連載小説

NEW
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第219回
「あなたは三月十二日のDNA型の鑑識結果をいつ知りましたか?」「その日のうちに」「その結果を知って、増山さんが綿貫さんの死体を遺棄した犯人だと疑ったんですか」「はい」「疑うというよりは確信に近かった?」「DNA型鑑定は確実な物証ですからね。はい」「先ほど一本目に映像が再生された取調べの前、三月十三日の任意取調べについて
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第218回
『取調べを始める』後頭部が映っている柳井が告げた。『も、黙秘します』増山が答えた。『三月十三日──君は、綿貫絵里香さんの死体遺棄についてやったと認め、そう記された供述調書にも署名、押印した。一度は認めたのに黙秘する理由は何だ?』増山の目が忙しく動いた。が、口は開かなかった。『事件の真相究明のための捜査に協力するつもりも
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第217回
 休憩を挟んで二人目の証人は柳井貞一係長だった。増山が「係長」と認識していた刑事だ。尋問に先立ち、三月十三日に増山が綿貫の死体遺棄容疑で逮捕されたあとの取調べの録画映像が約四十分再生された。検察側が施設管理の都合で反対したため、傍聴席のディスプレイは暗転して音声だけが流された。志鶴は何度も観返したため、映像を脳内で再生
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第216回
「あなたの証言によれば、少なくとも三時間以上事件との関係を否定していた増山さんが、ソフトボールの試合映像を見せたとたん、観念して綿貫さんの死体遺棄を認めたということになります。そうですね?」「とたん、というのは違うと思います。試合映像を見せても、被告人はすぐ死体遺棄を認めたわけではなく、抵抗していました」「あなたの証言
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第215回
「あなたは先ほど、増山さんが『ごめんなさい、もう許してください』と言ったのは、柳井係長に、綿貫さんが行方不明になった日の夕方、星栄中学校でソフトボール部の練習を見ていたのではないかと訊かれたから、と証言しました。増山さんがそれ以前の二月十一日にソフトボール部の試合を観戦している様子はビデオカメラの録画映像に記録されてい
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第214回
「証人の証言を明確にするために、三月十三日付で作成された供述調書を示します──」灰原自身が作成した調書なので、弁護側が不同意にしても結局法廷に顕出されてしまうことは防げない。ディスプレイに映し出された書面を、青葉が読み上げる。「『今回の事件を起こしたときの状況について話します。私は、令和×年二月二十日の夜、綿貫絵里香さ
深明寺商店街の事件簿4兄弟編
6 戻ってきたスタッフの車を追跡する中、福太は無言だった。美音の最後の一言が、強烈に頭に残っていたからだ。山根さんが、亡くなったお袋の友達……? 学太も同じく無言。車内には、退屈してついにダウンした良太の寝息と、能天気な藤崎の鼻歌だけが響く。「あの人がお袋の友達って……学太、覚えてるか?」小声で訊ねると、学太は首を横に振った。「いや。全然。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第213回
14 五月三十日。増山の第六回公判期日。傍聴席には抽選に当たった増山文子の姿があった。昨日、事務所に戻るとすぐ、志鶴はトキオのものと思われるネオエースの写真が投稿されたインスタブックのアカウントに、もう一度メッセージを送った。が、相変わらず反応はなかった。弁護士会に対して運営会社への23条照会の申し出を行い、駄目元で会
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第212回
「──園山証人?」「まーた適当なこと言って。困りますよー、剱持さん」笑顔でたしなめた。「『どう見ても不自然に短い』って、それ、科学者の台詞ですかあ。それともアリル・ドロップアウトの定義をご存じないのかしら? ピークの高さが二百五十RFUを超える場合には、アリル・ドロップアウトを考慮する必要はないっていう基準が提唱されて
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第211回
「対照試料ありきのDNA型鑑定の問題点について、園山証人が指摘しました。それについて反論は?」「反論なんかする必要ないんだって。煙草の吸い殻のDNAは被告人のDNAと一致した。それによって劣化していない試料であることが初めて証明された。精子のDNAは? あの型鑑定の結果がたまたま出たでたらめな数値じゃないってことは、答
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第210回
「すでに述べたように、吸い殻と精子のDNAは別人に由来するので、ほとんどの型が一致していませんが、一番高いピークと一番低いピークを比べてみると、あることがわかります」園山は具体的に注目すべきピークを指定した。「どちらも精子のピークの方が高い。私がすべてのピークの高さを集計して平均を割り出した表も出してください」志鶴は言
深明寺商店街の事件簿4兄弟編
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがた
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第209回
「先ほどの遠藤証人への尋問で、塩素系漂白剤の成分である次亜塩素酸ナトリウムはDNAを破壊する、という証言がありました。次亜塩素酸は、法医学など検査や実験を行う現場ではどのような位置づけのものでしょうか」「次亜塩素酸ナトリウムは生化学の世界ではとてもなじみ深い試薬の一つで、検査室には何本もの容器が常備されています」「なぜ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第208回
「その二つの事件が、どんな風に科警研の退職に影響したんですか?」「よくぞ訊いてくれました」園山がにっこり笑う。「科警研ってね、全国の都道府県の科捜研の研究員たちが研修に集まる、科捜研より上位の組織なんですよ。DNA型鑑定の資格も、科警研の研修を受けないともらえないんです。言ってみれば日本の科学捜査の最高峰、総本山。あれ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第207回
 休憩を挟んで開廷された。遠藤の席は空席になっている。「裁判員の皆さんに説明します。本日の残りの証人尋問は、綿貫さんの体内から採取された精子のDNAを争点としています。検察側は、精子のDNAは漂白剤によって破壊されているので鑑定結果は信用性が低く、精子のDNAに証拠価値はないと主張しており、弁護側は反対に、精子のDNA
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第206回
「あなたは先ほど、漂白剤から次亜塩素酸ナトリウムが検出された、とおっしゃった。次亜塩素酸ナトリウムは消毒や殺菌などにも用いられる、われわれにとって比較的身近な化学物質です。しかし、鑑定作業においては一筋縄ではいかない存在としても専門家には知られている。時間経過した液体試料や液体をかけられ変色・脱色した乾燥試料からは検出
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第205回
「検察官、反対尋問を」能城が言った。「青葉が──」青葉が立った。「あなたは先ほどの主尋問で、煙草の吸い殻のDNA型鑑定を行ったときと、精子のDNA型鑑定を行ったときとは同じ条件だったとは言えないという回答をしました。その意味を教えてください」「はい。煙草の吸い殻のDNA型を鑑定したときは、採取された試料の管理状態は申し
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第204回
13 公判前整理手続で綿貫絵里香の膣内から採取された精液のDNA型鑑定書の証拠採用を請求したが、検察側から不同意とされ、鑑定書を作成した遠藤が証人尋問されることになった。今度は志鶴が主尋問に立つ。「すでに遠藤証人の氏名、所属、資格、経歴等については先ほどの尋問で明らかになっておりますので省略します。あなたが令和×年三月