今月飲むのを我慢して買った本
ラストはハッピーエンドとはいえないが、すがすがしい気持ちになって読み終えた、 藤岡陽子さんの『闇から届く命』。
大杉書店市川駅前本店(千葉)鈴木康之さん
大好きなお気に入りの作家さん3人の新刊が、立て続けに出て嬉しい悲鳴を上げてしまいました。ミステリー仕立ての3冊をご紹介します。
まずは、私が初めて読んだ作品『トライアウト』が文庫になったばかりの、藤岡陽子さん『闇から届く命』です。
現役の看護師でもある藤岡さんが初めて書いた医療サスペンスミステリーなんです。産婦人科病院で起こるリアルな医療サスペンスで、実際にあってもおかしくない内容でした。
産婦人科病院に勤める助産師・有田美歩がさまざまな現場の出来事を経験する描写を通して、命の尊さや出産の大変さがよくわかりました。ラストはハッピーエンドとまではいえませんが、すがすがしい気持ちになって読み終えました。
やはり現役の看護師だからこそ書ける作品だと思いました。
そして次は江戸川乱歩賞作家でずうっと読み続けており、『悪党』が特に好きな作家・薬丸岳さんです。いつも新作が出ると楽しみで仕方がありません。最新刊は『誓約』です。娘と妻と平穏な暮らしをしていたバーテンダーの向井に、過去の約束を果たすように促す一通の手紙が届きます。「あの男たちは刑務所から出ています」。約束とは何か。全てがわかった時は、ものすごく驚き衝撃がすごかったです。
一度罪を犯した人は幸せになってはいけないのか。償いとは。薬丸さんお得意の作風でファンならずとも読んでいただきたい小説です。
最後は以前に発表された『熱望』を読んでファンになってしまった水生大海さんの作品をご紹介します。最新作『冷たい手』は二十年前に起きた少女連続行方不明事件で生き残った女性の視点で描くサスペンスミステリーです。
被害者とわかったところからのストーリー展開にわくわく感がおさえきれませんでした。
ラスト近くで意外な、まったく予想していなかった犯人がわかった時の衝撃は計り知れないものがありました。警視庁に勤める眞沢が恋人の幸子の素性がわかった時も衝撃的。もう一度読み返したくなるストーリー展開の小説です。
以上、3作品を紹介しましたが、どの作品を読んでも感動間違いなしです。そしてそれぞれの作家さんの別の作品も読みたくなることを期待しつつ、これで終わりにします。
当店の売れ行き30位前後にいる小説
志坂圭さんの『滔々と紅』は新人賞の作品だということを感じさせないほどの文章力で、次作が楽しみで堪りません。
文華堂湘南台店(神奈川)駒野谷愛子さん
世の中では、毎日たくさんの本が生まれています。その中で自分が面白かったと思える本に出合えるのは、奇跡だと思います。
ここではその奇跡のうちの3冊をご紹介します。
まずは柚木麻子さんの『本屋さんのダイアナ』です。
この作品は2015年本屋大賞にノミネートされたもので、本屋さんの話なのかと思いきや、生まれも育ちも対照的な2人の少女の友情と成長の物語です。
少女たちの繊細な心理描写にキュッと胸がしめつけられ、昔の友人に会いたくなってしまいました。女の子の友情も素敵だなって思えますよ。
本屋大賞というと大賞作品だけが注目されがちですが、ノミネートされた作品はどれも本当に面白いので、ぜひ読んでみてほしいと思います。
次は志坂圭さんの『滔々と紅』。
口減らしのために吉原に売られた娘・駒乃。この駒乃、幾度となく酷い目に遭っていくのに、飄々として全く堪えないんです。
その図太いキャラクターで生き抜いていく様子に、愛しさを感じるとともに、力強さを分けてもらえます。
吉原という閉ざされた独特の世界を堪能できるのも魅力です。
この作品は「本のサナギ賞」という新人賞で大賞をとった作品なのですが、新人賞の作品だということを感じさせないほどの文章力なので、次回作が楽しみで堪りません。
最後は夢枕獏さんの『大江戸釣客伝』。この本は松本大洋さんの表紙イラストに惹かれてつい買ってしまった本なのですが、読んでみたらあまりの面白さに、誰かに薦めたくて居ても立っても居られなくなりました。
釣りに憑かれた男たちの話で、人間の愚かさや儚さとともに、好きなことに没頭する登場人物たちの鼻息まで聞こえてきそうなリアルな存在感を覚えました。
水戸光圀や吉良上野介など豪華キャストが登場してくるところも堪りません!!
みなさんもぜひ本屋さんに足を運んで、あなたの奇跡の一冊を探してみてください。
私はこの本を1日1冊1すすめ
彩瀬まるさんの『桜の下で待っている』は、大切な人が大事にしているものを、 自分も大切にしたいと思える一冊です。
紀伊國屋書店グランフロント大阪店(大阪)山本菜緒子さん
本を読むことで感じる喜びの一つに「共有する喜び」があります。私の手にあるこの本を、「誰か」も手にとっている。そこから何を感じて何を思うかは、きっと人それぞれ。あの人だったらどう読むかな、と想像するのも愉しくて、いいなと思った部分が重なるとうれしい。だから本をおすすめするときはいつも期待でわくわくしてしまいます。
最初の一冊は彩瀬まるさんの『桜の下で待っている』。一人暮らしする祖母に会いに。婚約者の実家へ挨拶に。さまざまな理由で新幹線に乗る5人と彼らをとりまく人々の物語。身近な人とでも、普段は意識しないふるさとの話をするときは、すこし照れくさくてむずがゆい気持ちになる。
それはきっと話す方も聞く方もこれまでの関係から一歩踏み出す、ちょっと勇気のいることだから。意外な過去があったり、知らない顔を見たり、楽しいことばかりではないかもしれないけれど、その先で築く関係は今まで以上に優しく愛おしいものになる。大切な人が大事にしているものを、大切にしたいと思える一冊です。
王城夕紀さんの『マレ・サカチのたったひとつの贈物』は、人が出会う意味を考えさせられる物語。「量子病」に侵された主人公・坂知稀。身体が意志とは関係なく解けて、まったく別の空間でまた収束する。世界中に跳び落ちて、出会いと別れを続ける運命を、彼女はどう受け止めるのか。読み終えたあと、無性に誰かに会いたいという気持ちが湧き上がってきました。
最後の一冊は北村薫さんの『太宰治の辞書』。落語家円紫さんと、「水を飲むように」本を読む《私》が日常のふとした瞬間ににじみ出る謎を解いていくシリーズの一七年ぶりの新作。心の奥底まで見通す円紫さんの優しいまなざしと、何でもない日常の風景を美しく捉える《私》の感性。
作中でも一七年の歳月が流れており、懐かしさの中にも降り積もった言葉と時間を感じます。互いに齢を重ねた主人公と友が、まだ出会う前の思い出を語るシーンではっとする。読み継がれることで本は時を超え、過去の自分や友人とも「共有」できるのだと気づきました。
この素敵な本たちを、あなたにも「共有」していただけたらと願いながら。
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