忙しくて時間がなくても読みたくなってしまう作品

『あひる』(今村夏子著)は心の底からザワザワしてしまう1冊。
書店員名前
八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店(神奈川) 平井真実さん


 最近1日の終わりが本当にあっという間で、起きてから仕事に行き、仕事を終えて自宅に帰ってきたらもう日付が変わっており、今日なにしてたっけ私……なんてこともしばしば。学生時代、あんなにもてあましていた時間はどこにいったの?

 みなさんも同じように忙しい日々を過ごしていらっしゃると思いますが、そんな中、読書の時間をどこでとっていますか? 以前は長い通勤時間を読書にあてていた私は、電車に乗ったら15分もかからないところに異動になり本を開いて数分、すぐに到着してしまって本を閉じなければならず、このまま乗ってようかな……って思うこともあります。そこをぐっとこらえてちゃんと会社に行きますが、続きが気になってそわそわして休憩が待ち遠しい……そんな中での救世主がショートショートや短編集。数ページでその世界にぐっと入って抜けてこられる作品たちなら気持ちよく電車を降りることができるじゃないか……! 長編、しかももの凄く厚い本を重いなぁとか思いながらも持ち歩いて読むのが好きだった私でしたが、これがまた素晴らしい作品が多いんです。

 ショートショートといえばいまや田丸雅智さん。デビュー作の『夢巻』で度肝抜かれまして、『夢巻』も紹介したいのですが、最新刊の『マタタビ町は猫びより』こちらがまたいい! 田丸さんの作品はどれを読んでも同じような作品がないところがビックリするのですが、今回は猫が主人公。マタタビ町に人間と共生してる猫たち。猫ポリスもいればうどん屋の大将も、郵便局の消印押しも、朝起こしてくれるのも猫。一番最後のスキマ猫には思わず涙がこぼれます。一編がとても短いので私のようなちょっとしか時間ないときにもなにか読みたい!方にオススメです。

『マタタビ町は猫びより』

辰巳出版 定価:1300円+税

 

 そして先日芥川賞を受賞された今村夏子さんの作品の中で『あひる』も日常を描いているはずなのに読み進めていくとなぜか違和感を覚えていき、心の底からザワザワしてしまうところがやみつきになる一冊。かわいいあひるの「のりたま」が家にきた一家の話、ただそれだけなのにここまで心をザワザワさせてしまう今村さんの凄さとそれを短編で描き切る凄さ、ぜひ感じてみてください。

『あひる』

角川文庫 定価:520円+税
〈「きらら」2019年9月号掲載〉
 
今月のイチオシ本【デビュー小説】
伊藤朱里『きみはだれかのどうでもいい人』