連載小説

深明寺商店街の事件簿4兄弟編
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがた
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第21回
第21話 19日目のソース焼きそば 冷蔵庫を開けるとクラフトビールがずいぶんいろいろ溜まっていた。それは冷蔵庫の棚一段を丸々占拠していた。3ヶ月前に始めたクラフトビールのサブスクで、家には毎週6本のクラフトビールが届く。ビールはもともとはっきりとした味のものが好きだったということもあり、自分自身も構築に携わったサブスク
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第209回
「先ほどの遠藤証人への尋問で、塩素系漂白剤の成分である次亜塩素酸ナトリウムはDNAを破壊する、という証言がありました。次亜塩素酸は、法医学など検査や実験を行う現場ではどのような位置づけのものでしょうか」「次亜塩素酸ナトリウムは生化学の世界ではとてもなじみ深い試薬の一つで、検査室には何本もの容器が常備されています」「なぜ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第208回
「その二つの事件が、どんな風に科警研の退職に影響したんですか?」「よくぞ訊いてくれました」園山がにっこり笑う。「科警研ってね、全国の都道府県の科捜研の研究員たちが研修に集まる、科捜研より上位の組織なんですよ。DNA型鑑定の資格も、科警研の研修を受けないともらえないんです。言ってみれば日本の科学捜査の最高峰、総本山。あれ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第207回
 休憩を挟んで開廷された。遠藤の席は空席になっている。「裁判員の皆さんに説明します。本日の残りの証人尋問は、綿貫さんの体内から採取された精子のDNAを争点としています。検察側は、精子のDNAは漂白剤によって破壊されているので鑑定結果は信用性が低く、精子のDNAに証拠価値はないと主張しており、弁護側は反対に、精子のDNA
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第20回
第20話 19日目の塩焼きそば 冷蔵庫を開けると野菜の使い残しがずいぶんいろいろ溜まっていた。外葉から剥がしつつ使っていたキャベツはまだソフトボールくらいの大きさで残っているし、にんじんは細い先の方だけがラップにくるまっている。1個だけ残っているピーマンはやや萎びかけていて、玉ねぎは律儀に4分の1個分だけ、これもラップ
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第206回
「あなたは先ほど、漂白剤から次亜塩素酸ナトリウムが検出された、とおっしゃった。次亜塩素酸ナトリウムは消毒や殺菌などにも用いられる、われわれにとって比較的身近な化学物質です。しかし、鑑定作業においては一筋縄ではいかない存在としても専門家には知られている。時間経過した液体試料や液体をかけられ変色・脱色した乾燥試料からは検出
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第205回
「検察官、反対尋問を」能城が言った。「青葉が──」青葉が立った。「あなたは先ほどの主尋問で、煙草の吸い殻のDNA型鑑定を行ったときと、精子のDNA型鑑定を行ったときとは同じ条件だったとは言えないという回答をしました。その意味を教えてください」「はい。煙草の吸い殻のDNA型を鑑定したときは、採取された試料の管理状態は申し
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第19回
第19話 18日目の湯豆腐 最近、周りの同世代の人々が急に、「昔のようにこってりしたものが食べられなくなった」と言い始めるようになった。これは特に男性に顕著な傾向だ。「上カルビは2切れで充分」「カツカレーはもう無理」そんなことを嘯く彼らは、一見そのことを嘆いているていだが、実のところちっとも嘆いてなどいないのだとわかる
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第204回
13 公判前整理手続で綿貫絵里香の膣内から採取された精液のDNA型鑑定書の証拠採用を請求したが、検察側から不同意とされ、鑑定書を作成した遠藤が証人尋問されることになった。今度は志鶴が主尋問に立つ。「すでに遠藤証人の氏名、所属、資格、経歴等については先ほどの尋問で明らかになっておりますので省略します。あなたが令和×年三月
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第203回
「先生は、二つのDNA型が『検査した十六のローカスで完全に一致』した、とおっしゃいました。実際一つ一つのローカスを見るとピークの数と位置が完全に一致しています。この結果の意味するところは何でしょうか?」「ここからはDNA型鑑定の確率の話になります。たとえば血液を考えましょう。現実の鑑定はもっと複雑ですがここでは単純化し
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第18回
第18話 17日目のナイフとフォーク 昨晩、私はひとつの重大な失敗に気づいた。この部屋にはナイフもフォークも無い。ブリー・ド・モーを箸でちぎりブルーベリージャムと共につまみあげて食べていると、それはもちろんうっとりするほどおいしかっただけに、なんだかチーズに申し訳ないような気もした。これでは居酒屋で厚揚げに生姜をのせて
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第202回
 モデル図では管のマイナス極からプラス極へとDNAの移動する様子を表す矢印が描かれ、プラス極の到達点を拡大した図には左右に二本、鋭い三角の突起が描かれ、プラス極に近い方に「7型」、もう一つには「12型」と書かれていた。「短い塩基のくり返し数が多いほどDNAは長くなり、重くなります。くり返し数が少ないほどDNAは短くなり
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第201回
 休憩後、一人目の証人尋問が始まった。足立南署刑事課鑑識係に所属する女性警察官だった。綿貫の遺体遺棄現場で煙草の吸い殻を採取し、証拠として保管して報告書を作成した。蟇目は、その一連の手続きが国家公安委員会規則である犯罪捜査規範に則(のっと)った適正なものであったことを証言させた。尋問の途中では綿貫から出血した血がついた
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第16回
第17話 16日目のパリジェンヌ 昨日暗礁に乗り上げかけた仕事上の問題は、午前中のうちにあっさり解決してしまった。企画に関わる私以外の人々が一斉に私の肩を持ってくれたのだ。最後には、件の責任者のさらに上の人間まで巻き込んでくれたという話だった。思わぬ大事になったな、と肝を冷やしたが、助けてもらえたことは本当にありがたく
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第200回
 ヒトの遺伝子……99.9%は共通 「じゃあどうするのか。残りの〇・一パーセントの中で、とくに個人間で違いがわかりやすいごくごーく一部の特定の部位に注目し、そこだけをピックアップして調べる。その注目する特定の部分──ターゲットになる部分のことを『ローカス』って呼ぶわけだ。はいもう一度」剣持はまたディスプレイにローカスの
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第199回
「DNAには特徴がある──」剱持がリモコンを操作した。DNAの特徴①(ヒトの肉体を構成するすべての細胞を作るための情報と、)遺伝情報が入っている ②どの細胞核にあるDNAも、基本的にすべて同一でかつ終生変わらない 「①の前半──カッコ内の部分は今日は無視していい」剱持は証言台のタブレットのタッチペンで該当する部分を赤線
◇ショートストーリー◇稲田俊輔「キッチンが呼んでる!」連載第16回
第16話 15日目の冷や汁 絶望的なまでに話が通じない人というのは世の中に一定数存在する。日常生活の中でたまさかそういう人物に遭遇したら、とにかく慎重に距離を取って、以後なるべく近付かないことだ。それしかない。しかし運悪くそれが仕事で関わらざるを得ない人、しかも大口のクライアントだったらそうも言っていられない。どんだけ