連載小説

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第228回
 休憩後、ふたたび開廷した。反対質問に立ったのは青葉だった。増山に向かって微笑みかけた。増山は赤面した。「あなたは女子中学生に性的興味があり、ジュニアアイドルのDVDを大量に保持しており、女子中学生が監禁・レイプされる漫画を愛読していた。そうしたものを観たり読んだりしながら自慰行為に耽(ふけ)った。そうですね?」増山の
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第227回
「では次に、逮捕の直後に行われた取調べについてお訊ねします。増山さんはここで、柳井係長に、自分が綿貫さんの遺体を遺棄した犯人であるかのように認めてしまっています。なぜでしょうか?」「それは──その前の取調べで、自分がやったって言っちゃったから。今さら取り消せない感じになって」「本当はやっていないのに、任意の取調べで、綿
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第226回
 刑務官に付き添われて出廷した増山は、志鶴と目を合わせようとしなかった。が、傍聴席にいる文子の姿に気づくと、しばらく彼女を見ていた。裁判官と裁判員が入ってきた。能城が開廷を告げ、増山を呼んだ。増山が立ち上がり、証言台へ向かった。能城が人定質問をし、増山が答えた。声がかすれていた。能城が増山を着席させた。法廷はしんとして
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第225回
16 五月三十一日。増山の第七回公判期日。今日は増山への被告人質問と、被害者参加制度による被害者の意見陳述が行われる。残りは検察側による論告・求刑と弁護側による最終弁論等を残すのみ。公判もいよいよ大詰めだ。被告人質問では、文字どおり被告人に対して弁護側・検察側が、証人尋問と同様に交互に質問を行う。否認事件の被告人質問で
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第224回
 続いて、本日最後となる、検事調べの三本目の映像が再生された。三月二十二日。綿貫の殺害時の状況についての増山の供述が中心となる。増山は無表情、というより感情が死んでいるように見えた。目の下に隈(くま)ができている。無精ひげも目立った。『おはよう、増山。調子はどうだ?』岩切が声をかけた。『昨日は足立南署で、絵里香さんを待
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第223回
 映像が流される。増山の様子は前回の検事調べのときとは明らかに異なっていた。顔に血の気がなく、肩の筋肉が硬直し、唇がかすかにわなないていた。『──増山、君は綿貫絵里香さんの死体を遺棄したことをはっきり認めた。そうだな?』初回のときの表面的な甘さを一切かなぐり捨てた口調だ。増山は口を開き、一瞬ためらう気配を見せたが、上目
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第222回
『当たり前の話だけど、無実の人間を起訴したい検察官なんていない。もちろん君は黙秘していい。君が黙秘したままでも、起訴しようと思えばできる──』増山が顔を上げた。『できるよ。君が黙秘していても起訴することはできる。真犯人だから、やましいから黙秘しているんだろうという判断も当然あり得る。常識的に考えればわかるよね。君が黙秘
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第221回
15 遅い昼の休憩を挟んで公判が再開された。ここからは岩切による検事調べ──弁解録取──の検証となる。まず映像が流された。三月十五日、増山が最初に検察庁へ送られた際に録画されたものだ。綿貫との接点についての供述が中心となる。時間は約三十分。柳井による取調べとは明らかに変化があった。室内が明るい。警察の取調室と異なり、窓
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第220回
 席に戻った増山に、綿貫の殺害を認める内容の供述調書を柳井が読み聞かせ、増山の手にボールペンを握らせ署名を迫ったことを、志鶴は訊ねた。柳井は灰原より上手にしらを切った。「では、先ほど一本目に映像が再生された三月十三日の取調べについてお聞きします。取調べの中で増山さんから秘密の暴露はありましたか」「ありました」「それは何
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第219回
「あなたは三月十二日のDNA型の鑑識結果をいつ知りましたか?」「その日のうちに」「その結果を知って、増山さんが綿貫さんの死体を遺棄した犯人だと疑ったんですか」「はい」「疑うというよりは確信に近かった?」「DNA型鑑定は確実な物証ですからね。はい」「先ほど一本目に映像が再生された取調べの前、三月十三日の任意取調べについて
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第218回
『取調べを始める』後頭部が映っている柳井が告げた。『も、黙秘します』増山が答えた。『三月十三日──君は、綿貫絵里香さんの死体遺棄についてやったと認め、そう記された供述調書にも署名、押印した。一度は認めたのに黙秘する理由は何だ?』増山の目が忙しく動いた。が、口は開かなかった。『事件の真相究明のための捜査に協力するつもりも
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第217回
 休憩を挟んで二人目の証人は柳井貞一係長だった。増山が「係長」と認識していた刑事だ。尋問に先立ち、三月十三日に増山が綿貫の死体遺棄容疑で逮捕されたあとの取調べの録画映像が約四十分再生された。検察側が施設管理の都合で反対したため、傍聴席のディスプレイは暗転して音声だけが流された。志鶴は何度も観返したため、映像を脳内で再生
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第216回
「あなたの証言によれば、少なくとも三時間以上事件との関係を否定していた増山さんが、ソフトボールの試合映像を見せたとたん、観念して綿貫さんの死体遺棄を認めたということになります。そうですね?」「とたん、というのは違うと思います。試合映像を見せても、被告人はすぐ死体遺棄を認めたわけではなく、抵抗していました」「あなたの証言
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第215回
「あなたは先ほど、増山さんが『ごめんなさい、もう許してください』と言ったのは、柳井係長に、綿貫さんが行方不明になった日の夕方、星栄中学校でソフトボール部の練習を見ていたのではないかと訊かれたから、と証言しました。増山さんがそれ以前の二月十一日にソフトボール部の試合を観戦している様子はビデオカメラの録画映像に記録されてい
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第214回
「証人の証言を明確にするために、三月十三日付で作成された供述調書を示します──」灰原自身が作成した調書なので、弁護側が不同意にしても結局法廷に顕出されてしまうことは防げない。ディスプレイに映し出された書面を、青葉が読み上げる。「『今回の事件を起こしたときの状況について話します。私は、令和×年二月二十日の夜、綿貫絵里香さ
深明寺商店街の事件簿4兄弟編
6 戻ってきたスタッフの車を追跡する中、福太は無言だった。美音の最後の一言が、強烈に頭に残っていたからだ。山根さんが、亡くなったお袋の友達……? 学太も同じく無言。車内には、退屈してついにダウンした良太の寝息と、能天気な藤崎の鼻歌だけが響く。「あの人がお袋の友達って……学太、覚えてるか?」小声で訊ねると、学太は首を横に振った。「いや。全然。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第213回
14 五月三十日。増山の第六回公判期日。傍聴席には抽選に当たった増山文子の姿があった。昨日、事務所に戻るとすぐ、志鶴はトキオのものと思われるネオエースの写真が投稿されたインスタブックのアカウントに、もう一度メッセージを送った。が、相変わらず反応はなかった。弁護士会に対して運営会社への23条照会の申し出を行い、駄目元で会
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第212回
「──園山証人?」「まーた適当なこと言って。困りますよー、剱持さん」笑顔でたしなめた。「『どう見ても不自然に短い』って、それ、科学者の台詞ですかあ。それともアリル・ドロップアウトの定義をご存じないのかしら? ピークの高さが二百五十RFUを超える場合には、アリル・ドロップアウトを考慮する必要はないっていう基準が提唱されて