書店員さん おすすめ本コラム

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 手話通訳士を主人公に、ろう者と手話をめぐる現実を描いた『デフ・ヴォイス』シリーズ、居住の実態が把握できない「居所不明児童」の問題から、親とは、家族とは何かを問う『漂う子』、在宅介護、特別養子縁組制度、障害者差別など、人間の尊厳に関わる題材に正面から切り込み、四つの物語を鮮やかに交差させた『ワンダフル・ライフ』と、目ま
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 11の文学賞を受賞し話題となり、文庫化されてなお売れ続けている『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、中学に入学したブレイディみかこさんの11歳の息子さんの視点が新鮮で、人種差別・貧困・ジェンダーなどが、ともに悩み考える親子の生の声から伝わってくるノンフィクション作品だ。そして今作ではノンフィクションという
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 以前、とある営業をしていた。まだ若く、私は溌溂として、そういうところが「明るい」「感じが良い」とされ、取引先との関係も良好だった(と信じたい)。「今度プライベートで飲みに行こう」と腰に手を回されれば、「何言ってるんですかー!」と声を張り上げて、笑顔を返した。明るく、感じが良く、取引先との関係も良好な私は、こんな風に振
 ドン・ウィンズロウによる3部作『犬の力』『ザ・カルテル』『ザ・ボーダー』。いずれの作品も、暴力と硝煙うずまくメキシコ麻薬戦争のフィクションを凌駕した現実をベースに、麻薬王国の興亡を魅力あるサブキャラクターたちが極彩色に彩った強烈にハードで非情なノワール小説の傑作だ。そしてドン・ウィンズロウが新たな3部作の始まりに選ん
 捨てられないものがたくさんある。昔の写真。旅先で買ったポストカード。ちょっと綺麗な包装紙。段ボールひと箱分のそれらは、いつでも捨てられそうなものばかりなのに、見えない糸で繋がれているかのように、何度引っ越しを重ねても私にずるずるとついてくる。だが、それよりも捨てにくいのは目に見えないものだ。親子の縁を、兄弟の絆を、家
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 いま、わたしたちは戦争を目の当たりにしている。もちろん紛争や内戦はこれまでも常にどこかで起こり、犠牲者は絶えない。だけど、崩れて住むことのできなくなった誰かの家や、公園や、遺体が無造作に転がる道路や、そこで戸惑い、打ちひしがれる人々の声や表情が、こんなにも膨大な情報量で報道されると、あらためて戦争はいま、すぐそこにあ
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 全寮制の男子高・霧森学院。生徒の大半は新寮にいるが、旧寮「あすなろ館」の住人は6人だけ。入寮希望者がいないのは、施設がボロだからというのもあるが、昨年、「ある事件」が発生したため敬遠されるようになったから、というのが大きい。その「あすなろ館」に新たな転入生・鷹宮絵愛(エチカ)が入寮してきた。以前からの住人、兎川雛太
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 都会でもなく田舎でもない、どこにでもありそうな地方都市。その街でほんの一瞬袖振り合うのは、一見フツーの老若男女。6つの短編の6人の主人公たちを善人か悪人かで分ければ、悪人は一人もいないだろう。けれど皆々不器用で、自分の気持ちを上手く相手に伝えられない。だから、不満や反論をつい飲み込んでしまう。自然、我慢したり譲歩した
 自分はどのような死に方をするのだろう、とときおり考える。「わたしもいつか死ぬ」と気づいたときのことを覚えている。小学2年の夏、TVドラマで子どもの闘病シーンを観たとき、「あの子は自分かもしれない」ととつぜん思った。あれからずっと「死ぬ」ということがわかるようで、わからない。熊本で「橙書店」と併設の喫茶店「オレンジ」を
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空港は特別な場所である。仕事、旅行、家族や友人に会いに、見送りに、飛行機マニアとして、さまざまな理由で訪れ、空を見上げながら人生の1ページが刻まれていく。著者の《空港》への愛が込められた本作のタイトル『風の港』の3文字からは、たくさんの人々が行き交うターミナルの賑わいと、華やかな雑踏に、笑顔や涙がドラマチックに浮かび上
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 あの頃、星占いは「恋愛」の欄を真っ先にチェックして、思いが通じるだの通じないだの、そんな記述に一喜一憂した。まだアルバイトだし、十分に健康だから、それ以外の欄に必要性を感じなかった。恋愛は、今振り返るととても簡単だった。男は女が好きで、女は男が好きだった。そして、「一人」が好きな人は、当たり前に「一人」で、それ以外の
 戦国時代を終わらせた戦い「大坂の陣」数多くの作者によって綴られてきたこの戦い。直木賞受賞後第一作に今村翔吾が選んだのは真田幸村を主軸に据えたミステリアスな戦国ドラマ。関ヶ原の戦い以後徐々に力を削られ、滅びゆく運命を迎えた豊臣家。追い詰められた豊臣家は、来るべき最後の決戦に向け全国に檄を飛ばすも、豊臣恩顧の大名は誰一人
 リカちゃん人形さえあれば何時間でも一人で遊んでいられる子供だった私は、4つ離れた従姉が実質姉のようなものだったこともあり、兄弟姉妹がいないことの寂しさや不自由さは正直感じたことがない。ないのだが、私はとにかく「お兄ちゃん」という存在に憧れていた。ただただ私を甘やかし、近所の悪ガキから守ってくれるようなヒーローが欲しか
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 鳥肌が立つ、という表現は恐怖を感じたときにつかうものだと指摘されたことがあるけれど、感動が極まって全身をぶるっと震えが走ったとき、やはりぷつぷつ鳥肌が立つのは生理現象としてたしかにあることだ。本を読んでいてさーっと肌が粟立つほどの感情の高ぶりが起こると、ああこんなにも物語に没入していたんだなあと、はっとする。そこまで
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「犬を飼う」リンは、殺処分される予定だった保護犬をシェルターから引き取り、飼うことにした。ニホン犬だったため「タロウ」と名付けた。タロウにはお腹から性器にかけて、ひどい傷があり、痛ましかった。リンが犬を飼ったのは、親友のアリサが犬「ジョン」を飼っていたからだ。だが「ドイツ区」に行ったアリサから、ジョンは死んでしまい、新
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 例えば、「星六花」(『月まで三キロ』所収)の主人公は、恋愛にも結婚にも消極的なまま40歳になろうとしている自分を顧みて、悄然と肩を落とす。《こんなはずじゃなかったのに――と今になってため息ばかりついている。「どうせ」と「だって」と「でも」を堂々巡りのように繰り返しながら》。「海へ還る日」(『八月の銀の雪』所収)では、
 さくら通り商店街というありふれた名前のアーケードに、様々な過去をもつ女たちが集い、やがて一人の男をめぐり、ありふれた騒動が勃発する。その一連をとおして女たちがどのようにふるまい何を思ったか、各々の面ざしを丹念に見つめた群像劇は、予想もしない結末へと向かう。二十九歳の万里絵は上司との不倫ののち会社を退職し、商店街の中程
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歌舞伎に興味があるが、まだ一度も観たことはなく、いつか観に行くぞ!と意気込みのある私が、蝉谷作品を読んだらどうなったか?それはまさに《江戸というアトラクションに乗せられた》胸躍る体験だったのだ。