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今月飲むのを我慢して買った本

一人きりの読書のはずが、思いがけず贅沢な女子会に参加したような気分が味わえる女性作家さん達の3作品。

オリオン書房ルミネ店(東京)長澤麻央さん

 ビールがおいしい季節になりましたが、お仕事終わりの一杯の誘惑に負けないくらい魅力的な本をご紹介します。

 1冊目は川上未映子さんの『愛の夢とか』。明るく輝くような、それでいて胸がぐっとつまるような不思議な雰囲気が漂う短編集です。

 登場人物は主に「ふたり」。アイスクリーム屋の店員と客、主婦と隣家の老婦人、14年前に約束を交わした男女。さまざまな「ふたり」が一瞬きらりと交わったり、永遠に固く結ばれたり、ときには「ひとり」になったりする。その様子は悲しくておかしくて、そして愛おしい気持ちに必ずなれます。何度も繰り返し噛み締めたい7篇です。

 2冊目は松田青子さんの『スタッキング可能』。とあるオフィスを舞台に、匿名性の高い登場人物たちがそれぞれに苦悩しながら働く様子がリアリティとユーモアたっぷりに描かれています。

 言葉選びや言い回しに何とも言えない「今っぽさ」があって面白く、くせになる読み心地。松田青子さんはこれからの作品を本当に楽しみにしている作家さんのひとりです。 

 最後は本谷有希子さんの『自分を好きになる方法』。ある女性の16歳、28歳、34歳、47歳、3歳、63歳の1日を切り取って、彼女の一生を描いています。

 怠惰で不器用で自分に甘くて、一体どこで間違えてしまったの? と後悔ばかり……。そんな誰にでも重なる部分のありそうな主人公。

 その一生には、周りの人たちとの「ズレ」が生み出す後悔と寂しさがあちこちで渦巻いています。

 けれど彼女はいつも、次こそ、今度こそ、明日はきっと、と「うまくやっていく」ことを決して諦めません。後悔の後の小さな希望に励まされました。

 今をときめく女性作家さんならではの感性で生み出された3作品。女友達とカフェでお茶をしながら話すような気軽さもあり、あこがれの先輩からアドバイスをもらったような緊張感もあり。

 一人きりの読書のはずが、思いがけず贅沢な女子会に参加したような気分を味わえたのでした。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

じんわりと心に効くハーブティのような優しさに溢れている、人気脚本家による『昨夜のカレー、明日のパン』。

丸善お茶の水店(東京)横田陽子さん

 売れ行き30位前後に長期間ランクインしている本というのは、派手さはないものの、じっくり読ませ、じっくり心に染み込む、噛めば噛むほど味が出るスルメ(?)のような、そんな趣に満ちたステキな本ばかりだと思います。

 まずは、木皿泉さんの『昨日のカレー、明日のパン』。

 人気脚本家による初めての小説です。

 何気ない日々の暮らしの中にこそ、かけがえのないものが溢れていて、そんな日常がいかに大切なのかということをさりげなく気づかせてくれる。じんわりと心に効くハーブティのような優しさに溢れています。

 これからいろいろな作品が読みたいなと思わせてくれる、とても楽しみな作家さんの登場です。

 そして、小川洋子さんの『いつも彼らはどこかに』。動物をテーマにした短編集なのですが、そこは小川さん。

 ありきたりな動物小説ではなく、とりあげている動物もチーターだったり、蝸牛だったりと一風変わっています。

 そしてちょっとファンタジックな小川ワールド満載です。

 小川さんの作品は、どれも読めば心安らかになり、まるで透明度の高い湖のような静けさに満ちていて、なんだか自分が深窓の令嬢(笑)にでもなったような、そんな凛とした気持ちにさせてくれるのです。

 最後に椎名誠さんの『ぼくがいま、死について思うこと』。

 三人のお孫さんを持つお祖父ちゃんになられた椎名さんは、今年69歳。

 今までいろいろな死や別れに遭遇してきた日々を振り返りつつ、自分の最期についても思い描くような年齢に差し掛かり、死や生きることへの思いを一冊にまとめたのがこの本です。小説ではないのですが、人生論のような堅苦しさはなく、椎名さん流の語りの中に、亡き友への思いが溢れていて、読みながらなぜか胸の奥がざわざわしている自分に気づきます。

 椎名さんの小説と出合ってからこの四半世紀に思いが飛び、時の流れの早さに狼狽しつつ、改めて椎名誠という作家の懐の深さに感服した次第です。

私はこの本を1日1冊1すすめ

畑野智美さんの走り抜けるような青春小説『海の見える街』は、海の見える街へと足を運びたくなる爽快な一冊。

明正堂アトレ上野店(東京)櫻井邦彦さん

 暑い夏! なぜか青春時代を思い出す。皆様、今年の夏はいかがお過ごしでしょうか? そんな夏にお薦めの三冊を紹介します。

 青春していたあの頃もひと夏と同じように、あっという間に過ぎていきました。そんな、十代を思い出させてくれる小説が、瀧上耕さんの『青春ぱんだバンド』です。早く大人になりたくて、だけど気持ちばかりが空回り。同世代の女の子が大人びているような気がしていた。そんな甘酸っぱい青春を感じて下さい。

 この小説は、青春の壁にぶつかったモヤモヤが原動力になっていて、笑う所もいっぱいですが、線香花火が落ちる瞬間や秋の空模様のような夏の終わりを感じさせるセンチメンタルも詰まっています。では、ぱんだバンドと共にあの夏を思い出して下さい。

 次は、サスペンスホラー! 秋吉理香子さんの『暗黒女子』というタイトルにも驚きましたが、さて、文学サロンにお集まりの皆さん、今日のテーマは、「いつみの死」です。なんて言われただけでも、ゾワゾワしませんか。この一人の女生徒の死の真相を巡り、闇鍋・朗読会が始まります。文芸サークルというだけあって、どの作品も核心に迫っているのではないか? と考えてしまう推理と告白劇。そして、暗闇の中、皆がどんな顔をして参加しているのか、少しずつ背筋に冷たいものが走ります。気がつけば物語は淡々と進み、サークル解散の時間となります。美しいものには毒がある。そんな気高さと暗黒部分を堪能して下さい。ゾクッとして夏の暑さも和らぐかもしれません。ただ、女子って怖い。では、皆さん、ごきげんよう……。

 最後の紹介は、畑野智美さんの『海の見える街』です。図書館に勤務する四人の男女それぞれの視点で描かれた四編の青春物語。また、各章ごとに小動物が登場するのも特徴です。様々な悩みや過去、淡い恋心を抱えこみながら、少しずつ変わっていく。そんな四人の関係に注目して下さい。私は、男性陣、松田君の内面も気になりましたが、優柔不断、言動が軽すぎる本田君には、他人とは思えない心境になりました。そして、第一章のタイトルにもなっている、マメルリハ。この青い鳥の行方は……!? この走り抜けるような青春小説は、海の見える街へと足を運びたくなる爽快な一冊です。ぜひ最後まで読んで下さい。


 

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