◉話題作、読んで観る?◉ 第6回「パンク侍、斬られて候」
監督:石井岳龍/脚本:宮藤官九郎/出演:綾野剛 北川景子 東出昌大 染谷将太 浅野忠信 永瀬正敏 村上淳 若葉竜也 近藤公園 渋川清彦 國村隼 豊川悦司/配給:東映
6月30日(土)より全国ロードショー
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http://www.punksamurai.jp/
©エイベックス通信放送
ロックミュージシャンでもある芥川賞作家・町田康の長編を原作に、同氏出演で邦画界にニューウェーブを巻き起こした『爆裂都市 BURST CITY』(82年)の石井岳龍監督が映画化。脚本は売れっ子の宮藤官九郎が担当。綾野剛、北川景子、浅野忠信ら豪華キャストが共演した『パンク侍、斬られて候』はかつてない型破りな時代劇だ。
舞台は江戸時代のとある弱小藩。流れ者の浪人・掛十之進(綾野剛)は、茶店の前にいた物乞いの男をいきなり斬り捨てる。「隣りの藩では腹ふり党なる新興宗教が流行っており、物乞いの男もその信者。放っておくとこの藩も危ない」と言葉巧みに、筆頭家老の内藤(豊川悦司)に近づく。内藤は掛のインチキぶりを見破りながらも、政敵である次席家老・大浦(國村隼)を失脚させるための駒として取り立てる。
ネタバレ御免ではあるが、掛が冒頭で斬り捨てた物乞いは、町田康。オープニングでまずは、原作者殺しである。お約束の数々で成立する時代劇の形を借りた本作のテーマは、常識や物語性といった既成概念の破壊と現代社会に対する痛烈な風刺だ。【この世界は巨大なサナダムシの胎内であり、すべては無意味。一心不乱にバカげたことを繰り返せば、サナダムシの糞として外の世界へ排出される】という腹ふり党の教えは、まったく根拠のないもの。されど崩壊寸前の藩体制にすがりつく侍たちも保身に走るばかりで、どちらも中身がまるでないことに掛は気づく。
隣藩ではすでに解散状態にあった腹ふり党だが、掛が呼び出した顔に刺青のある元幹部・茶山(浅野忠信)を中心に一大勢力へと膨れ上がり、制御不能の大暴動に発展。鎮圧を命じられた掛の前に、思いがけない助っ人も現われ、想定外なクライマックスへ雪崩れ込む。
狂気を感じさせる浅野、色香を振りまく北川に加え、ゆとり世代を代表した染谷将太も加わった腹ふり衆が、腹ふりダンスを踊りながら暴徒化していく後半の展開は、尋常ならざる熱気が溢れている。大暴動の結果、世界が壊れていくクライマックスも、インディーズ界の鬼才と呼ばれた石井監督ならでは。ハマる人は最高にハマる、世界初のパンク時代劇が誕生した。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2018年7月号掲載〉