全保障や金融システムを一変させて
お涙はいらない ハリウッド級どエンタメ『ジェノサイド』で第二回山田風太郎賞および第六五回日本推理作家協会賞を受賞した高野和明が、同作から実に一一年ぶりとなる長編『踏切の幽霊』を発表した。タイトルからは「ホラー」を連想させるが、著者は否定する。本作は、まごうことなき「ゴースト・ストーリー」なのだ。 身元不明の犠牲者に物語
『未必のマクベス』が文庫化を機に、読書好きの間で話題となった早瀬耕さん。このたび8年ぶりとなる新作『十二月の辞書』が発表された。本作で読者に伝えたかったテーマとは何だろうか。コロナ禍がきっかけで生まれた恋愛小説 2018年に発表された早瀬耕の『プラネタリウムの外側』は、死者と生者のつながりを繊細に描き出し、SFのジャン
人生に悩みはつきものだ。そして、その悩みを誰に聞いてもらうか、相談されたときにどう答えるかもまた悩みどころだ。家族でも、友人でもない、全く知らない女性たちのさまざまな悩みを、ラジオ番組を通して10年間も聞いてきた宇多丸さんは、彼女たちにどう寄り添い、一緒に悩んできたのだろうか。当事者にしかわからない痛みや苦しみに真摯
世の中の不安に対抗するために描いたホラー ライトノベル、SF、歴史小説、ミステリー、サスペンス……。あらゆるジャンルの小説を発表してきた冲方丁さんの新たな試みは初の長篇ホラー。新作『骨灰』は、現代の東京を舞台に、怪異に襲われた男の危うい闘いを描く。今の時代だからこそこれを書いたという、その理由とは? 初の長篇ホラーを執
アフガニスタンの女性十八名による二十三の短篇を収めた『わたしのペンは鳥の翼』(小学館)が、静かな話題を呼んでいます。女性嫌悪、家父長制、暴力、貧困、テロ、戦争、死……。過酷な現実を前にした女性たちが、胸の中で育んだ祈りのような物語。それはアフガニスタンの現状を生々しく伝えるとともに、言葉や文化の壁を越えて、私たちの心
僕のための物語 人工知能に小説を書かせる試みを描いた『あなたのための物語』や、第三五回日本SF大賞を受賞した短編集『My Humanity』で知られる長谷敏司は、ライトノベルやSFを行き来しながら、意欲的な作品を送り出してきた。『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、実に一〇年ぶりとなるSF長編である。SF、ダンス、介
今、SNSやZINEなどの紙媒体で、日記を発表する人が増えている。誰かに読まれることを考えたとき、理想の自分ではなく、家族や友人たちと過ごす日常をどこまでありのままに書くことができるだろうか。母との決別、夫のがん発覚。そして、恋人の存在──。激動の日々を綴ってきた植本一子さんの日記は、どこまでも真っ直ぐだからこそ、一
書いているのは、答えじゃなく問い 読んだ人の数だけ答えがある 小説のなかで、今の時代だからこそ考えたい問いかけを放ちつづける寺地はるなさん。新作『川のほとりに立つ者は』もまた、恋人の秘密を知った女性の、心の軌跡が丁寧に描かれるなかで、読者にもさまざまな発見をもたらしてくれている。読んだ人にとって大切な一冊になるであろう
京都を愛してやまないエッセイスト・酒井順子さんの新著『女人京都』(小学館)は、『本の窓』の人気連載の単行本化。京都で活躍した女性たちの足跡を辿り、その人生に思いを馳せる京都エッセイ&ガイドです。アウェーな環境で慈善事業に打ち込んだ光明皇后、仕える妃のために才能を競い合った紫式部と清少納言、奔放に生きた後深草院二条──
救われるために 純文学とエンタメの垣根を越えて活動する古谷田奈月が、三年ぶりとなる長編『フィールダー』を発表し話題を呼んでいる。社会問題をこれでもかと盛り込み、文学の感性でひもといていく一方で、読めば指のうずきと脳にカーッとくる熱さを仮想体験させられるガチのゲーマー小説でもある。この奇跡的融合の背景には、「救う」という「ポスト伊藤計劃」への解 「自分は生まれてこないほうが良かったのではないか?」その思想は古代から存在が知られるものだったが、コロナ禍や地球温暖化の拡大などの不安により増幅され今や世界的なムーブメントとなっている。新潮ミステリー大賞出身の荻堂顕は、受賞後第一作となる『ループ・オブ・ザ・コード』で反出生主義に挑んだ。第七回
日本の書店がどんどん減り続けている。一方で、店主のこだわりの詰まった、小さくても個性豊かなお店が少しずつ増えてきているのも事実だ。ベストセラーや新刊だけでなく、思いがけない本との出会いがあり、そこでしかできない体験があるからこそ、私たち読者は今日も書店に向かうのだ。その体験の仕掛け人である書店員は、日々何を考え、読者
子どもに対してやったことが家族を作るんだという思いに辿り着きました 現代男性の生きづらさや価値観の変化を小説やエッセイで綴ってきた白岩玄さん。新作『プリテンド・ファーザー』でもまた、二人のシングルファーザーの姿を通して、今の時代に私たちが考えなければならない諸問題を丁寧に浮き上がらせていく。そのなかで著者自身が気づいた