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今月飲むのを我慢して買った本

麻耶雄嵩さんの『神様ゲーム』は、「イヤミス」なる単語が
冗談に思えるほどの衝撃と後味の悪さで息苦しくなる。

今井書店吉成店(鳥取)高木善祥さん

 のっけからすいませんが、普段はほとんどお酒を飲まない(但し嫌いではない)ので、「新製品が出たら片っ端から試しているコンビニスイーツを我慢して買った本」というお題で紹介いたします。

 まずは麻耶雄嵩さんの『神様ゲーム』。舞台は小学校。探偵役の鈴木君は自らを「神」と言っているので、間違えることは絶対にありません。鈴木君は神様なので、罪を裁き罰を与える立場でもあります。

 という、このよく分からない説明でもし興味を持たれたのなら、ぜひ手に取ってみてください。「イヤミス」なる単語が冗談に思えるほどの衝撃と後味の悪さで、読後本当に息苦しくなりました。そして何より、単行本刊行時は、子供向けの読み物として発売した著者と編集者の腹黒さに完敗です。

 書店を舞台にした小説はほっこりしたハッピーエンドな作品が多いかと思いますが、詠坂雄二さんの『遠海事件 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?』は違います。特に目立つ存在ではないけれど、勤務先の書店ではその穏やかな性格でお客様やスタッフにも信頼され、店長を任されている主人公。しかしその実態は、後に86件もの犯罪を自供した殺人鬼だった! 殺害計画も証拠隠滅も完璧。只一つの例外、「遠海事件」を除いては……。フェイクドキュメンタリーな手法で淡々と語られることで、その猟奇性と、犯人の頭の中の論理的な一貫性が一層際立ちます。

 最後は趣向を変えて時代小説をご紹介。野口卓さんの『ご隠居さん』の主人公は、鏡磨ぎ師の梟助じいさん。昔の鏡は銅製なので、半年くらいで曇ってしまうため、鏡磨ぎ職人が得意先を廻っていたそうです。確かな腕と人当たりの良さで、旗本から市井の町人まで様々な階級の家に出入りし、求められればちょっと面白い話を披露しつつ、持ち込まれた相談事もスマートに解決。落語をモチーフにした作品を中心に、人情ものに法螺話、ホラーっぽいものも取りそろえた連作短編集。話し上手で聞き上手だが、自身の過去は語らない梟助じいさんの正体が、最後の最後で明かされます。鏡磨ぎを続ける理由をここで書いてしまうのは野暮ってもんです。ぜひご一読を。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

虚実を絶妙にブレンドし、物語に味付けをした門井慶喜さんの
『東京帝大叡古教授』は、シリーズにならないかな。

紀伊國屋書店ゆめタウン徳島店(徳島)朝加昌良さん

 ベストセラーや注目作の情報は瞬く間に全国に広がり、結果、ランキングの上位にはどこでも同じような本が並んでしまいがちな昨今。

 しかし、30位前後なら特色が出てくる。

 当店のランキングを見て、まず目についたのが、阿部智里さんの『黄金の烏』。

 およそ1年ほど前に発売されたこの本が、今ランクインしているのは、シリーズ2作目が文庫になった影響だろう。こちらは八咫烏の世界を描いた、ファンタジーものの3作目。

 人の姿から烏の姿に変化できる民たち、それを治める王族。魅力的な世界設定と、王朝謀略ものとしての面白さに、ファンがじわじわと増えているシリーズだ。

 シリーズものでいえば、こちらは発売間もない、誉田哲也さんの『武士道ジェネレーション』にも注目だ。

 過去3作では、高校生の剣道少女たちの、熱き青春が描かれてきた。その6年後が本作の舞台だ。

 結婚を経験したり、師事していた先生の体調悪化によって道場が閉鎖の危機に陥ったりと、取り巻く環境も年相応に。

 でも、彼女たちの芯の部分は変わらない。シリーズを通して読んできた人ならば、なんだか同窓会に出て、変わったようで変わらない友人たちに再会したような心持ちになるのでは。

 さて、最後に紹介するのが門井慶喜さんの『東京帝大叡古教授』。

 こちらは直木賞の候補になり、残念ながら受賞を逃したためにこの順位にいるが、本来ならもっと上位に来てもよい作品ではなかろうか。ミステリーと、歴史ものの融合。

 ただ、本作のよさは、歴史的な事実そのものに焦点を当てて主題を作る、という手法を選ばなかったことだ。

 虚実を絶妙にブレンドし、人物や事件をうまく絡めるが、それらは物語のよき味付けであり、いわば、顔を出すことで観るものをにやりとさせる、名脇役のようなもの。作者が、読者を楽しませようとしてくれているのがとてもよくわかる。

 根強い人気を得ているためか、シリーズものが目立った、当店のランキング。

 叡古教授もシリーズに……ならないかな。

私はこの本を1日1冊1すすめ

宮下奈都さんの新刊『羊と鋼の森』は、主人公の外村君が先輩のそばで腕を磨き、常に考える姿勢にハッとします。

文教堂北野店(北海道)若木ひとえさん

 宮下奈都さんの新刊『羊と鋼の森』をぜひ読んでください。羊毛製のハンマーが鋼の弦を叩く、これがピアノという楽器。ピアノのこと、調律のことはわからなくても、存分に楽しむ方法があります。それは静かな場所でゆったりと読み耽ることです。

 読み進めるうちに北海道の景色やピアノの音色が頭の中に溢れてきます。

 主人公の外村君は十七歳の時、調律師の板鳥さんに出会いました。彼の調律によって音の景色を鮮やかにはっきりと感じた外村君は弟子にしてほしいと願いますが、専門の学校で勉強することを勧められます。

 卒業後は板鳥さんの勤務する江藤楽器店に就職することができましたが、コツコツと努力しても不安な日々です。

 そんな中、和音・由仁という双子のピアノを調律します。そして、喜びや悲しみは紙一重だということを知ります。先輩のそばで腕を磨き、常に考えるその姿勢にハッとします。徐々に膨らむ感情の昂ぶりを肌で感じ取ってください。

 読むことで得られるもの、それはひとつやふたつではありません。自分の糧となる元気、勇気、希望、未来それらの種を心に蒔く作業です。全力でお薦めします!

 続いて、北海道在住まさきとしかさんの新刊『きわこのこと』です。貴和子という女性に関わった人たちの五章から成る短編集。

 三面記事が各章の冒頭にあり、なぜこのような事件に至ったのか、貴和子とは何者なのか。読んでいくうちに彼女に関わった人たちによって年を重ねてゆく様子が見えてきます。

 一方、記事の年月日は遡るように配置されています。最後まで読むとそこにはひとつの記事があり、これはミステリーだったのだと知ることになります。それまで見えていた登場人物の違う顔を発見することになります。

 最後は『東京帝大叡古教授』が直木賞候補となった門井慶喜さんの新刊『新選組颯爽録』です。

 物事の価値が激しく変わったこの時代、幕府の浪士募集に応じ京都へ向かう男達がいました。後に新選組と呼ばれる彼らです。その青春を、その運命を、颯爽と生きました。

 新選組のファンこそ読んでいただきたい一冊です。

 

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