今月のイチオシ本

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今月のイチオシ本【デビュー小説】
『貝に続く場所にて』は、今年の群像新人文学賞を受賞したデビュー作だが、第165回の芥川賞を射止めた(李琴峰『彼岸花が咲く島』と同時受賞)。3・11小説の側面が強調されるが、選考会後の会見で松浦寿輝が「震災から10年を経ないとこの物語に昇華できなかった、と感じさせる独創的なアプローチと感じました」と述べたように、正面から
今月のイチオシ本【歴史・時代小説】
 伊東潤『琉球警察』は、警察小説の手法で、戦後史、日米関係などを描いた『横浜1963』の系譜の作品である。奄美諸島の徳之島出身の東貞吉は、一八歳の時、働きに出た沖縄で警察官に採用された。沖縄では奄美出身者は差別されており、貞吉は警察学校の教官・大城から何度も鉄拳制裁を受ける。そんな貞吉の救いになったのが、奄美出身ながら
今月のイチオシ本【ミステリー小説】
「彼女を殺すために、僕は廃病院の敷地に足を踏み入れた」という穏やかではない一文から始まるプロローグ。その最後で、思わず読み返してしまうほど目を惹く謎が提示される。それを成したことで、なぜ「これで、彼女を殺せる」のか? 五十嵐律人『原因において自由な物語』は、年末の各種ミステリランキングに軒並み挙げられるなど大いに話題を
今月のイチオシ本【警察小説】
 海外の警察ドラマでは近年日系のキャラクターも珍しくなくなったが、純粋の日本人となると話は別。してみると本書に登場する九条漣なんか稀有な例だといいたいところだが、彼の出身はJ国で、所属するフラッグスタッフ署があるのも、アメリカならぬ平行世界のU国だ。本書は第二六回鮎川哲也賞受賞作『ジェリーフィッシュは凍らない』から始ま
今月のイチオシ本【ノンフィクション】
 小説家古川日出男は福島のシイタケ生産農家に生まれた。三人兄弟の末っ子で、兄と姉がいる。十八歳で故郷を離れ家業は兄が継いだ。そして二〇一一年三月十一日、東日本大震災が彼の故郷を襲う。冒頭は二〇一九年十二月に行われた母親の納骨風景だ。その直前、施設で寝たきりだった母の胃瘻をやめることを兄弟で決めたときに、躊躇っていた震災
今月のイチオシ本【エンタメ小説】
「星の子の家」、それが本書の主人公・花が暮らす施設の名前だ。「星の子の家」は、「親が病気になってしまった子、経済的な問題で家庭で暮らせなくなった子、身体や精神に深い傷を負った子」たちを預かる施設で、花は8歳の時にやって来た。それから10年、花が18歳の誕生日を迎えた日から、物語は幕を開ける。
今月のイチオシ本【歴史・時代小説】
 直木賞候補になった『春はそこまで 風待ち小路の人々』など市井人情ものの時代小説で人気を集める志川節子の新作は、〝日本の博物館の父〟と呼ばれる田中芳男を主人公にしており、初の歴史小説に挑んで新境地を開いたといえる。信州飯田城下の医師の家に生まれ、子供の頃から植物や鉱物を集めるのが好きだった芳男は、兄を早くに亡くし、
今月のイチオシ本【デビュー小説】
 7篇の短篇を収めたこの独特すぎる作品集の魅力を、いったいどう伝えればいいのか。幻想小説でもファンタジーでもSFでもコメディでもない。ルイス・キャロルとジュール・ヴェルヌと宮沢賢治と江戸川乱歩を混ぜ合わせて攪拌し、どうでもいい蘊蓄や雑学をぼかすか放り込み、自由闊達・融通無碍な文体でユーモアたっぷりに再構成した感じ?
今月のイチオシ本【ミステリー小説】
 起源は古代インドにまで遡り、日本への伝来時期も定かではないほど長い歴史を持つ将棋。この盤上遊戯を題材にしたミステリは過去にいくつも存在するが、芦沢央『神の悪手』は、これまでにない切り口と広い視野を備え、たとえ将棋を識らずとも一読唸ること請け合いの全五話からなる充実の作品集だ。
今月のイチオシ本【ノンフィクション】
 新型コロナウイルスの流行で世界中が注目し、日本の底力を見せた商品が「マスク」だ。一年前、自分と他人の感染予防に、日本人の多くは当たり前にマスクをつけた。そのため品薄になり買いだめが起こったのは記憶に新しい。そのマスクの一種に、ダチョウの並外れた免疫力によって生成された抗体を処方した製品がある。
『脳男』シリーズ待望の新作。といっても、今一つピンとこない方もいるかも。それもそのはず、前作から何と一四年ぶりの第三作なのである。 『脳男』は二〇〇〇年の第四六回江戸川乱歩賞受賞作で、愛宕市という中部地方の架空の都会を舞台にした話。市警の茶屋警部は街を震撼させている爆弾魔を逮捕しにアジトへ乗り込むが、つかまえたのは犯人
 主人公は、高校一年生の漣。父親の海外赴任に伴い、保育園の年長の時から中二で帰国するまで、八年間タイのバンコクで暮らしてきた。漣には歳の離れた姉・まどかがいて、彼女は漣がバンコクにいる間に結婚し、離婚していた。今は実家に戻っているまどかは、漣の記憶にある彼女とは別人のようになっていて、両親も漣も、まどかに対しては腫れ物に触るように接している。
今月のイチオシ本【歴史・時代小説】
 デビュー作『虎の牙』、二作目『落梅の賦』と戦国時代の武田家にこだわってきた武川佑は、三作目となる本書で、架空のヒロインを主人公に、先行作が少ない室町六代将軍・足利義教の時代を舞台に選んだ。迫力の戦闘シーンや重厚なテーマを継承しつつも作風を広げたところは、新境地といっても過言ではない。
今月のイチオシ本【ミステリー小説】
 たとえばリーガル・サスペンスでは、ひとを裁くことの難しさが繰り返し採り上げられ、このジャンルにおける永遠のテーマのひとつになっている。つまり人間とは、容易に割り切れない存在である「ひと」をはかることに決して長けてはいない証左といえよう。けれど社会で生きていく限り、ひとはひとからはかられ、評価づけされることからは逃れら
今月のイチオシ本【デビュー小説】
 茜灯里『馬疫』は第24回日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作。パンデミックもののサスペンスは数あれど、馬が主役というのは初めてではないか。しかも、その設定が大胆不敵。時は2024年1月。欧州で新型コロナがふたたび猛威をふるい、パリ五輪が見送られて、2回連続の東京五輪(!)が開かれることに。
今月のイチオシ本【ノンフィクション】
 少子化、高齢化が進む日本で、これから先、喫緊の問題になるのは労働力不足であることは間違いない。2018年12月、国会では入管難民法の改正が参議院本会議で強行採決された。これまで低賃金の単純労働を強いられてきた外国人技能実習生を、新たな在留資格「特定技能」に移行させ、一定条件を満たせば家族の帯同を認めるという。この時点
今月のイチオシ本【警察小説】
 芸能界の事件を捜査する警察小説は数あれど、本書のように芸能そのものにまで突っ込んだ作品は稀少ではないか。警視庁捜査一課殺人犯捜査七係の伴奏は上司の命で、向こう一ヵ月ほど別捜査に当たることに。沖縄県警の手伝いをしろというのだ。上京してきた刑事、渡真利猛は一九年前、人気ロックバンド・メアリーのギタリスト、
今月のイチオシ本【エンタメ小説】
「料理が好きな人」三年前の春に出会った時、好きな人のタイプを尋ねた優花に、真島は即答した。以来、ことあるごとに同じ質問をするものの、「料理が上手な人」「料理好きな人」と、言い回しは変わっても、答えはいつも同じ。この真島の言葉が、優花にとって呪縛となる。何故なら優花は料理が嫌いで苦手、だからだ。それでもなんとか三年越しの