よみがえれ青春! 大人にも沁みる部活動小説
この春、上の娘は中学校に入学した。真新しい制服に身を包み、毎日訪れる初めての瞬間を思う存分楽しんでいる彼女は、我が子ながらにキラキラと眩しい。目下の関心事は部活動で、友人たちと見学やら情報収集やらに余念がないようだ。たかが部活、されど部活。学内ヒエラルキー(と親の財布)に影響を及ぼし、その後の進路、果ては人生まで左右するかも知れない不思議な活動は、小説も数多く存在する。
『風に恋う』(額賀 澪)は、かつての名門校・千間学院高校(千学)吹奏楽部のお話だ。その黄金時代に部長でスター奏者だった不破は、輝かしい高校時代から一転、現在はほぼプー太郎。物語はそんな彼がコーチに就任し、新一年生を部長に任命するという超下克上から始まる。彼らは果たして、強豪校だった千学を取り戻せるだろうか。嫉妬も挫折も情熱も、全てを呑み込んで奏でられる演奏は、まさに青春の結晶! 頁(ページ)から聴こえる音楽に、耳を傾けて欲しい。
大所帯の吹奏楽部から一転、『ひゃっか! 全国高校生花いけバトル』(今村翔吾)は、部員一名の華道部(同好会)のお話。制限時間5分、観客の眼前で即興的に花をいけていく「花いけバトル」に魅せられた女子高生・春乃は、華道経験者だというイケメン転校生・貴音とバディとなって全国大会を目指す。家業は大衆芸能、若き花形役者という貴音のキャラクターは、時代小説を妙とする今村先生らしい艶やかさ。何ともこそばゆい彼らの距離感と、手に汗握るバトルの行方に、思う存分やきもきしよう。
『あと少し、もう少し』(瀬尾まいこ)は中学校の陸上部、駅伝チームとして寄せ集められた六人を描く。駅伝は、それ自体がドラマチックで、全員他人が走っていたってうっかり感動する競技だ。そこを、瀬尾先生が筆を尽くして、一人一人の心のうちを丁寧に描いて下さるのだから堪らない。一区ごとに深まる物語と、重みを増す襷。これはまるで全区間自分の子が走る駅伝だ。読後は彼らが流した汗と同じ、いやそれ以上の量の涙が零れているだろう。
そんな私は、高校時代は生物部だった。学園祭の出し物は鶏の解剖で、来場者からの苦情がダントツだったことくらいしか思い出がない。どうか娘には、この三作品のような煌めく青春を謳歌してもらいたいものである。