◉話題作、読んで観る?◉ 第28回「劇場」
監督:行定勲/脚本:蓬莱竜太/音楽:曽我部恵一/出演:山﨑賢人 松岡茉優 寛一郎 伊藤沙莉 上川周作 大友律 井口理 三浦誠己 浅香航大/配給:松竹 アニプレックス
近日公開予定
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デビュー作『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目となる長編小説の実写化。『世界の中心で、愛をさけぶ』『ナラタージュ』などを手がけた行定勲監督によって、演劇の世界での成功を夢見る若者たちが〝痛み〟を知ることで大人へと変容していく苦い青春映画となった。
売れない劇団を主宰する永田(山﨑賢人)は、服飾の学校に通う沙希(松岡茉優)のアパートで同棲生活を送っている。演劇に打ち込むために、生活費は沙希に頼りっきり。永田の才能を信じる沙希は、笑顔で支え続ける。
永田というキャラクターは、観ていて嫌悪感を覚えるほど自己中心的なダメ男だ。沙希に女優としての才能があることを知りながらも、劇団が軌道に乗ると起用しようとしない。そのくせ、沙希が他の劇団の舞台を観に行くと機嫌が悪くなる。沙希に重い話をされそうになると、ゲームの世界へと逃げ出してしまう。
創作に熱中するあまり、周囲を平気で傷つけてしまう永田は、原作者である又吉自身の若き日の姿であり、またこの映画を観ている我々自身でもある。自分の弱さ、才能のなさを受け入れることができず、どうしようもなく身近な人間を攻撃し、かえって卑屈になってしまう。
そんな永田のナイーブさを誰よりも理解する沙希は、菩薩のような優しさで包み込む。だが、演劇で食べていくのは容易ではない。次第に沙希は精神的に崩れてしまう。沙希の陽気さと脆さという二面性を、『万引き家族』『蜜蜂と遠雷』の松岡がきっちりと演じ分けてみせる。山﨑もこれまでのイケメンヒーローとは違った、小心者のクズぶりを好演。転機作となりそうだ。
原作で描かれていた永田が演出した舞台をどう表現するかが映画化のキモだったが、映画では演劇シーンは控えめ。その分だけ、永田と沙希との二人芝居となるクライマックスをいちばんの見せ場として、行定監督は集約して見せている。小説、演劇、映画の3つの要素が最後に重なり合う。
この物語の主人公は、永田と沙希の2人だけではない。創作の世界で生きていくことを夢見た多くの恋人たちの想いが、最後の舞台には込められている。叶わなかった想いは、松岡が泣きながら笑うことで浄化される。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2020年5月号掲載〉