朗読劇「謎解きはディナーのあとで」開演記念特別対談 伊東健人×東川篤哉×田中あいみ 第3回
シリーズ累計400万部を超える国民的ミステリー小説『謎解きはディナーのあとで』の「朗読劇」が4月24日から銀座・博品館劇場で上演中です。公演を記念して、小説丸では、原作者の東川篤哉さんと朗読劇に出演する声優の伊東健人さん、田中あいみさんによる鼎談を3回にわたってお届けします。ついに最終回となる第3回でも、興味深いお話をされています。お楽しみください。
● 第3回 ●
影山が思っていたより優しかった
東川……それにしても皆さん噛みませんよね。プロだから当然かもしれませんが、すごく滑らか。
伊東……麗子は噛んでもかわいく見えそうですが、毒舌執事の影山が噛んでしまうと……、ねぇ(笑)。もちろん本番で噛むこともありますが、そこは役者のスキルというか悪あがきというか、お客さんを楽しませる方向で乗り切ります。
東川……とっさの機転を利かせられる瞬発力がすごいですね。
伊東……実際に本番中に相手に合わせて演技を変えることもあります。他の登場人物とのバランスもあって、「今日の宝生麗子はこうきたか……ということは、影山はもう少し違うアプローチがいいな」と思うこともあるし、本番中にキャラクターが自然に動き出して変わることもあります。それがどうなるかは当日までわかりません。
田中……麗子を演じる時は、たぶん麗子を中心に他の方がどうしようかなと考えてくれるので、「私はこういう感じで麗子をやりたいです」と提示します。でもある時は、影山が思っていたより優しくて「これ以上強く言うと麗子がかわいくなくなる」となったことがありました(笑)。その時は本番で違うアプローチに切り替えました。
東川……アドリブもありますよね。明らかなアドリブもあれば、アドリブのような芝居もあり、「どこからどこまでがアドリブなんだろう」ってとても不思議です。
伊東……そこは役者としてはバレたくないところ(笑)。アドリブに見えるけど台本ということもあれば、本番中に本当にセリフを変えることもあります。
同世代の声優による言葉のキャッチボール
東川……今回はたとえば影山を何人かの声優さんが演じるわけですが、お互いに意識し合う部分もあるんじゃないですか。仲間でもあるしライバルでもあるだろうから、そういう人たちがひとつの役を自分なりにやっていくと競争もあるだろうし、比較されるプレッシャーもあるでしょうね。
伊東……そうですね。どうせなら自分の影山がいちばん魅力的だったと言われたいです。
東川……それはそうでしょう。同じ役をやるんだから、自分がいちばんうまいと言われたいはず。その意味では過酷かもしれない。
伊東……はい。ただそれはみんなが前提として思っていることなので気にしていません。「お前の風祭すごくよかったな、チクショー」と言える間柄でもありますから。
今回は世代的に近い役者が多いので和気藹々としていて、お互いに話しやすいし意見も言い合いやすい環境です。そういう意味では肩ひじを張らず、楽な気持ちで舞台に臨めますね。
田中……私も共演者はある程度お話をしたことのある方ばかりなので、変な緊張やプレッシャーはなく、4人で一つの作品を作ろうという基本のテンションは変わりません。先輩も後輩も同期もいるのでとてもやりやすい。いちばん上でもないのでちょっと頼ったり寄り添ったりもできるし、後輩の男の子のことを先輩として引っ張ってあげられる。いろいろなことを考えることもできます。
伊東……先輩とやる朗読はまた空気が違いますからね。今回は年齢が近いなかでのキャッチボールです。今回の台本には若者言葉の時事ネタがありますが、それを20〜30歳離れた人とやりとりするのと同じ世代同士でやるのはまったく違います。そういうところに世代の近さによる会話の面白さが出ますね。
本を持って朗読する文化を伝えたい
伊東……こちらから先生に質問なのですが、ズバリ次回作のご予定は?
東川……編集者からも言われていますが、具体的なことはまだ……おいおいで(苦笑)。
伊東……スピンオフとか、異動後の風祭警部の物語なんかも読んでみたいですね。
田中……毎回、複雑な仕掛けや設定をどう考えるのですか?
東川……僕の場合、ひとつのアイデアからできているんです。謎解きに使えるような小さなアイデアがあって、そこから発想を広げていった結果がああいう話になります。今回の朗読劇も同じですが、ミステリーとして謎解きを味わうためいろいろな伏線を張っています。影山による解決編を聞きながら、「あれが伏線だったのか」と膝を叩いていただけると原作者としてはこの上ない喜びですね。ミステリーを楽しんでもらえればと思います。
伊東……僕がこの朗読でいちばん好きなのは、お互いに罵声を浴びせていて、会話がキャッチボールというよりドッジボールに近いことです(笑)。そうした会話でキャラクターの魅力が構築されていくのが面白い。ミステリーとして笑いながら考えてもらいつつ、魅力あるキャラクターの会話劇を楽しんでいただければと思います。
田中……演者が4人いて、見ているお客さんがいてという“ナマの空気感”を味わいに来ていただけたら。完全に計算されたアニメやラジオとも違い、声優とお客さんがみんなで一つになる空間を楽しみたいですね。
伊東……あとは声優という職業柄、本を持って朗読するという文化が伝えられればとも思っています。日本人は小学校の頃から本を片手にして読んでいます。今回の朗読劇はその延長線上の最終的なところにある。そうした朗読の楽しさも伝えられるといいですね。
*鼎談連載はこれで終わりです。お読みいただきありがとうございました。
伊東健人(いとう・けんと)
声優。東京都出身。主な出演作品に「THE iDOLM@STER SIDE M」「ヲタクに恋は難しい」「機動戦士ガンダム サンダーボルト」「新・あたしンち」「マギ シンドバッドの冒険」「パンチライン」「銀魂」「俺物語!!」などがある。趣味は作曲、ギター、ドラム。
東川篤哉(ひがしがわ・とくや)
1968年広島県生まれ。2002年デビュー。11年、『謎解きはディナーのあとで』で第8回本屋大賞第1位。著作に『放課後はミステリーとともに』『探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて』『魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?』などがある。
田中あいみ(たなか・あいみ)
声優。東京都出身、神奈川県育ち。2016年、第10回声優アワード新人女優賞を受賞。主な出演作品に「つうかあ」「干物妹!うるまちゃん」「わしも WASIMO」「ピカイア!」「アクティヴレイド -機動強襲室第八係- 2nd」などがある。特技はギター弾き語り。
▼ニッポン朗読アカデミー 朗読劇「謎解きはディナーのあとで」公式サイト
http://rouacastage.com/
▼原作小説「謎解きはディナーのあとで」(東川篤哉 著)特設サイト
http://www.shogakukan.co.jp/pr/nazotoki/