連載小説

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深明寺商店街
  「なんだ、この唐揚げ。めちゃくちゃ旨え」  弁当箱の蓋を開けるなり、貴重な唐揚げの一つが横からかっ攫われた。  声を上げる間もなかった。それどころか、盗っ人が放った一言に、格技場で昼飯中だった剣道
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  「カラーッ」 「カラーーッ」 「カラーーーッ」  甲高い声と床の振動で目を覚ますと、ぼやけた視界に赤茶けた天井が染みこむように広がった。ナミブ砂漠の灼熱を思わせる赤茶。その下を、同じ顔をした三人の
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◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第111回
 鴇田は萌愛を仰向けにさせると、キスをした。さっきは感じなかった体温を感じた。萌愛の唇が柔らかくなっている。鴇田が唇に力を加えると自分から口を開いた。チャンネルが開いて精神と肉体がつながったのだ。  
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    14 「どういうことですか!?」  声を上げ、みひろが席を立つと豆田は眉を寄せて背中を向けた。その前に回り込み、みひろはさらに訊ねた。 「室長に何があったんですか? 教えて下さい」 「僕にも、
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第110回
「萌愛ちゃんか。いい名前じゃん。トラウマを乗り越える方法、教えよっか?」 「……できるんですか?」 「できるよ」 「どうやって……?」食いついてきた。 「さっき言ったよな。嫌なこと思い出すと、その頃の
 12  足を止め、みひろはアパートを見上げた。周囲は薄暗く、二階の左から二番目の窓には明かりが点っていた。   建物の脇の階段を上がり、等間隔でドアが並んだ通路を進んだ。目当てのドアの前で足を止め、
◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第3回
 気がつくと鈴木正太郎(すずきしょうたろう)は、またしても雑踏の中にいた。  昨日のことはすべてがぼんやりしていた。詰襟を着た東京の学生さんや、西洋人の女が乗せてくれた大きな船のことを忘れたわけではな
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第109回
「興味ある?」 「あ……駄目なら、いいけど」 「いいよ、教えてあげる。大した話じゃないし。俺さ、母親、画家なのね。で、俺もガキの頃、絵の練習とかさせられてさ、母親が自分でヌードモデルをやったわけ。見た
   9(承前)  頭を切り替え、慎はみひろに向き直って答えた。 「無論、よりよい職場環境づくりのための聞き取り調査です。三雲さんこそ、なぜここに?」 「戻って来たら車があるのに室長がいないから、心配
辛酸なめ子「電車のおじさん」第20回
「ちょっとお参りしてきます」と玉恵はおじさんに告げ、亀戸天神の本殿に向かいました。厳かな気持ちで二礼二拍手一礼をしてお賽銭を入れると目を閉じ、(会社の風紀の乱れがおさまりますように。煩悩が浄化されます
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第108回
 要領を得ない彼女の言葉をつなぎ合わせると、過去萌愛の身に起きたと思われる出来事が形をなしてきた。  小学四年生の頃、性被害に遭ったらしい。離婚したばかりだった萌愛の母親と萌愛は、困窮したシングルマザ
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」
 5(承前)  ママに案内され、本橋はカウンターのみひろの隣に座った。 「突然すみません。監察係の本橋です。独身寮に行ったら、隣の部屋の人が三雲さんは多分ここだって教えてくれたので」 「そうですか。
◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第2回
 とうとう半ば常軌を逸したニコデモは、船着き場に積み上げられた大きな木箱の上によじ登り、たったひとつ残された小僧の形見を歌い始めた。  花よ、花咲けよ、花は花咲くもんだなし。 ・・・・・・・・・・・・
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第107回
 後部のベッドへ移ると、鴇田は、向き合って座る萌愛にそっと手を伸ばし、髪の毛に触れた。癖のない髪は細く柔らかく適度なボリュームがあり──貧困層には珍しいことに──上質のシルクのような滑らかさを持ってい
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」〈第14回〉
   1  ノートパソコンに目を向けたまま、三雲(みくも)みひろは机上のコーヒーの入った紙コップを取った。液晶ディスプレイに映し出された表には、「阿久津慎(あくつしん)」の氏名と職員番号、所属部署、階
◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第1回
 昔むかしの大昔、日本が戦争に勝っていたころ、ある裕福な家に、一人の男の子が生まれた。両親はこの子をニコデモと名付けた。父母ともにキリスト教徒であったので、聖書にあらわれる名前から採ったのだった。  
辛酸なめ子「電車のおじさん」第19回
 なぜ、鈴木先輩と奥野さんは一晩のアバンチュールに至ったのでしょう……。今まで玉恵は鈴木先輩のことをとくに美人だと思ったことはなく、いたって普通の30代女性だと思っていました。若さゆえの傲慢さで、内心
■連載小説■ 加藤実秋「警視庁レッドリスト」〈第13回〉
 13 「続きは明日」と言って電話を切ったのに、一時間も経たずに慎から着信があった。みひろが出ると「奥多摩に出動です。今どちらですか?」と訊かれ、独身寮の近くで買い物中だと答えたところ、慎はすぐに車で