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今月飲むのを我慢して買った本

大島真寿美さんの『あなたの本当の人生は』は、自分も物語の一部になりながら大島さんの頭の中を旅する気分。

明林堂書店鶴見店(大分)後藤良子さん

 たまたま手にした本が「あたり!」と思えた時の嬉しさは読書の楽しみの一つだと思います。そんな経験をされた方も沢山いらっしゃると思います。私は今ちょうどその喜びに浸っている真っ最中です。

 出合ったその本は木地雅映子さんの『あたたかい水の出るところ』。

 文庫の帯の「あ〜、ほぐれるう。温泉、最高!」の文字が、自宅に風呂があっても銭湯(=温泉)に入りに行く湯の町育ちの私の目に飛び込んできます。

 ゆったりほんわかした物語が展開するのかと思いきや、主人公柚子の置かれている環境はかなり厳しく「温泉があれば生きていける」というのは、それがなかったらどうなっているのかと不安になるほど。

 それでも「この惑星を網の目のように巡るあたたかい水の流れ」は柚子を守り癒し新しい出会いをもたらしてくれる。ああ、とてもいい。日常に普通にある温泉ですがとても誇らしい気持ちになります。木地さん、素敵な物語をありがとうございます!

 気持ちが温まったところで、大島真寿美さんの『あなたの本当の人生は』を。

 作家とその秘書と作家志望の娘の三人の「書く」女の物語です。人はなぜ物語を書いたり読んだりしたいのだろう?

 猫のチャーチルと絶品のコロッケを携えて、自分も物語の一部になりながら著者の大島真寿美さんの頭の中を旅する気分でした。作者と読者が共に物語を紡いでいく、そんな幸せに包まれます。

 その物語を紡ぐという作家への扉を開いた方が『ハガキ職人タカギ!』でデビューの風カオルさん。

 クラスではイケてない高校生の高木君は、あるラジオ番組の常連ハガキ職人としては少しは知られた存在。ネタに対してのストイックさと出てくる下ネタぶりにクスっとさせられます。学校とラジオと二つの世界をまたいで迷ったり悩んだりの爽やかな青春です。

 そして実は風カオルさんは地元・大分に在住の方なのです。これはもう応援しない訳にはいかないではありませんか。できれば地元を舞台にした物語も読みたいです。

当店の売れ行き30位前後にいる小説

ああ日本人で、本当によかった! 上橋菜穂子さんの新刊が出たら真っ先に読めることに、心から感謝しています。

宮脇書店本店(香川)藤村結香さん

 ああ私、日本人で本当によかった。上橋菜穂子さんの作品を読める、ということに心から感謝したいです。『鹿の王』というタイトルには、この物語の一言一句に込められた作者の思いが全て詰まっています。

“謎の奇病”を中心に、命をテーマとした壮大な物語です。主人公のヴァンは、妻子を亡くし、兵士軍団〈独角〉の頭として戦い、仲間を全て亡くし、死に場所を探し続けてきたような男です。なぜ自分一人が生き続けているのかと苦しんでいた彼が、ユナという守るべき存在に出会い、さらに家族のように迎えてくれる人々にも巡り合え、何かが変わっていきます。

「人間にとっての“幸せ”とは何か」を考えさせられ、読み終えた後は感動で震えが止まりませんでした。  蝉川夏哉さんの『異世界居酒屋「のぶ」』は、いわゆる「なろう系小説」です。ライトノベルは紹介しないでと、どうか言わないでください。

 この小説は出た時から「絶対一般向けにも売れる!」と思い、見事その予想が当たった作品なのです。

 なぜか異世界に繋がっている居酒屋に来る客は、衛兵やらギルドマスターやらゲームから飛び出してきたような人々ばかり。

 私達にとっての「当たり前のご飯と酒」が、彼らにとっては「未体験で極上の美味い飯と美酒」になるのが新鮮で、その描写が丁寧なので彼らが美味しそうに食べるたびに、口の中に唾が溜まっていき……、食事の前にお読みになることをお勧め致します(笑)。

 2015年映画公開決定の川村元気さんの『世界から猫が消えたなら』を読んでいない方は、文庫化されたこの機会に是非ご家族でお読みになってはいかがでしょうか?

 ごく普通の青年が余命宣告を受けた後、陽気な悪魔によって「この世から1つだけ“何か”を消せば、そのかわりに1日だけ命が延びる」という取引を持ちかけられる物語。悩む主人公はどうしていくのか? 

 この物語はある意味、究極の「終活」だと思います。大切なものを消していくことで、本当に大切なことに気づかされる。これは決して“死”を軽んじている物語ではなく、読み手の心に温かい“生”の素晴らしさを伝えてくれる作品でした。

私はこの本を1日1冊1すすめ

「夢も弾ける時がくる」と誰も感じたバブル期の様子がありありと書かれている柚木麻子さん『その手をにぎりたい』。

明屋書店ブックスユートピア野間店(兵庫)西川定義さん

 中学・高校と高知県の山奥で寮生活をしていました。テレビやラジオは見られず聞けず、休日はクラブ活動、学校の敷地からは出られない。ましてお金を所持してはいけない。そんな学校生活で、夜に2時間半ほど自習時間がありました。

 同世代の友達や先輩ばかりの寮で集中して勉強なんてできない、かといって机には座っていなければならない。いかにして時間をつぶすかにみんな四苦八苦していました。

 そんな時、僕が出会ったのが星新一さんの『ボッコちゃん』。中学1年生の5月、新入生との親睦を深めるための足摺岬への一泊旅行で、友達が持っていたのを無理やり借り、その世界にどっぷりつかってしまいました。

 もともと大人相手に書かれたものですから、中学生にはちょっとグロいのですが、なにせ一編一編が短い。時間つぶしには最適でした。

 親元から離れていても電話はあまりかけられません。親は、さみしい思いをさせているので、何かあったら助けたい、という気持ちでいる、そんな時に、出版社名と本の題名だけが書かれた手紙が届く。ありがたい(甘い?)親でしたので、あっという間に当時の星新一作品が届き、全て読破。読む本がなくなると、今のようにパソコンやスマホはないので、各社の出版物目録で調べ、次に何を送ってもらうかを考えていました。

 星新一から、筒井康隆や眉村卓などへ流れていき、次が赤川次郎さん。帰省中に京都の書店で見つけた『セーラー服と機関銃』、当時は主婦と生活社から出ていた本でした。映画でヒットして、赤川次郎も大人気になって、次から次へと信じられないくらい出る新刊を必死で追いかけて追いかけて。本当に、親も景気が良かったのですね。

 で、その頃、一生懸命読んでいた出版物目録が役立つ唯一の職業が書店員。初めてのバイトも書店、バイトながら社員さんより詳しくなり「歩く検索機」と呼ばれ、今に至ります。

 最近読んだ柚木麻子さん『その手をにぎりたい』は、僕も通過したバブル期の様子がありありと書かれています。「夢も弾ける時がくる」思いは誰もが感じたこと。ひしひしと、ヒリヒリと読み終えました。また追いかけていきましょうかね。

 

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