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今月飲むのを我慢して買った本

2005年の『さくら』との出合いから、作品を読み漁ってきた西加奈子さんの『サラバ!』は、衝撃的だった。

立命館生協ブックセンターふらっと(京都)山西尚子さん

 本を読む時のいちばんの幸福とは、読み終えるのが惜しくて大切に大切にゆっくりと読み進めたい本に出合った時。このひとときを共有出来る喜びにたじろぎつつも、愛おしさにどうしようもなくなる。

 梨木香歩さんの『海うそ』は、自然を讃えた昔の人の姿と現代の有り様のコントラストが衝撃的な物語だった。

 その小さな島には、豊かな自然と人々の温かさ、簡素な暮らしがあふれていた。その確かだったものが変わり果てていく様子を切なく、悲鳴にも似た気持ちで語っている。

 この喪失感は、私たちの太古からつながる生命と歴史を改めて見つめさせる。恐れと共存していた時代との惜別は、私たちに何を語りかけるのだろう。忘れてはいけないものとはなにかを問い続けるのだ。

 西加奈子さんの『サラバ!』は、衝撃的だった。2005年の『さくら』との出合いから彼女の作品を読み漁ってきた。

 ちょっと不思議な感覚と、エトランゼ的な登場人物たち。彼女の作品は、大抵の場合、主人公たちに試練が与えられる。

 この物語も読み進めるのがしんどくなるほど、様々なことが起こり、その激流は主人公を呑み込んでいく。

 生きることとは? しんどくても切なくても生き続けていく。その意志の力を感じながら、怖いのは見失うことではない。諦めてしまうこと。いつだって取り戻せる、再生できると信じたいのだ。

 三浦しをんさんの『風が強く吹いている』は、好きが高じて、映画だけでなく舞台も見てしまった作品。走るという高揚感、古き町並みや山間を駆け抜ける孤独感、激しく努力したものだけが到達できる高みをめざす青年たち。最初からすべてがうまく行くわけでもなく、多くのためらいといらだちの嵐がある。そこから生まれる信頼は固いものとなる。

 注目は10人のキャラ立ちがとてつもなく素敵に楽しめること。「1位でない努力は無価値なのか」と悩みながらも、一人ひとりが「強く」あることを目指す。最後は、いろいろなことをふっ飛ばして爽快感のみ。ゆっくり読み返したくなること請け合いです。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

加藤元さんの『泣きながら、呼んだ人』を読んであることに気づき、心の結び目がほどけたような気がしました。

喜久屋書店小樽店(北海道)渡邊裕子さん

 私が住む坂と雪の街、小樽。

 日々の生活を送る人にとっては、ヘトヘトになる街ですが、この街に暮らす人たちは、元気で優しい。

 そんな街にあるのが、私が働く本屋です。

 土地柄でしょうか。ホットでパンチの効いた小説が、当店では売れています。

 最初に加藤元さんの『泣きながら、呼んだ人』。愛や悲しみ、反発を抱え込んだ4つの家族の物語です。

 母親と過ごした時間は、自分の時間であったけれど、母親の時間でもあったはず。

 同じ場所にいながら、違う景色の中にいたのだから、惜しみなく与えられた愛も、受け損なった愛も、違う景色の中の出来事だと気づいた時、心の結び目がほどけたような気がしました。

 続きまして、瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』です。

 田舎で生徒数が少ない陸上部。やっとメンバーを集め、チームを作り、中学生最後の駅伝大会にのぞむ陸上部部員たち。

 複雑で救いようのない自分自身も、人間関係も、本当はすごく単純なものだということを寄せ集めのメンバーの葛藤と成長を通して理解することができました。

 任される、たすきを繋いでいく、たったそれだけ、生きていくことって、それだけでいいんですね。

 後ろを振り返り、前を見て、あと少し、もう少し、とはずみをつけていけば、何かができるような気がしてきました。

 最後は、西川美和さんの『永い言い訳』をご紹介します。

 幸せの意味をはき違えていた愚かな主人公は、他者との関わりの中からあることを理解していくのです。

 生きるとは愛されなければいけないこと、見失ってはいけないこと、みくびってはいけないこと、「あの人」がいるからと思えること。

 物語の中に自分の愚かさが炙り出されているようで、恥ずかしくなりました。  ヘトヘトになっても、本を読むと、元気をもらって、また頑張れます。

私はこの本を1日1冊1すすめ

心がささくれだったりする時に読み返したい、森林浴やアロマセラピー効果のある、乾ルカさんの『森に願いを』。

夢屋書店アピタ初生店(静岡)伊東佳子さん

 もしも一日だけ自由な時間ができたならば、貪るように本を読んでいたいと願う今日この頃です。

 そんな私の一番好きなジャンルは、ミステリー。ここ最近のイチオシ、薬丸岳さんの新刊『Aではない君と』を紹介します。ある日突然、中学生の息子が殺人の容疑者として逮捕されます。父親である主人公の苦悩や葛藤が、同じ世代の子を持つ私にも伝わり、胸が苦しくなりました。

「普通に愛情を与えて育てていれば、人殺しなんかにはならない」。そう、なるはずは(が)ない。でも、こういう悲劇はなくならないんです。

「子供を愛すること。そしてその愛情を、子供にどう伝えていったらいいのか」その難問の答えを導く鍵が、この作品にはあると思います。

 犯罪をテーマにし、向き合ってきた著者の集大成ともいえる作品だと思います。ぜひ読んでみてください。

 本を購入する際、装丁に惹かれることもしばしば。乾ルカさんの『森に願いを』もその一冊です。でもこの可愛い外見に反し、中身はちょっぴりビター。七編からなる短編集ですが、登場人物はみなそれぞれに悩みを抱えています。そんな悩める人々が引き寄せられるように迷い込む小さな森。そこにいる不思議な森番の青年との会話を通して、少しずつ笑顔を取り戻していきます。悩みは解決する訳ではありません。

 なぜなら、解決の糸口は自分自身の気持ちだったり、心構えだったりするから。心が沈んでしまったり、ささくれだったりする時に読み返したい、私にとっては森林浴やアロマセラピー効果のある、そんな作品です。

 最後に紹介するのは、小川糸さんの『あつあつを召し上がれ』です。大切な人と行った場所と、その時一緒に食べた物の記憶の結び付き。それはふとした時に思いがけず、記憶の底から浮かび上がり、時に切なさを連れてくることも。この作品を読んでいると、懐かしい人との大切な思い出が、記憶の引き出しから出てくるのです。

 出てくる料理の描写がどれもおいしそうで、時にはひんやり、時には湯気まで文面から沸き立つよう……。おなかが空いてしまうこと必至なので、空腹時には決して読まないでください。

 

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